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争奪戦は突然に




グループの暫定的なリーダーであるシラナは、辺りを素早く見渡す。


「え? 何?」


唯一、香のみが状況を呑み込めていないが、それに構わずシラナは思考する。


今、一行は森の獣人の里へと続く小道を進んでいる。道の両脇には紅葉した木々が広がっている。そこで何者かが私たちを狙っているなら、そいつらは森の中だ。


ケイのもつ能力は、第六感を獲得してなんとなく数秒先の未来が見えるというものだ。実際その能力に助けられることも多く、シラナも狩りのときには幾度となく助けられた。本人はその能力を「勘覚」と、勘と感覚をもじって呼んでいる。


そんなケイが最大級の警告をしたのだ。シラナとラビは、即座に香を背中合わせにサンドイッチする形で守る。


「ラビ、もしものときはカレンサのところに…いや、里まで香を連れて一人で離脱して」

「はい!」


シラナは一時リーダーに助けてもらうことを考えたが、リーダーのカレンサは今は人間たちと取引をしている。人間たちに香の存在がばれてしまっては元も子も無いので、即座に獣人の里に逃げ込む作戦にシフトする。


「どこだ、出てこい!」


シラナは大声で呼びかけるが、もちろん反応は無い。


どうする? ケイが言ったことなので緊急事態なのは目に見えている。ならば、どんな事態だ!? ケイは「誰かがいる」といった。つまり何者かが私たちを襲おうとしている状況を指す。目的はもちろん、香の強奪だろう。逆にそれ以外の理由をシラナは思いつかなかった。


誰が? 偶然通りかかった女か? 別の獣人の里のものか?それとも取引している人間の集団に見つかり、そいつらが別動隊を動かしたか?


いや、、そんなのはどうでも良い。どれも一度私たちの里に香を連れていってしまえば済むことだ。何者が狙っているかなど予想する思考に時間を割く余裕はない。


つまり、シラナがやらなければいけないことは、香をどうにかして里まで送るということだ。


そしてシラナは考える。もし相手が遠距離で発動できる能力ならばすでにこの時点で攻撃してくるだろう。相手がケイが気付き声をあげたことににびっくりして攻撃しなかったということも考えられるが、遠距離攻撃ができるならば、すぐに攻撃してシラナたちの態勢を崩した方が良い。それは相手もすぐに考え付くことであり、急襲するために忍び寄っていたからにはなおさらだ。


ならば、この時点で相手は遠距離の攻撃手段を持っていないことが確定する。


「ラビは私と一緒に辺りを警戒して、私が合図したらなりふり構わず能力を使って里に転移しろ!」

「はい!」

「私は周りを警戒して、予知できたら言うね!!」


いいぞ。シイロは自分の戦略もさることながら、ケイのファインプレーに内心ガッツポーズを決める。


シラナはラビが転移できる能力を持つことをほのめかす発言をした。つまり、こちらには転移能力者がいて、いつでも男を連れ去ることができるのだと相手に暗に伝えたのだ。これによって相手は無理に姿を現すことができない。つまり、近づいてこれない。近づけないということは、この場では攻撃できないことを示す、とシラナは思っていた。


また、ケイのファインプレーとは、自らの能力を予知と偽ったことだ。ケイの実際の能力は「勘覚」であり、数秒先の未来をうっすらと感じることしかできない。しかしこの発言は相手に「自分はいつでもお前らの行動を先読みできるんだぞ」と言うことと同義だ。それは容易にシラナたちの前に出られないことを示し、それは攻撃も出来なくなるということだ。事実、ケイは何の前触れもなく相手の接近を見破ったので、相手の視点からはケイはあたかも予知能力者のように見えるだろう。


ラビは瞬間移動に満たない「ジャンプ」、ケイは予知などできない「勘覚」だが、これにより相手は動けない。これは戦略的に相手に自分の手札を強く見せるという、俗にいう()()()()だが、今回ばかりは見事作戦としてハマったといえた。


