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一階→三階



「ああああ」

「もうちょっといけば良かった!!」


マーガレットは図書室の机に突っ伏し、まるで世界が終わったかのような落胆の声を上げた。癖のない長い黒髪がサラサラと机の上に広がる。クオンはその隣で同じような姿勢で椅子に座り、先ほどの光景を思い出す。


初めに香に施設の案内をした二人だったが、図書室のとなり以外の教室をスピーディーに紹介したのは間違いだった。後から考えてみれば、あそこは他の教室も時間をかけて紹介し、香といる時間を少しでも長くとり、香ともっと話して仲良くなる方が良い。香が隣にいることで高揚してスピードが速くなってしまったのがいけなかった。それ以外にも一階にめぼしい施設が無いことが敗因かもしれない。


一番の理由はもちろん自分らが男慣れしていないことだと二人は悟っていたが。


何はともあれ。マーガレットとクオンは図書室でうなだれている。


あの後、アイシャに順番を交代した。そこで決定的な差が生じてしまった。





「ふっふっふ。さあ、香よ、行くぞ。我の領域は三階だ」

「あはは。うん分かった」


マーガレットとクオンの目の前で一組の男女が話している。


一人はこの世界では美麗な男性、香であり、もう一人は紫と黒のゴスロリに身を包んだアイシャだ。


アイシャはいわゆるイタイ奴だ、と二人は考えている。どこでそうなったのかは知らないが、それぞれがアイシャと知り合ったときには既に彼女の人格は完成してしまっていた。彼女は気障なセリフを吐き、自信にあふれている。二人はそれを面白く思いながらも、けなすことは絶対にしなかった。決してそうなりたいわけでは無いが、その能天気さが羨ましいと二人は感じていた。


「よし、行くぞ」


何を思ったか、そう言いながら香の前にアイシャは手を差し出した。


マーガレットとクオンの二人はそれを見て、「あいつ、やったな」と思う。男性は身体的接触はかなり親しい仲でしか許さないというのを二人は知っていたからだ。だから二人は香を案内するときも腫物を扱うように接し、決して触れないように、付かず離れずの距離を保っていたのだ。


あほが。やっぱりアイシャの性格をそのまま野放しにしておいて正解だった。マーガレットはアイシャが香の争奪戦から早々に脱落したことを確信し、ほくそ笑む。


しかしその予想は外れることになる。香は男性ではあるが、この世界の考え方とは違う異質な貞操観念を持っている男だ。アイシャに手を差し伸べられて、マイナスな感情どころか遥かなプラスの感情を抱く男だ。つまりアイシャに手を差し伸べられてうれしくないはずがない。


「うん」


そう言って香はアイシャの手を取った。


香としては相手が自分に好意を持っていることが分かっていたし、香も出来ればアイシャと仲良くなりたいと考えていたから迷うはずがない。余裕綽々なアイシャに照れろ! とさえ思っていた。


「あ……ひっ!」


対するアイシャは香に手を取られると思っていなかったので、体をびくりと震わせた。


そう。アイシャは香と手をつなごうと手を差し伸べたのではない。それはどんな風に香をエスコートし始めたらかっこいいか、を昨晩アイシャが必死に考えた結果だった。香と手をつなぐためではなく、ただのポーズだ。少しでも自分をクールに見せるために編み出したものだった。


しかし、それは失敗に終わった。香がそれを手を取ろうとしたのだ、と勘違いしてそれに応じてしまったからだ。


ビクンビクンとアイシャの体が波打つ。香の行動を予想していなかったためだ。あまりに急な接近にアイシャの頭は沸騰する。


「じゃあ、案内してね」

「は、はひ…」


それを見て香は優越感にひたる。どう見てもアイシャのとろけた表情は自分によるものだと思っていたからだ。そしてそれに追い打ちをかけるように、アイシャの横に並び立ち、耳元でささやく。


マーガレットとクオンの二人を観察し、絶対に女性達には拒否されないと確信したからこその行動だった。打算的に少女を手玉に取る、まさに悪魔の所業である。


しばらく放心していたアイシャだったが、感覚が一時的にマヒしたのか再起動する。クールに振舞うことを思い出したアイシャはきりっとした顔で言い放つ。


「階段を上るぞ、足元に気をつけろ」


そう言ってアイシャがおぼつかない足取りで三階への階段を昇って行った二のをマーガレットとクオンは見ていた。二人の少女の口は開いたままふさがっていない。


あまりの超展開に頭がついていってないのだ。アイシャが差し伸べた手を香がとったと思うと、次の瞬間にはアイシャを引き寄せ横並びで手をつないでいた。


自分たちよりも短い時間ではるかに自分たちと香の関係よりも進んだ関係になったのだ。驚かないはずがない。もしかしたら自分たちも勇気を出せばあんなことができたのかもしれないと思うと、深い後悔の思いが湧き上がってくる。


マーガレットとクオンは声を出すことも出来ずにただその光景を見ていた。




そして二人はそのまま図書室まで力なく退散し、そして今もうなだれている、というわけだ。


なぜ香があんな行動をとれたのか、なんて考えることも無くただただ後悔し続ける二人であった。


「くそー!! アイシャのやつ!」

「はあー」


マーガレットはアイシャに当たることを誓い、クオンは深いため息をついた。


「あああああ」

「あああああ」


二人は足をバタバタと動かし、まるで幼児のように悔しがる。それぞれが完全に心を許しているからできる行動であるが、その一番の要因は香とアイシャの一件だ。


少女達は自分らを差し置いて香と仲良くするアイシャに嫉妬する。しかしその頃、アイシャはアイシャで大変な思いをしているのだった。








この週末でリアルの僕の中での大きなイベントが終わる予定なので更新早くできると思います

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