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前進 喚起



どうする? 道を通らずに行くか? いや、森の中では視界が悪いし、香が歩きにくいかもしれない。それにもしかしたら香がけがをしてしまうかもしれない。


幸い、私たちも先ほど香と知り合ったのだ。ということは向こうは香を始めてみて、衝動的に襲ってきたのだろう。だとしたら計画を何も立てていないかもしれない。そうならば待ち伏せされる危険があるものの、視界の開けた道を進む方がいいだろう。対応がしやすい。


黒、茶、白の三色の色が混じった混髪(こんぱつ)を肩まで伸ばした女性、シラナは考える。


「ゆっくり行こう」


仲間のラビとケイに声をかけ、背中には香をかばいながらゆっくりと進んでいく。香は黙って守られる。ここで彼女らに声をかけ、邪魔をしてしまうのが申し訳なかったからだ。香は先ほど遭った彼女らに香は若干の親近感をおぼえていた。どうやら少女らは香を何かから守っているようで、それを嬉しく感じていた。その後ろにある本能的な下心に気づかずに。まあ香ならばその下心を知っていたとしても「ウェルカム!!」と言いながら黙って付いていっただろうが。


シラナと香たちは謎の存在に怯えていた。女性陣はそれが女性だと知っていたが、香は予想だにしていなかった。もし知っていたら「ひえっ」と肝を冷やしていたかもしれない。なんなんだこの世界は、と。


一団は少し傾斜のついた道を上っていく。


その道は小高い丘の上にあるようで、しばらくして一番高いところに達する。


そのときだった。


道の脇から何者かが飛び出してきたのだ!


「おいお前ら!!! そいつをよこせ!!!」

「なにっ!!」


現れたのは黒髪をストレートに長く伸ばした大和撫子然とした女性だった。しかし口調からは好戦的な性格が見て取れた。


その女性は藪の中から突然飛び出してきた。あまりに突然のことに、シイロやケイは驚きの声をあげ、一瞬動きが止まる。


「なんだお前は!!」


ラビがその女性を見て言う。


「私か? 私はマーガレット。よろしくな」

「ふざけるな!」

「ふざけてなんかねえよ。いたって真面目だ。まじめに、そこの男をいただきにきた!」

「馬鹿が! 大方ふらふらと歩いててこの男性を見つけたんだろ! 一人でなにができる!? いや、さすがに仲間がいるか…」


そのときシラナたちの背後から、別の高い少女のこえが響いた。


黒雷(ブラックサンダー)!!!」

「な!?」


それは待ち構えていたアイシャだった。アイシャはマーガレットが作戦通りに注意を引き付けたので、自分も作戦通り背後から黒雷(ブラックサンダー)を打ったのだ。


アイシャは片目をつむって、まるでウインクをしながら黒雷を右手から放った。余談であるがこのポーズはアイシャが一週間悩んだ末、やっぱりシンプルなのが一番かっこ良いと決めたポーズだ。皆はポーズ決めに苦戦するアイシャを温かい目で見守っていたとか何とか。


そしてアイシャはマーガレットが注意を引き付けている間に、できるだけ早く黒雷を放った。相手に考える時間を与えないためだ。そしてその戦略は見事にはまり、急襲することに成功した。


アイシャの放った黒雷は獣人の一団に接近する。そしてそれは獣人たちの体を包む。


「なんだこれは」

「くっ!」

「あれ? ダメージは無い?」

「え」


対して黒雷が当たった四人は突然のことに驚きつつ、何かを当てられたはずなのにダメージがないことを確かめる。香は思考が追い付かず、ただ呆然とする。


「ラビ! こいつらは私らが食い止めるからジャンプしろ!」

「はい!!」


シラナの素早い判断に、ラビは能力を使おうとする。そしてラビは香を抱き寄せ持ち上げて、できるだけ遠くの道を見つめる。そしてしなやかに膝を曲げ、跳んだ。


ラビの持つ能力、「ジャンプ」は遠くを見ながらジャンプすることで、その見た地点にワープする能力だ。ワープすることを意識しながらジャンプすることで能力が発動する。デメリットは、ジャンプはとても体力を使い、すぐに疲れてしまうので連続使用はできないことだ。また、疲労は距離に比例し、その地点まで全力疾走するよりも疲れてしまうという特性もある。


さきほど香を捕獲したときに使った二回のジャンプ後も、しばらく息を乱すほどに疲れた。それは香の匂いを嗅ごうとしたことも原因かもしれないが。


だからここから里まで一息にワープすることはできない。視界が森に遮られているし、転移の距離が伸びるほどに加速度的に疲れるからだ。


だが疲れをものともしなければ、心臓が破裂しても良いと考えているならば。


ラビは自己犠牲の精神で、ジャンプを乱発し、できるだけ距離を離そうとする。


しかし今回その能力が発動することは無かった。ジャンプしたその場に着地したことにラビは驚く。


「はっはっは! 我の黒雷(ブラックサンダー)に当たったものは能力が封じられる!! 残念だったな!」


そしてその場で飛び跳ねたラビを見て、ゴスロリを着た少女、アイシャは笑う。つぎにアイシャは右手を顔に被せ、やけに体の重心を斜めにしてこう言い放った。


「チェックメイトだ」


あたかも自分が全てを計画していたかのような言い草だ。実際はこれはシイロの作戦だし、普段は能力をつかうときは能力名を言わないし、自分から能力をばらすことも無いが、今回ばかりは男である香が見ていたので、アイシャは本人のかっこよく思うところで振舞った。端的に言えば、異性に良いところを見せたかっただけだ。


「くそ!」


シラナは悪態をつき、それでもなお抵抗しようとマーガレットに立ち向かう。


しかし能力の使えない人物と、近接系の能力を使う人物が戦ったときどちらが勝つかなど目に見えていた。


獣人の森での攻防はマーガレットがラビ、シラナ、ケイをぼこぼこにして終わった。



〇〇〇



後にシイロはマーガレットに作戦を変更しないことを告げるか迷っていたことを言った。するとマーガレットはあっけらかんとこう言う。


「あーそんなこと考えていたのか。まあ確かにあいつらの能力ヤバイな、とは思っんだけどよ。いままでシイロの立てた作戦は失敗したことは無いだろ? …いやあったかもな。とにかく! オレはお前を結構信用してるんだぜ。だから作戦を変えるとかは考えすらしなかった」

「そう。…ありがとう」


シイロは気恥ずかしいのか頬を染めつつ礼を言う。普段は悪態ばかりつかれている人物から意外と慕われていたことを知った。


シイロはその言葉が、香を廃墟のコミュニティに引き入れたことの次にうれしかった。











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