シラナはラビと背中合わせに進行を開始する。


一方香はこの世界の女性が一人一つ異能を持つことを知らなかったし、辺りに漂っている緊迫した空気に、考えることをやめていた。それはシラナたちが全力で何かから香を守ろうとしてくれていることが分かったからであり、自分はできるだけ足を引っ張らないよう命令に従うことを選択したからであった。


一見スムーズに一団は進んでいく。ラビは周りに気を配りつつ、シラナは森の奥に視線をさまよわせる。


しかし、シラナは相手に本物の予知能力者がいて、入念に準備をしてからこの場に来たことや、相手の中に自分たちの能力が分かる人物がいることを予想していなかった。


シラナは知らない。今、すぐそこに香を手に入れようと女が一人潜んでいることを。相手が確実に状況を詰めてきていることを。シラナは知らない。



〇〇〇



時間はさかのぼり、廃墟の朝の食堂。シイロたちは集まり、作戦を立てていた。


「よし、じゃあ作戦はこうだ。まず、あらかじめ私たちは森の道沿いに潜んでおく。そしてクオンが「看破眼」で敵の能力を見破り、私に伝える。そしてその時点で私が作戦の変更を告げるなら告げる。告げられない状況だったら何らかの合図を出す」

「何らかの合図ってのは?」

「知らない」


シイロの告げた作戦に、マーガレットは質問するがシイロはまともに返事をしない。


「知らないって何だよ!?」

「知らないのは知らない。そのときは臨機応変に対応してって意味」

「なんだそれ!」


マーガレットは納得がいかない。もうシイロのように頭の良い人間しか分からない合図を察せずに怒られるのは嫌なのだ。


「んーじゃあ、小石をマーガレットにコツンって当たるように投げるのは?」


クオンが助け舟を出す。


「それだと、相手に気づかれるかも…」

「じゃあそれで!」

「まあ、いい」


シイロは少し反対だったが、即座に他の方法は無いものと判断して、しぶしぶ同意した。また、シイロ自身が自分の作戦に自信を持っていることもその決定を後押した。


「了解だ」

「じゃあ、その作戦でいいのねー。私の出番は無いんだけどねー」


ライアは残念そうに言う。今回の作戦にはあまり人数が多すぎても大変だから、という理由でライアは参加できなかったのだ。シイロが申し訳なさそうにライアに告げていた。


「ふっふっふ。我の能力が火を噴く時が来たようだな」


仰々しい、まるで安い聖書の中に出てくるような口調でアイシャは言う。


アイシャは先ほどまで寝坊していた少女だ。マーガレットにたたき起こされ不機嫌だったが、今回の予知の件を伝えるとすぐに元気になった。


アイシャは紫がかった髪をツインテールにした、ひらひらとした黒と紫の服を着た、全身黒ずくめの少女だ。そのあどけない相貌と大人びたと言ってもよいのか分からない口調から、頑張って背伸びしているようなかわいい印象を受ける。本人は荘厳な言葉遣いを使っているつもりだが、周りから微笑ましい目で見られることに納得がいっていない。


シイロはアイシャのことをとても扱いやすい存在として認識していた。


しかし前にシイロが「アイシャはみんなのマスコット的存在」と言ったのに対してみんなから「シイロもだよ」と言われたことにシイロは納得していなかった。そんなことはない、私はこのメンバーの中で知性にあふれたブレイン的存在だ、とシイロは思う。


「じゃあ、行こうか」

「ああ!」

「うん」

「そうだな」

「…行ってらっしゃい」


ライアは未だ納得のいってない様子だった。しかしそれはシイロの能力が「ライアを連れて行かず、獣人の森内部で待ち伏せる」ということを示していたので、仕方のないことだ。おそらくライアが決定的な失敗をおかしてしまうのだろうが、シイロは念のためライアにそのことは言わないであげた。


「よし、出発ぅ!!」


食堂は一階なのでそこのドアから直接外に出る。さあ、もうすぐそこに輝かしい未来が待っている!!!シイロたちは嬉々とした様子で歩みを進めた。








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