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おはようルインズオブスクール

日常パートに入る入る詐欺してすみません



香はこんこんと眠り続ける。そして夢を見ていた。


「能力というのは、…なんて説明すればいいのか分からないくらいのもの。当たり前のものなんだけど…」


場面は香の記憶に新しい廃校の食堂だ。そこでシイロの話を聞いている。


「持ってない、みたいだし、それ自体を知らないというのは分かった」


シイロは自分自身を落ち着かせるように、話を整理する。


ここで香は自分が別の世界から来たことを言わなかった。そう言えば説明は楽なのだが、もし「異世界人絶対殺す世界」だったらいけないし、シイロたちをあまり混乱させたくなかった。とりあえず生活が落ち着き、そして異世界から来たことを言っても安全だと分かるときまで様子をみようと判断した。


「記憶喪失?」


シイロがそう言った。香はその筋に乗ろうとこの時思いついた。


「そうなの!?」


香が記憶喪失という話をすると、シイロは驚く。


このとき一瞬ギラギラとした視線を女性陣から感じたが、香は気のせいと思いあまり深く考えることは無かった。


「じゃあ…さっき言った通り、この廃墟で暮らすってことでいい?」


香はその話に頷く。


頷いた瞬間女性陣はガッツポーズを決めた気がしたが、まさか見ず知らずの人間を養うことが決まって嬉しがるものはいないだろうと思い、何かこの世界特有の感情表現なのだろうか、と予想する。


そういえば、なんで君たちは僕をあの獣の耳が生えた子たちから離したの?


香はシイロに疑問をぶつける。


「それはあいつらは人間を群れに連れ帰って、食らいつくすからだ」


シイロは、性的な意味で食べつくされてしまうと言ったつもりだった。それは女性視点からしてみれば、男を食べるということは()()()()()()しか指さないので、シイロにしてみれば十分に意味が伝わるからだ。言葉足らずという感じも否めないが。


しかし香にしてみれば違う。香はカニバリズム的な意味でその言葉を受け取った。そして香は獣人の少女がやけに自分の匂いに執着していた一幕を思い出す。


あれは抑えきれない食欲を少しでも発散し、自己を抑制するためだったのでは。


香はその予想に傾倒して、「エロイ」と獣人の少女が言っていたことや、「里のベッドまで連れていけばいいんですね!」といった発言を無意識のうちに思考から除外していた。一度思い込んでしまえばその思い込みに事実を捻じ曲げて受け取ってしまうのが人間の性である。


香は間一髪のところを助けてくれたことを感謝する。そして獣人たちに恐怖する。


両者の思いは違っていたが、偶然、香はシイロに感謝し、シイロは香が納得したと思う構図が出来上がった。誤解していることはこの時点では気づかない。


そしてシイロとの会話は続く。


不思議なことに夢はシイロと話したことをなぞっていた。一語一句同じとまではいかないが、意味はほぼ同じだ。


記憶を定着させる夢の機能を存分に活かした夢の内容だった。




「あれ」


驚くほどスムーズに眠りから醒めたことに香は少し驚いた。まるでずっと起きていたように意識は鮮明だった。旅行先でどこで眠っているのか一瞬分からなくなることがよくあるが、それとはまったく逆の目覚め方だ。ここは異世界で、昨日からこの廃校で暮らすことになった、ということをすぐに思い出せた。


案外自分は適応力があるのかもな、と香は思う。


香はベッドから身体を起こす。新品のようなシーツのかかったベッドはなかなかに寝心地がよかった。彼女らはどこでこのベッドとシーツを手に入れたのだろうと香は思う。


外には廃墟しかないのに。どこかに街みたいな場所があるのだろうか。


香は部屋の窓から朝日に輝く外の景色を見る。


この建物は少女たちは廃墟と呼んでいたが、香には学校にしか見えなかった。


今香がいる部屋も黒板が設置されているし、その黒板側には机のようなものがうず高く積まれている。机の山は教室の四分の一ほどを占めており、残りにベッドが置かれている。しかし教室は結構広いのでベッドだけでは少し寂しい感じがした。


