廃校
今回は短いです。体力がつきました。
「ちょっと!! 離して!」
マーガレットに担ぎ上げられた香がマーガレットの肩の上でもがく。しかしマーガレットはものすごい力で香を拘束して離すことはない。
そこにシイロが声をかける。
「ねえ、詳しい事情はもう少し安全な場所で話すから。今のところは付いて来て」
「シラナたちは? なんで君たちは僕をさらうの!?」
「それも含めて」
シイロは落ち着いた口調で香に語っていたが、内心はおだやかで無かった。
なぜこの男性は獣人という性獣にとらわれていたことを、こんなにも受け入れているのか。性獣の魔の手から救った私たちになぜ感謝しないのか?
シイロは戸惑っていた。男性を助けた後はスムーズに感謝され、シイロたちのコミュニティについてくるものだと思っていたからだ。それがまさか獣人の肩を持つなんて。シイロの「先見の明」では助けた後のことまでは見れなかった。
「じゃ、分かった」
一方香はシイロの言葉に耳を傾け、なされるがままにすることにした。香が見る限り、マーガレットたちもどうやら善意で動いているようだ。思ったよりも丁寧な扱いに香はそう感じる。
ラビたちを倒した集団についていくのは気が引けた。だからと言って善意を無下にするのも何か違うと香は感じる。だから一応マーガレットたちの言い分を聞くことにしたのだ。
その返答に対し、女性陣は驚愕の表情を浮かべる。あまりにも無防備な姿勢に、この世界の男性らしからぬものを感じたからだ。事実、香は現代日本から来たのでそれは全く間違いではない。そして女性陣は同時に、その無防備さになにか欲望が湧いてくるのを感じた。勿論それはおくびにも出さなかったが。
「じゃあ、オレらのコミュニティまで行こうぜ」
マーガレットはさも名案だというように口にする。その言葉に他の少女たちはマーガレットを殴り飛ばしたいと感じた。
何言ってんだよ!! 警戒されるだろうが! そう言ってついてくるはずがないだろうが!! 死ね! 馬鹿にゃろうが!! 来ないと言い出したらどうする!
そんなことを皆頭の中で叫んだが、もちろんそれを口に出すことはしなかった。さらに男性を怖がらしてはいけないのであくまでも心の中に留めた。
「分かった。いいよ」
しかし次に香が放った一言は、そんな彼女らが予想だにしなかったものだった。
「え、いいの?」
文脈からして男性は絶対に抵抗すると思っていたクオンは驚きの声を上げる。
「私シイロっていうの、よろしくね」
「僕は香って名前なんだ。よろしくね」
シイロももちろん驚いた。初対面の知らない女のコミュニティにほいほいとついていく男はどこにもいないと思っていたからだ。
しかしその驚愕の刹那、シイロは考える。この男性は警戒心がほぼ無いと言っても良い。ならば今ここで私がいきなり自己紹介しても、この男性は「なんだこの女キモっ」と思ったりしないだろう、と。そして一番先に自己紹介すれば仲良くなる上で仲間にアドバンテージをとれるのではないか。と。
目論見は成功し、男性も自己紹介を返してくる。
シイロはやり取りが成立したことに少なからず嬉しさを覚える。男性が数少ないこの世界において男性とまともに会話できることは少ないためだ。
「よし! じゃあ行くか!」
マーガレットが宣言する。
「ちょっと待って、まず下ろしてくれないかな?」
「おろすか?」
香は言う。
それを聞き、シイロはクオンに目配せをする。香の能力を調べろ、という意味だ。香の能力が逃亡に特化したものであってはたまらない。
クオンはシイロの視線を受け、小さく頷くと香を見つめた。多少必要以上に嘗め回すように見ているが、香もシイロも気にはならなかった。というか気づかなかった。香は視線に鈍感だったし、シイロは香に見とれて視線を戻しまた見始めたからだ。
「! シイロ、ちょっと」
「なに」
「能力が無いみたい」
クオンはシイロに手招きして引き寄せ、小声で耳打ちした。
無い!? その言葉にシイロは一瞬フリーズするものの、ならば下ろしても良いとだけ結論を出し考察は先送りにする。
「下ろしてあげて、マーガレット」
「おう」
「ありがとう」
問題ないと判断し、クオンはマーガレットに香を下ろすよう指示する。
「ねえ、能力って知ってる?」
地面に足をつけた香にシイロが問いかける。もしかしたら能力自体を知らないのかもしれないと思い、質問を投げかけたシイロだったが、次の香の言葉に女性陣は困惑する。
「能力? さっきマーガレットさんが言ってたやつ? 詳しくは無いというか…知らない」
〇〇〇
「うわー! みんなここに住んでいるの?」
「そうだぜ!」
「廃墟とよんでおる」
その後、獣人の森を突っ切って拠点に向かった香たちは、無事に拠点にたどり着くことができた。
香はその拠点を見て、思っていたのと違う、と思った。なぜならそこが香の目には廃校のように見えたのだ。
シイロたちの拠点はクリーム色をした三階建て。その建物はコンクリートのような物質の残骸をかき分けていったさきにあった。建物は崩れかけた塀に囲まれており、よく見るとツタに覆われている。
香はあの後森の中をかき分けて進み、そして森の外に出た。そこには前に見た赤めの草原が広がっていて、しばらく進むと、コンクリートのがれきの山が見えた。そこは元々は街だったようで、至る所に文明の残骸が見て取れた。そして、もう草が占拠してしまったアスファルトの道路を先に進むと、少女らが泊っているというクリーム色の建物が見えたのだ。
「なんか色々整理しきれないな」
自信なさげに放った香の一言は、小さすぎて女性陣の耳に届くことは無かった。
なにはともあれ、これから香はこの廃校でシイロたち5人の女性と暮らしていくことになる。
長い文章書ける人本当にすごいと思います…。プロットとか用意してるのかな…? 僕もプロット作った方が上手く書けるかも??