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第16話 三階


三文あらすじ



廃れた街に建っているのは、アイシャ、シイロ、クオン、マーガレット、ライアの住む廃校である。

そこに案内された香は、この世界が男の貴重な退廃的な世界ということに薄々だが気づき始める。

そして香は自室を決めるために、中二病系女子、アイシャと校舎三階を見て回ることになった。




アイシャの脳みそはお花畑にいた。これは例えだが、実際に幸福物質が分泌されて止まない今の状況はそう表現してもよいだろう。アイシャは今、香と手をつないでいる。生まれて初めての異性との接触に、アイシャの心は色めき立ち、鼓動してやまない。


アイシャは気付けば三階にいた。これは例えではない。さきほど香に手を差し伸べてから少し記憶が飛んでいるのだ。


その理由をアイシャは知っていたというか、今も手の中に感じていた。


アイシャは自覚する。自分は今香と手をつないでいる!!


そう、アイシャは香と手をつないだ事実のみでトリップ状態に陥り、一時的に記憶がとんだのだ。これはこの世界ならではの男性への免疫の欠如によるものだ。


しかしアイシャは考える。どうしてこうなったかは分からない、というかどうでも良い。大事なのは今のこの状況のみである、と。アイシャはなぜ自分がこんな状況にいるのかは分からないが、とにかく今この瞬間を楽しむことにした。


「よ、よし! ここが三階で、いつも私が使っているところだ、です!」


しどろもどろになりながらも、何か話さねばとアイシャはしゃべり始める。


動揺するアイシャを見て香はまたしても優越感に浸っていた。美少女が自分と手をつないで赤面している。香にとって今までに無い記憶であり、とてもうれしいものだ。アイシャが耳まで真っ赤にさせながらも、それを香に悟らせないように凛とした表情を作ろうとしているのもかなりポイントが高い。実際には香に完全にばれているが、演技だからこその魅力があると香は思っていた。


ゲスである。


そして香はアイシャの手がかなり汗ばんできたのを感じていた。しかし不快にはならず、むしろ体温が高く柔らかいその手が気持ちよかった。香は美少女の手汗なら喜べる類の人間だった。


変態でもある。


そんな香はアイシャから視線を外し三階を見る。


廊下の構造やおおざっぱな部屋の配置は一階と同じだ。しかし一階の食堂の辺りほど掃除をしているわけでは無いようで、少し埃っぽくまた足で砂の感触を感じた。


「ごめんね、汚くて」

「え、いや。大丈夫だよ」


香の視線を追ったのか、アイシャが謝ってくる。


というかあの尊大な口調はどこに行ったのか、香は思ったがツッコまないことにしておく。


「それじゃあ行くね」

「うん」


完全にいつもの口調を忘れているアイシャと共に香は進んで行く。


階段があるのは校舎をLで例えたところの真ん中、Lを引きのばしたときの中点にあたる位置だ。上った先には日の光で明るい廊下があった。


三階は最上階にあたるので日当たりは最高だ。また見晴らしも良く、自室を持つなら良い条件がそろっている。…いや、見晴らしが良いと言っても、景観はがれきの山や赤っぽい不気味な色をした草原なので必ずしも景色を楽しめるわけでは無いが。


アイシャはまず左に曲がった。そこは一階で言うところの食堂に続く道だが、三階ではアイシャの自室につながっているらしい。


「あの突き当たりの部屋がわ、私の自室」

「ふーん」


ここにきてアイシャの一人称が我から私に変わった。それに気づきつつも、香はここでも指摘することは無かった。むしろ我よりもそっちの方がかわいいのでそのままで良いと思っていた。


アイシャとしてはいつもの態度が作ったもので、今の態度が素だ。動揺して素の自分が出てしまっている。しかしそれに気づかないのは頭が回ってないからだった。手をつないでいる感覚が手に神経を集めさせ、耳に意識をやれなかった。


「行こうか」


香はさも当然という風に言った。特に意識はしていない。純粋な興味からだ。


しかし香の一言はこの世界の女性にとっては「どうぞいただいてください」というものと同義だ。


アイシャも「え!? いいの!?」と動揺する。男性が女性の部屋に行くことは、もうその時点でそういうアピールだ。


「じゃじゃじゃじゃあ行こうか。すぐ行こうか」


アイシャは早口でまくしたてた。




アイシャの自室は建物の突き当たりにある。その教室のドアの上にある表札には、もう字がかすれて読めないが以前は「地学室」とでも書かれていただろう。


部屋に入ってまず目につくのが大きな地図の残骸だ。茶色く色あせてはいるが、それに書かれている図形はおそらく世界地図のようなものだろう。


そして、アイシャの部屋は大きな本棚が並び古い紙の匂いがする。重そうな木の机がずらりと壁に寄せられている。香はそれらを見て、香のかつての学校にあった地学室を思い出したのだ。


日はあまり差し込んでいない。どことなく暗い。しかしアイシャはそんなものはどうでも良くて、この部屋が持つ雰囲気が気に入り、この部屋を選んだ。


琴線に触れたともいう。


今の内装は至る所を黒い布で覆ったりしたシックな仕様だ。アイシャの思う「かっこ良い」を頑張って再現しようとしている。




その部屋に香は足を踏み入れる。


「うわー。なんかかっこいいね」

「! そうであろう! フフフ」


香の称賛にアイシャは良い気になる。ちょろい。


そして香はそんなアイシャからの熱い視線を感じていた。アイシャの部屋に入った時から後ろから視線を感じる。


そう、今は手をつないでいない。アイシャがドアを開けるタイミングで離したのだ。それで冷静さをいくらか取り戻したアイシャの口調にはまたあの拗らせキャラが現れた。


「ま、まあ好きに見て良いぞ…!」


アイシャは香に部屋を見るように言う。


しかしその口調に違和感を香は感じた。アイシャが、そのよく分からない口調を取り戻しているのだ。そういえば先ほど部屋に入るときも「我」と言っていたような気がする。


もしかして、香が体に触れていることでアイシャの素が出るのかもしれない。


身近な人にはいたずらを、好きな女子にはちょっかいを出してみたくなるというのが男心というものである。まあ、それは小学生レベルのものであるが。


しかしそのとき香が抱いた衝動はそれである。


アイシャにアプローチして、その口調をスイッチを繰り返し切り替えるように出し入れしてみたくなった。なぜかは分からないが、本能が「やれ」と言っているのだ。















えー。はい。ギリギリ、前回の投稿から一か月開かないタイミングで投稿できました。


皆さんおひさしぶりです。高井こおらです。週末投稿にする、と宣言しておきながらとんでもないことに一か月近く日を開けてしまいました。ご心配をおかけしてどうもすみませんでした。


もしや死んだのでは? と思った読者さんもおられたでしょう。


ですが皆さん安心してください! 高井は今日も元気に生きております!


そして、この作品も続きます! 応援してくれる人がいるうちは!w



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