そして天井からは電気のコードが垂れ、蛍光灯ははまってすらいない。学校は学校でも廃校だ、と香は思った。


不思議と割れていない窓からは、校庭とその向こうにコンクリートのがれきの山が見える。ところどころ形を保っている建物はあるものの、大体は風化し崩れていたり表面を草が覆っていた。


ここへは森を抜けた先の草むらを通ってきた。平地にあるこの校舎の周りには廃墟と呼んでもいいものなのか、建物の残骸が並んでいた。街がそのまま風化したようだった。


ここは文明の衰退した世界なのだろうか、香は予想する。


「とりあえずあの人たちに会おう」


香は食堂に向かうことにする。





「おはようございます」


香が食堂に行くとそこには既に一人の少女がいた。てきぱきと朝食の準備をしている。


灰色のウェーブのかかったロングヘアーをした女性だ。クオンだった。


クオンは廃墟の中で、最年長の頼れる存在だ。シイロも同い年だが、見た目の大人っぽさが違う。シイロは灰の長髪を背中まで伸ばし、メガネをかけた母性にあふれる見た目をしている。体つきも大人の女性らしい豊満なものだった。


香から見て、一言で言うならばきれいなお姉さんだ。人妻のような大人びた色気を醸し出しつつ、若々しいからだを持ち合わせる。とてもエロイ。ぜひ美人図書館司書として働いていてもらいたい。


そんな欲望を抱かせる知性的な美だった。


となると、当然緊張してしまうのが男というものだ。香は緊張しながら朝の挨拶をした。


一方、クオンは内心とんでもないことになっていた。


男性である香がこんな朝早くに起きてくるはずがないと思っていたからだ。人の気配を感じた瞬間、まさかとは思ったが、香が来ると予想していなかった。それゆえにクオンは動揺していた。


朝の食堂。二人きり。


クオンはその事実に震える。心臓がバクバクと動き出す。今ここで彼を押し倒したらどうなるんだろう。いやいやダメだ。昨日みんなと約束したではないか。


クオンはいわゆるむっつりスケベ、態度には現さないものの頭の中ではしっかりとエロイことを考える女子だった。悶々とこの状況に思いをはせる。



「はい、おはようございます」


しかしそんなことはおくびにも出さない。ここで香に嫌われてはいけない。クオンは笑顔で挨拶を返す。


「朝食の準備ですか」

「はい。そうです」

「へー。いつもやっているんですか?」

「はい」


香は会話を続けていく。


「すごいですね。手伝いますよ」

「ありがとうございます」


クオンはと言うと。


はあー! 私今香さんと喋ってる! 大丈夫!? 違和感ないわよね? ちゃんと会話できてるわよね? なんか良い匂いするんだけどなにこれ! 香さんの匂い? すごいいい匂いなんだけど。好き。


というか私今香さんと一緒に働いてる!? 共同作業しちゃってる!? 今ここで香さんにいきなりキスしたらどうなるんだろう? 怒るかな? 逃げるかな? それとも照れるかな? ええ!? どうすればいいの? 今までこんなこと無かったから分からないんだけど! 押し倒しても良いってことこれ!?


内心焦っていた。生まれて初めて異性と会話するので無理もない。しかしそんな動揺を顔に出さないのが彼女のすごいところだ。


香のクオンへの印象は優し気で理知的な女性というものだった。外面だけならばそう感じるのも無理はない。


香とクオンはそのまま食事の準備をする。そのころになると、マーガレットやシイロやライアが食堂に集まて来た。皆、香とあいさつを交わす。


「おはよう」

「おはよう!!」

「おはようー」


シイロは今日は珍しく髪を一つ結びにしていた。普段ならば無頓着に起きたまま食堂に来るのだが、今日は起床後少し身だしなみを整えたのだった。


香は挨拶を返す。シイロは白衣を着ていた。というか普段からずっと白衣だ。これはシイロの寝泊まりしている理科室にあったものを洗浄して使っているものだ。シイロのサイズに会っていなくて若干丈が余っているのはご愛敬だが、理知的な雰囲気のシイロに良く似合っていると言える。香は萌え袖とポニーテールのシイロに少しときめいた。


