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ビジョン 接触



シイロたちは食堂に集まっていた。そこに廃墟に暮らしている全員がそろっていることになる。


「で? 何を見たんだよ」


じれったいのが好きではないマーガレットはシイロに早速理由を尋ねる。現在全員が食堂の一つのテーブルに座り、皆で話し合いをしている状況だった。シイロはマーガレットの質問に端的に答える。


「男が、手に入るかもしれない」

「なっ!!!」

「なんだと!?」 


先ほどシイロが予知内容を言った場にいなかったアイシャとマーガレットの二人は、目を見開き驚く。


「おおお、お男ってあの!?」

「我にくわしく教えろ!!」


マーガレットとアイシャはともにうろたえる。いや、この場にいるシイロを含めた全員がこの時はうろたえていた。


「状況を、詳しく話す」

「おお! 頼む」


シイロは感情を押し殺し、淡々と見た内容を共有する。ポーカーフェイスを保っているシイロだったが、努めて感情を押さえなければ今にも飛び上がった喜んでしまうだろう。しかし、事態は急を要する。早くその男と知り合うきっかけの道筋を辿らなければ、捕らぬ狸の皮算用である。


「まず、私たちとその男の子が一緒に食事している風景が見えた」

「なんだと」

「え」

「…!!!」

「ふぉーー!!!」


あまりの衝撃の展開に皆が色めき立つ。仕方ないことだ。この世界では男が貴重とともに、()()()される世界である。よって男の在り方は、女の集団の性処理の道具として薬漬けにされるか、洗脳されるかして家畜同然に扱われるか、女の集団の上に男王として君臨するかの二通りしかない。そのため、男がコミュニティの一人として対等に食事を一緒にするのはあまりに非現実的なのだ。同時にその光景は全女性にとって平和の象徴であり、あまりに甘美なものだ。それは聖書に書かれるほどに。


「そして「あーん」とかもしていた」

「ふぁっ!?」

「なんやて…」

「いい」

「好き」


続くシイロの言葉に皆は信じられないといった顔をする。そんなの、聖書でしか、フィクションでしか見られない、と皆思っていたからだ。「あーん」、それは親しい間柄でしか発生しないものである。それは女性の夢であるが、決して実現できるようなものでは無いからこそフィクションはフィクションなのである。しかしそれを男性とできる、とシイロは言ったのだ。


もうアイシャに頼んであーんしてもらう必要は無くなる、とマーガレットは思った。しばしばマーガレットは男性のあーんに憧れ、アイシャで代用することがあった。女同士なので吐き気がするが、目を閉じて心の目で架空の男性を作り出すことでマーガレットは少し幸せになれるのだ。


「ちなみにその相手は私」

「なんだと」

「は?」

「うん」

「ふざけるな」


シイロは余計な一言を言ってしまったようだったが、当の本人は降り注ぐ非難の視線を気にしていなかった。なぜならシイロは思い出すだけでにやけてしまうほどに舞い上がっていたからだ。


「あと…その男のひとは…」

「うおっ!」

「あー大丈夫? 鼻血出てるよ」

「どんなのが見えたんだ…?」

「まさか…」


シイロはとある光景を思い出すだけで興奮してしまい、鼻血を垂らしてしまっていた。周りは一体何があったのか、もしかして()()かをしていたのかと悶々としてしまう。


実際のところ、それはシイロとその男の位置関係によるものだった。なんとその男はシイロを自分の股の間に抱え込む形で座らせ、「あーん」をしていたのだ。そのあまりに暴力的といえるほどの幸せな絵面に、シイロはあえなく撃沈してしまった。しかしここでそれを口に出さなかったのは正解かもしれない。なぜならそんなことを話せば、皆が嫉妬してしまいロクに話が進まなかっただろう。その意味で、シイロの鼻血はファインプレーをしたと言えた。


「まあ…それは良いとして」

「「「「気になる」」」」

「後で。今はその未来を実現するために動く」


シイロは建設的でない話はできるだけ省くタイプだ。まあ先ほどは少し舞い上がってしまったが。それに対して、他の4人は黙る。彼女らの経験上、シイロの予言はその指示のとおり動かなければ予知でみえたビジョンのとおりにならない。だからこそ、迅速に対応するために準備しなければならない。


