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アバンギャルドにこんにちは

視点を変えてみて書きやすかったので次からこんな感じの地の文になります



異世界転移した大学生、香はどうしてこうなった分からなかった。


「ペロペロしたいします」

「はあっはあっ!」

「む、胸触ってもいいかな!!」


現在、香の周りにはケモミミのついた女の子がいて、香の体を奪い合うように触っている。鬼気迫る表情には隠し切れない情欲の色が浮かんでいて、まるで発情しているようだ。いや、確実にしている。香は心なしか甘い香りを感じていた。


今、香の胸に顔をうずめて深呼吸しているうさ耳美少女のラビは、特に。ラビは股をもじもじとさせ、人一倍その匂いを強く発していた。


状況を整理しようと思考をめぐらす。香はDTながらも、あまりの現実感の無さに一周回って何も感じなくなっていた。虚無である。


異世界転移。獣人に遭遇。捕獲。ぺろぺろ。


うん。よく分かんないなこれ。香の脳みそはあまりの情報の異質さに仕事を放棄した。


「おいっ! お前らやめろっ!!!」


リーダーである犬耳のついたクールビューティーが注意するものの、年若く煮えたぎる熱情を押さえきれない少女たちは止まることは無い。


「姐さんもいいですよぉ。みんなでヤりましょう!」



「だから!!! やめろと言っている!!!」


ビリビリとその声は響きわたり、少女たちはその動きを止めた。


「はぁっはぁっはぁっはぁっ」


ただ一人を除いて。ラビは未だに香の体臭を嗅いでいた。


「ゴラァ!!」

「痛い!!!」


犬耳の女性はためらうことなくラビを殴ると、つづいてその身を香から引き離した。そして香に体を向け、頭を下げた。


「すまない、うちの若い衆が。なにせ生まれてから男を見たことのない連中なもんで。本当に、すまない」

「え、あ。まあ」


香は生返事をかえした。その様子から、犬耳のクールビューティー、カレンサは目の前の男が自分たちを怖がることも、怒ってもいないことに安堵する。しかし実際は情報が処理できていないだけである。まあ処理できていたとしても、香は女性とスキンシップをとることに喜びを隠せないだろうから、この場合は良い方向に事態が転がったといえる。


続いてカレンサは香を嘗め回すように見る。見たこともない服だ、とカレンサは思った。実際、香の着ていた白いTシャツにジーパンは2018年の日本産なので、見たことが無いのは当たり前だ。


「珍しい服を着ているんだな。君は一体どこから来たんだ」

「日本です」


カレンサは二ホンという地名を聞いたことがなかったが、男性の生まれ故郷やなぜこんな場所にいるのかということはどうでもよかった。異性に飢えた自分たちの前に、獣人に捕まっているというのに嫌悪しない男性が、清潔感のある格好で現れたことのみが問題だった。


ぜひとも里に持ち帰り、里の共有財産にしようと考えていた。


一方で香は、いきなり現れた自分に対して好感度がMAXで、この場に男が一人もいないことから、この世界に男は少なく貴重なため、自分を保護しようとしてくれているのだと考えていた。当たらずも遠からずだが、唯一違うのは彼女らは保護しようとしているのではなく、香を貪りつくそうとしているという点だ。香はこの世界の女性を甘く見ていた。


「名前は?」

「香といいます」

「コウか、いい名だ。わたしはカレンサと言う」

「カレンサさん。よろしくおねがいします。…ところで、ここはどこですか?」


ここはどこですか。香としては何げなく当然の疑問として放った一言だったが、その香の言葉にカレンサの思考は加速する。


なぜこの男性はこの場所が獣人のコミュニティの近くにいるのか。そして土地勘がなく、哀れにも性獣ともよばれる我ら獣人に危機感を抱かないのか。それはここがどこか知らないから、つまり教えてくれる人物も、獣人の里に近づくことを止めてくれる存在もないから。


それは、香が世間のことを知らず、また、どこのコミュニティにもとらわれていないことを示す。


つまり、バックに女性の影がない、獣人に忌避感を抱かない男性がたまたま来たというわけである。鴨がネギを背負ってきた、ならぬ鴨がネギを一口大に切りそして丁寧にとっただし汁の中にその他の具材ごと飛び込に来たようなものだ。


