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一階




クオンとマーガレットは一階で寝泊まりしている。


クオンは図書室のカウンターの机の下で、マーガレットは図書室の隣の司書室で寝ている。


基本的にシイロの「先見の明」があるので外敵から奇襲をうけることはまず無い。しかし敵の能力がシイロの能力の範囲外から攻められるものだということもありうる。だから当初は見張りを交代制で立てていた。しかし人数が少ないので見張りを立てるコストは大きい。そしてその見張りのことごとくが役に立たなかったため、未知の能力に備えるのとコストが釣り合わないと判断し、自然とやめるようになった。これが警備の無くなった経緯だ。最終的に何が言いたいかと言うと、シイロの予知はそれほど優れているということだ。


だから一階といえども外敵に襲われる心配はない。しかしマーガレットはクオンのすぐそばの部屋を選んだ。これは実はマーガレットが寂しがりやな性格だからであるが、この時点でそれを知るのは誰もいない。




マーガレットとクオンはあの後、シイロやライアやアイシャを普段の仕事に追っ払い、香の案内もといアピールタイムを始めた。


食堂を出て廊下を歩く。


校舎はアルファベットのLの形をしている。そしてLの短い方の廊下の突き当たりに食堂はある。


香たちはその短い方の辺を進んでいく。


「マーガレットさん? はどこに寝ているの、ですか?」

「敬語はいいって。オレら同じくらいだろ?」

「はい、じゃあ、分かった」


マーガレットはかしこまった香との距離を縮めるために、まずは敬語を使わないことを提案する。香はすぐさまそれを適用する。敬語にいくばくか息苦しさを感じていたからだ。


マーガレットは香が敬語をなくしたことに満足げににやけた後言う。


「アタシは図書室の隣のちっさな部屋で寝てる」

「私はその図書室でねてるわ」

「へー」


マーガレットに続く形でクオンも会話に参加する。


香とマーガレットとクオンは、香を真ん中にして歩いている。しかし距離を決めあぐねているようで、マーガレットとクオンの二人は香から二歩ほど離れたところをうろうろしていた。


二人としては香に拒否される恐怖から近づけないのだ。実際、この世界の男性は弱弱しく、女性に接近されると身の危険を感じて縮こまってしまう。


それを見て香はどうしようかと悩む。香としても距離感が縮まることは嫌じゃない。むしろうれしい。


「あの、もう少し近くても良いですよ」


香は勇気を振り絞って言う。相手が拒絶しないだろうと予想できてはいても、臆病に振舞ってしまうところが香が香たる所以だった。


対してマーガレットは動揺する。男性に近寄ってもいいものか、今までにない経験に動揺する。この世界の男性らしからぬ警戒心にの薄さに少し興奮する。


しかし腐ってもこの世界の女性だ。抑えきれない欲望からマーガレットはすぐに距離をつめる。


もう頭は沸騰し回らない。しかしその回らない頭で香との距離を詰めることを選択したのだった。


「くふふ。よし! 香! 行こうか!」

「待ってよ!」


気分の高揚したマーガレットは軽い足取りで廊下を進む。クオンは慌てて後を追い、自分もちゃっかり香との距離を縮める。


「ここらへんは空き教室だ。でもこの教室は…何かダメだ」

「どういうこと?」

「何かダメじゃわからないでしょ! そうね…この教室は食堂から近くて虫が湧くかもしれないわ」

「それは困るね」


マーガレットたちはLの曲がり角の直前にある空き教室の前にたどり着く。


しかしマーガレットとクオンは何かとその教室を悪く言う。香としてはおすすめではないから、虫が湧くからなどの理由だと思ったが、それは実際違った。


この教室は虫が湧くわけでもなければ、日当たりが悪いわけでは無い。


それは、マーガレットとクオンは結託して図書室の隣の空き教室を選ばせようとしているからだ。


マーガレットとクオンはもし自分たちの近くの部屋を選ばせれば、香との心の距離も縮まり、いち早く香とゲフンゲフンできると考えた。


だから図書室の隣の教室以外はボロクソに言い、図書室の隣の教室を最後にほめたたえる作戦に出たのだ。ちなみに図書室はLのアルファベットの書き始めの位置にある。つまり一階を順に周り、最後にべた褒めを開始することになる。ネガティブキャンペーン大作戦とでも呼ぼうか。


