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生活の仕方

この世界には旧都市部と郊外がある。


旧都市部は前人類の経済活動の拠点であった場所で、今は崩壊したビル群が広がっている。そこで小規模ながらも街の機能を持ち、活動しているコミュニティもある。


逆に郊外は既に自然の一部と化し、草むらや森が広がっている。植生は戦争以前とは異なったものであり、戦争の余波で突然変異したものと考えられる。


豊かな自然が広がり人工物の淘汰された郊外だが、まれに人口の建物や街の一部が残っていることがある。過去に起こった戦争によりそれらのほとんどは崩壊し、機能を失っている。しかし戦争直前に作られた比較的新しい建物の場合は、戦争に備える意味もあったのか、頑丈で、ライフラインを維持するための機能が生きていることもある。








香はある日、女性ばかりの荒廃した世界に来てしまった。


気付いたら異世界に来ていたその日は、獣人の少女たちにもみくちゃにされたり、人間の少女のコミュニティに移動したりと様々なことがあった。また、異世界に飛ばされたのが現実世界の夕暮れ時だったこともあり、香の眠気はピークに達していた。


だから香は助けてくれた少女たちにお礼の言葉や香の世界の詳細を一通り話した後、ライアの隣の部屋で寝させてもらっていた。


香が「疲れた」と言ったとき、ライアがすぐさま「じゃあ私の隣の部屋使いなよ、ちょうど今日掃除したんだ」と言ったのには女性陣でひと悶着あったが。


「ありがとう、じゃあお言葉に甘えて」


そう言って部屋を借りると、きれいにシーツのひかれたベッドで香は横になった。


一方、食堂では元廃墟のメンバー、つまりシイロ、マーガレット、クオン、ライア、アイシャの五人が集まっていた。


「お前なにちゃっかり自分の部屋の隣に(香を)寝せてくれとんじゃ!」


「だってー。そこしか掃除してある部屋が無かったんだもん。言ったでしょ?」


「掃除したのはいつだ?」


「今日」


「確信犯じゃねーか!?」


香が出て行ったあと、大和撫子然とした少女はその見た目とうらはらにライアに荒々しく食って掛かる。それをふんわりとした茶髪に垂れ目のライアが飄々と受けとめる。外見はともかく、二人は正反対の性格をしていると言えた。


「まあまあ、落ち着いて、二人とも」


白髪の小柄な少女、シイロが言う。


「今日はとりあえずあそこで寝る、てことでいいけど、明日からは変えるからね」


「なんで!? いいじゃんー!」


「明日、香の意見も聞いて決める」


シイロはライアの目論見をつぶしにかかる。シイロにとっても香が女性の隣の部屋にいつもいるのは耐えられない。単純な嫉妬だが、それの決定方法が掃除していないから、というものではさらに抵抗感がある。みすみすその目論見を見逃すはずがない。


「えー!! ヤダー! 香の隣がいいー!」


ライアは駄々をこねるが、皆にたしなめられて黙る。香の意思で部屋を決めるのが妥当という主張も、もっともだからだ。


「はい、じゃあこれからの生活の仕方を決めたいと思う」


ライアが黙ったところでシイロが言う。


「それは、食事とか、風呂とか、いろいろな家事の分担とか?」


「そう」


クオンの質問にシイロは肯定を返す。クオンは「看破眼」を持つ、ロングヘアーの大人しい女性だった。メガネをかけ、皆の食事も作っていることから、他の少女よりも年上に見える。実際はシイロと同い年だが、皆はそう認識しておらず、どちらかというとシイロを最年少に、クオンを一番年上だと考えていた。


「なあ、それはもしかして夜、の方もか?」


マーガレットは不敵な笑みを浮かべて問いかける。


香は貴重な男性だ。そして男性はこの世界では、コミュニティにとどまり、あるいは軟禁され主にあっちの処理をするのが一般的だ。


そのセイカツの仕方をマーガレットは聞いた。先ほどのクオンの質問もそれをそれとなく聞いたものだったが、遠回しすぎて誰も気づかなかった。


「そう」


シイロの肯定に皆ゴクリと生唾を飲んだ。皆の頭の中では行き場の無い欲望と、大きな疑問が渦巻いていた。


「それじゃ、どうするんだ?」


マーガレットが率直に聞く。


「香を、奴隷のように扱うのはよくない、と思うけどみんなは?」

「私も」

「我もだ」

「もちろん」

「アタシもだ」


シイロの言葉に皆同意する。


自分たちを慕ってくれていて、警戒心をもたない純粋な男性をひどく扱うのは気が引けた。それに香は珍しくも何も能力を持たない男性だ。弱い男性を虐げるのは女のプライドが許さないものであり、何よりも平和に暮らせるならそれ以上のことは無いというのが皆の共通認識だった。