カレンサは内心ほくそえみながら、もとい興奮しながら結論を出す。それは「じゃあ、付いて来てくれ。私たちのコミュニティで説明する」と言う、それだけのことだ。


これは香が女のコミュニティに招かれる意味も知らず、警戒心が無く、またなぜか知識がないので、何よりも情報を求めているだろうからとれる大胆な一手だった。おそらくこのまま香は頷き、これから私たちの里でめくるめくバラ色の日々がスタートするのだろうと、カレンサは思っていた。


しかし、ここで問題が起こる。


道のはるか向こう、遠くに人間の女たちが見えたのだ。


何を隠そう、それはカレンサたち獣人が人間と取引をするからだ。普段はあまりかかわりを持たない人間と獣人だが、聖書が関わってきた場合は違う。


聖書とは、たまに神殿で発見される男性のセクシーな絵や写真が載ったバイブルのことである。これは香からしてみればエロ本というものであるが、カレンサも香も知ることは無い。


そしてその聖書だが、この世界では大きな価値を持つものゆえ、貨幣やコミュニティ間の友好の道具として使われていた。そしてその友好を結ぶときが今日なのである。前々から決まっていた、コミュニティにとってかなり重要なものだが、このときばかりはカレンサはタイミングの悪さに歯噛みする。しかしこの取引がなければ香とこの時この場で会えなかったのであるから、内心複雑である。


この取引は外せない重要なもので、リーダーである自分がいないわけにもいかない。ならば、答えは簡単だ。若い連中にコウを里まで護送させればいい。


このようにシフトチェンジするまでにかかった時間はわずか3秒。カレンサは未来を想像してにやけそうになっている顔を努めて引き締め、香に優しく微笑む。


「それじゃあ、若い連中に里まで遅らせるから、そこで説明をしよう。私は野暮用があるからな、ここに残るよ」

「ありがとうございます! あ」

「どうしたんだ?」

「あなたに送ってもらうのはできないのですか?」


香にしてみれば、さっきまで暴走していた少女らより、いささか理性的なカレンサに頼みたいから言ったものであった。しかしその言葉はカレンサにとってそれは愛の言葉と同義だった。いままで男性にあったのは一度のみ、それも遠くから。こんな風に男性に頼ってもらえることは、この世界の女性にとって至上の喜びであり、例に漏れずカレンサも本能で震えたのである。


「…クゥ! …はい。無理です」

「? そうですか」


しかしその要望に応えることはできない。カレンサは少し変な声が出てしまったが、涙をこらえてそれを断った。香はなぜカレンサが突然奇声を発したのか分からなかったが、そのカレンサのうっすらと涙をたたえた目がとてもエロかったので気にしなかった。香は単純だった。


カレンサは涙を飲んで、取引にのぞむこととする。


「シラナ、アマネ、ラビ、ケイ。お前らに香を里まで連れてって欲しいのだが、できるか?」

「「「「できます!!!!」」」」

「返事が良すぎて逆に不安になるがいいだろう」

「ええ…」


香は嫌な顔をしたが、どうやらついていくらしい。カレンサはたとえ香がここにきて行かないなんて言い出しても無理やり連れて行かせるつもりだったが。


「里のベッドまで案内すればいいんですよね! 余裕ですよ!」

「やっぱりアマネ、お前は残れ」


調子よく笑顔で失言をしたはずの狐の獣人、アマネにはいちおう取引についててもらうことにする。あまりこちら側の人数が少なくても怪しいからな。あとアマネがこの里の実力者ナンバー2とあちら側に知られているからというのもある。誠意を見せるのに大切なことだ。アマネは満面の笑みから一転、絶望の表情になった。


「嫌だああああ。私もおくりゅぅーー!」

「よし。じゃあ行こうか」

「ああ」


猫の獣人、ケイの一言に苦笑いで香は返す。しかしその苦笑いすらも男性から向けられたことのない彼女らはそれで舞い上がってしまい、香を肩に神輿のようにかついで行ってしまった。


「え? うわあああああああああああ!」


香の悲鳴をきき、少し元気のでたカレンサは張り切って取引に臨むことにする。


「な、いやだああああ!! 私もイきたいぃ!」

「こら、お前はこっちにのこるんだ」

「こうくぅぅーーん!!」


アマネの頭をつかみ、静止させる。アマネはしばらく暴れていたが、香たちの姿が見えなくなると動かなくなった。


〇〇〇



友好の証を無事人間のコミュニティからもらい、ひとまず橋渡しのできたカレンサとアマネはスキップで里へと帰る。


しかしそこに香の姿は無く、ケガをしたラビやケイやシラナが表情の抜け落ちた顔で手当てを受けているのみだった。







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