「じゃあこの教室は?」

「そこもだめだ。そこはトイレと近いから汚い。ばっちい」

「うんうん。やめといた方がいいかなー?」

「そっか」


香は目についた空き教室を指さすが、マーガレットとクオンからは酷評をもらう。


一行は曲がり角を曲がる。廊下はそれほど長くない。香の知っている学校の中でもかなり小さい部類といえた。


廊下は床が土埃で汚れているものの、その他はあまり汚くない。香が一日目にも驚いたことだが、廃校の外観の荒廃した感じとは裏腹に、校舎内部は意外ときれいだった。割れていてもおかしくないとは思うが、窓ガラスもすべて割れていない。しかしたまに扉の無い教室があったり、その中は天井が剥がれ落ちたり荒れ放題だったりする。生活にかかわる場所を重点的に掃除した感じだ。


そして曲がり角を曲がったところには階段があった。


「これが階段だ」

「あはは見てわかるよ」


マーガレットがそれを指さし言った言葉が当たり前すぎたので香は笑った。


マーガレットはその笑顔を引きだせたことに嬉しくなる。クオンはその横顔を見るだけでどことは言わないがとても満ち足りた。この世界では男性と笑いあうことは珍しい。そのため香が笑ったのは幸せを感じさせた。笑うだけで幸せの象徴になる、なんとも歪な世界である。


「この教室は?」

「ここはまあ倉庫的なところだな。入ってみるか?」


次にあった教室は少し改造されていた。


まず扉がしっかりと取り付けられていた。そしてそれをマーガレットが開けると、中にはたくさんのガラクタが所せましと並べられている。


手ごろな大きさの瓦礫や、錆びすぎてもうもろくなっているであろう鉄パイプや、変わったものでいうと錆びた信号機が置いてあったりした。それらはいかにも、そこらで拾ってきました! と言わんばかりの代物たちだった。


「へーなんで集めておいてあるの? これ?」


香が質問する。


「うーん、シイロちゃんがなぜか拾ってきたり、アイシャちゃんが集めてきたりするの。何かに役立ちそうな気がするってね」

「へー。そうなんだ。じゃあこの部屋は使えなさそうだね」

「おう。じゃあ出ようぜ」


香はクオンの返答に納得する。確かにあの二人ならガラクタを拾ってきそうだ、と。香はシイロとアイシャの見た目が中学生ほどに見えるのでどこか子供っぽいその行動に納得した。


そして三人は図書室の隣の教室に着いた。


途端にマーガレットとクオンの口が軽くなる。


「あー! ここはものすごいおすすめだぞ!」

「そう! この部屋の隣の私たちが言うんだから確かよ!」


なお、二人は演技力が無いのでセリフは棒読みである。


「ここは日当たりも良いし」

「すぐとなりに図書室があって本が読みたいときにすぐ読めるし」

「夏は涼しいし」

「冬は暖かいし」

「これから寒くなる季節にはピッタリだな!」

「しかも隣には私たちがいるし!」

「いざというとき守れるな」


突然始まった茶番のような会話に香は少し困惑する。何事かと疑惑の目を向けるが二人は見ていない。マーガレットは自信満々に喋るし、クオンはメガネを中指で持ち上げ決め顔で言う。


「ああ、確かに良いかもね」


あまりに分かりやすい演技に、香は全てを察して言う。


二人は僕に隣室に来てほしいんだ。だからステルスマーケティングならぬダイレクトマーケティングをしてくるんだ、と。


しかしよく考えてみれば決して悪いことではない。


マーガレットは中身は快活だが、外見は黒髪ストレートの清純な美少女で、クオンは大人びた灰色のウェーブのかかったロングヘアーの知的な美人である。そんな二人と隣室になれるのだ。うれしいに決まっている。


「本当!?」

「香、じゃあ!」


クオンとマーガレットは香の言葉に喜びを隠せない。


「あ、でも他の所も見てからにするね」


しかし香が次に放ったのは期待を裏切る無慈悲な一言だった。香としては他の所も見て決めたい、というのもある。


「あ、そう…」

「お、おう」


クオンとマーガレットは悲し気に呟く。そんな美人が弱気になっているのを見て、「やっぱここに決めた!」と言いたくなるが、香はグッとその言葉を飲み込む。


次はアイシャ、中二病系痛かわいい子による三階の案内だ。








文章力を嘆く作者のコメントを見るの嫌いだけどなぁ…

これは後で書き直したいですねーー



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