シイロたちが皆他のコミュニティにいられなかったのも、その優しさが原因かもしれない。


「じゃあ具体的にはどうするの?」

「…それは、各自でアプローチする。でも、無理矢理はダメ」


クオンの疑問にシイロが答える。


「ってことは?」

「早い者勝ちってこと?」


早いもの勝ち。アイシャの言葉に皆は身構える。


本来ならば、コミュニティというのは資源を分配するものだ。それは男性も同じであるというのは、この廃墟のコミュニティ全員の認識だった。


しかし、はじめの一回となると話は変わってくる。


香とは初対面であるし、まだそんな恋愛関係ではない。コミュニティの一人がそのような関係になれれば、なしくずし的に全員がそんな関係になれるのだろうが、それはまだ早い。


香と友好的に接する以上、香とはそれなりに段階を踏んで仲良くなる必要がある。つまり、暴力には訴えられない。ということは、彼女らは手探りで香と接していくしかないのだ。


シイロはゆえに、早い者勝ちの態勢をとることで、効率よく香をコミュニティに定着させようとした。誰かひとりでも()()()関係になれば、連鎖的に香は全員のものになる。女性ならではの独占欲を我慢しての選択だった。


「そう。好きなだけアピールしても良し、抜け駆けあり、ルールありの勝負」

「ルールってのは?」

「香をレイプしない、香の私物を盗らない、香を手に入れられたら積極的にみんなに分配することを誓うこと」

「つまり、みんなそれぞれがアピールして、香と恋人になろうってことだね」

「そういうこと」

「レイプの定義を教えてよ。曖昧だといけないから」


実際はもし皆が香を無理矢理に飛びかかっても誰も不幸にはならないだろう。香は美少女たちたいいことができるならば最高にうれしい。お互いウィンウィンである。


しかし彼女らは香の貞操観念を知らない。欲望はすれ違い、シイロたちは方針を固めていく。


そして最終的には、各自が香と()()関係になる権利をもつこと。各自普段の仕事は休まないこと。香を部屋に連れ込むのは禁止。ただし、香から部屋に入ってきた場合は除くこと。香とそういう関係になったら、頃合いをみて自己申告し、コミュニティの皆の関係を進めるのに協力すること。変態行為が見つかったら、コミュニティ内にて裁判を行い、それによって決定した罰を受けること。などの条件が定められた。


そしてこれを承認しなければ、香と関わる権利を得ないとした。


もちろん全員が承認した。


これから、コミュニティ内で香をめぐる争いが繰り広げられることになる。しかいそれは水面下の少女たちの攻防であり、あくまで模索の時間だ。そう。彼女らは経験もない純粋な少女たちなのだ。加えて、この世界は男女間の交際に関する知識は無に等しい。


不器用に猪突猛進に、試行錯誤しながら彼女らは進んでいくだろう。


しかし、彼女らは知らない。


香が女性に対して少しの免疫を持っていることを。そんな彼は無意識無自覚に魅力を振りまくことを。


「じゃあ、明日は香の部屋決めをするから」

「むむむ」


シイロが話をしめる。それに対して、ライアはもう既に自分の隣の部屋にいる香を移動させるのが嫌で歯噛みする。


「施設の案内をして、最後に香に場所を決めてもらうってことだな。まあ幸い、空き部屋は多いからな」

「有利な部屋を選ばせられるようにしろってことね」

「そうだよ」


マーガレットとクオンは顔に出さずとも燃えていた。香と仲良くなる、その第一歩として部屋決めは大きくかかわってくるからだ。


明日は頑張るぞ。その思いは皆も共通している。














登場人物が一気に増えすぎて覚えられない? 


作者である僕もそうなので心配いらないですよ! ←おい


作者の僕と一緒にゆっくり覚えていきましょうね…!



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