「まず、その男性は獣人の森と名無しの平原の間に現れる」

「よし行こう」


マーガレットは居ても立っても居られない様子で、席から立とうとする。


「待って」

「ありがとう、クオン。そう、それだけじゃない。その場でその日は獣人の里とナナシの奴らで聖書の取引が行われる」

「それやばくないー?」


間延びした声でライアが尋ねる。


「いや、予知では森の中で待ち伏せとなっていた。たぶん男性は獣人に捕まった状態だ」

「ダメだろ。あの性獣どもに捕まるなんて」

「そう」

「でも、ナナシの奴らは気付かないみたいだね。取引の直前に獣人側が見つけたのかなー?」

「たぶんそう。そして獣人は取引をしないわけにもいかないから、人数を分割して男性を輸送してるはず」


そしてシイロは次にこう宣言する。


「だから、私たちはそこを叩く」




〇〇〇




場面は変わって正午過ぎの獣人の森。さきほど道端で遭遇した獣人たちに香は運ばれている途中だった。


「うわあああああ! 下ろして!! 自分で歩けるから!」

「ダメなのです」

「いや、下ろしてあげなさいよ」


ラビは香のお願いをすぐに拒否したが、仲間の猫耳をもつシラナに言われ、しぶしぶ下ろすことにする。ラビはもっと香の体に触れていたかったが、獣人の里において実力者に従うのは当然のことなので、残念そうにしながらも香を開放した。少しは冷静になっているといえる。先ほどは興奮していたのでカレンサの命令を無視したが。


「あ、じゃあこうすれば良いんですね!」

「えっ」


突然何かひらめいたような顔をしたラビは、次の瞬間香の腕を抱きしめた。香としては全く悪い気はせず、逆に朗らかに笑う白髪のうさ耳美少女に内心ドキドキしていた。腕にはやわらかいものが当たっていた。


「じゃあ私も!」


香の右腕に抱きついているラビとは反対側に、新しくケイという猫の獣人が腕を絡める。


「なにをするん…」

「私ケイっていうの! よろしくね!」

「はい!」


ケイは三毛猫のように三色が入り混じった頭髪をしていた。ショートカットの髪の下からは、釣り目がちの大きな瞳が香を見上げている。そしてケイの谷間を香は見つめていた。彼女ら獣人は、とても動きやすそうな麻のショートパンツとTシャツに近い形状のワンピースを着ていた。そのため腕に巻き付いた彼女らの襟元からは、直接見えてしまう。非常に悶々としてしまう光景だった。


「ちょっと! ずるいじゃない!」


後ろから声をかけたのは先ほど香を下ろさせてくれたシラナという女性だった。彼女は同じく三毛猫の獣人で、ケイとよく似ていた。


「えーお姉ちゃん。いいじゃん」

「えー。じゃない! これから香を護送するんでしょ! それだと早く歩けないじゃない!!」

「大丈夫だってー」

「そう、きっと大丈夫なのです!!」

「ダメ。いい? もしちゃんと里まで届けられなかったら困るのはあなたたちなのよ!!」

「…はーい」


シラナはどうやらケイの姉のようだった。シラナの言葉に、ラビとケイは残念そうにしながら腕を開放する。香はそしてシラナの命令に従ってくれたラビとケイに感謝しながら、前を指さして言う。


「じゃあ、行きましょうか」

「ええ、そうね」


そう言ってシラナは香の手を握ってきた。そしてその白魚のような細く白い指はすぐに香の指と絡み合う。俗に言う恋人つなぎである。


「あっ!」

「ずるい!! お姉ちゃん!!」

「これは護衛のためだから良いの。いざとなったら手を引いて走れるし、香の動きを妨げることもないでしょう!」


シラナはまるでさも当然といった顔でラビとケイのポジションを奪った。


「じゃあ、私も。って! なんでもうつないでるのよ、ラビ!!!!」


ラビはシラナが香の左腕をつないだのと同時に既に香の右手を確保していた。こちらもさも当然といったような顔で手をつないでいる。


「さあ、シラナ、行きましょう」

「そうね、ラビ」

「…」

「ねえ! ちょっと! ずるくない!?」


そして手をつないだ三人は歩き出し、その後ろをケイが追う形となった。


「シラナ!!! ラビ!!!!」


しかしすぐにまたケイは騒ぎだす。


「うるさい人ですねぇ」

「文句言わないの、ケイ」


シラナとラビはあきれた顔で振り向く。


「違う!!! 本当に違うの!!! 周りに誰かがいるんだ!!!」


しかし次にケイの放った一言に、ラビとシラナの顔からは笑顔が抜け落ち、真剣な表情となった。


一瞬の出来事である。


「警戒!!!!!!!!!」


シラナはすぐに両手をフリーな状態にして、空気を震わせるほどの声量で叫んだ。










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