マーガレットは髪をとかし、軽くジョギングした後だ。神経が過敏になっていたのであろう。今日はクオンの起きる気配に目が覚めてしまい、そのまま眠れなかったのでジョギングしてきたのだ。


まるで大和撫子のような黒髪ストレートと切れ長の瞳という容姿とは真逆に、はつらつとした少女だ。香は彼女からこのとき既にギャップ萌えというのを感じていた。


ライアはふわふわの茶髪に常に眠そうな瞳をたたえた、ゆるふわ系少女だ。間延びした話し方に香はグッときた。しかし本人は意外と頭が切れ、いざというとき頼りになる。また、いつも眠そうでも怠惰というほどでもなく、雑用も難なくこなす。まさに天才肌な少女だ。


三人は香とあいさつを交わし、準備を手伝い始める。普段よりも早く皆が集まったことにクオンは何となく不満を感じる。香がいるときだけ手伝うのはおかしいと感じたからだ。しかしその言葉は我慢し、着々と準備する。五人で準備したので、すぐに朝食の配膳はできた。


いつもより三十分は早い。クオンは少しあきれる。しかしまだこの場に来ていない少女のことを思い出す。


その人物はアイシャだ。普段はアイシャは食事の時間ギリギリまで寝ていて、マーガレットにたたき起こされているのを日課にしている。


クオンは朝食が早まったことも相まって、今日もそうなるだろうなと思っていた。


しかしこの日は違った。なんとアイシャが食事時間前に食堂に現れたのである。


「おはよう、こ、香」

「おはよう」


アイシャは赤い顔で香に挨拶をする。香はそれに笑顔で応える。


アイシャは香のその笑顔に一瞬フリーズする。


「おい。いっつもお前こんな早く起きないだろうが!」

「う、うるさい!今日はたまたま早く起きてみただけだ!」


そんなアイシャをマーガレットが茶化す。アイシャは普段のクールさを意識した喋り方を忘れ、マーガレットにくって掛かる。普段のクールさも本当にクールかは疑問だが。クオンは「アイシャもか」とあきれる。


「香が来たからだろー?」

「な、そんなことは無い! 断じてない!」

「ふーーーん」


マーガレットはそんなアイシャを生暖かい目で見た。


「はいはい。二人ともそれくらいにして、もうご飯にしようか」

「うん、みんなも集まったしー、準備もできたしね」


クオンとライアがそれぞれ声をかける。


そして六人はテーブルを囲み、朝食を食べた。女性陣は食事中香の方を見ていた。また、会話も少なく、香としては胃に穴の開きそうな思いだった。


特に食事中シイロは香をずっとちらちらと盗み見ていた。それは予知の幸せな映像を思い出してのことだったが、今のところシイロに実現の兆しは見えなかった。





「はい、朝食も食べ終わったので、これから香にこの施設の案内をしていきます。各自が各々の部屋周辺を紹介して回って」


シイロがみんなを前に言う。


朝食を食べ終えた全員は、昨晩シイロが言った作戦を実行に移した。そして香の部屋決めのためのアピールタイム、もとい刷り込みタイムが始まったのだった。








読んでくださりありがとうございます!! 


廃校の訳が分からなくてルインズオブスクールにしちゃいました。辞書引いたらクローズドスクールってのが出てきたんですけど、これだと「寂びれた校舎」とかの意味合いじゃなくて、閉校自体のニュアンスが強いなーって思ったからです。


こっちの方が良いんじゃない!? とか、間違ってるよ!! とか、英語もできないのか豚が!! って感想欄で気軽に罵って下さいお願いします(唐突にMに成り下がる)

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