アーバンエリアにさよならを
変化とか災害とかは突然起こるものではない、と誰かが言っていた気がする。しかしそんなのは嘘だ。
…いや、嘘というのは少し強い表現すぎるかな。まあ僕が言いたいのは、それが当てはまるのは変化を同次元で観測できたり、結果論として言うことができるときのみだ。
だから、全く違う次元、別の世界から干渉されたときには当てはまらない。
つまり何がいいたいかというと…なんか異世界転移したんですけど!
〇〇〇
夕方、僕は大学からの帰り道を疲れた顔で歩いていた。家までもうすぐのところの閑静な住宅街の道。
右足を踏み出す。左足。右。左。右。左。
そして次に右足を踏み出した瞬間、僕は異世界転移した。何を言っているか分からないだろうが僕も分からない。
本当に何の前触れもなくここにいたんだ。はじめは何もないところでつまずいたのかと思ったほどだ。
そして今につながる。
「え? なんだここ え? えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
周りは草原。見渡す限り。遠くには森が広がっているのが見えた。しかし草原も森も青々とした色ではなく、どことなくくすんだ赤黒い色だった。もちろん緑の葉も見えることは見えるが、全体的にドクダミのような毒々しさを感じさせる。
「どっきり!? カメラどこ??」
もしかしたら現実の人為的な出来事ではないかという希望にすがりつき、辺りを見渡す。
そして真上に浮かぶ二つの太陽たちを発見する。
「なっ! なんだよ! これあれじゃん! 異世界転移じゃねーか! あああああどうしよう! 疑う余地がない!!」
あまりの怒涛の展開に頭の処理が追い付かない。ってかなんだよ! いきなりはやめろよ! ふつうあるだろ!? 神様との会話パートとかさあ! やけにフレンドリーでよくツっこんでくれる神様からチートをもらうだろ!
「それが無いということは…っステータス!!!!」
赤緑色といえる草原の上を風が吹き抜ける。あ、あれ!?
「ステータスオープン! 鑑定! スキル! 見たいっ! どう表示されてるのかよくわからないアレがっ!!」
あえなく僕の声は何も起こすことはなく、今度は風が一瞬だけ止まる。
ま、まさか、あれか!? ダークファンタジー系か!? デスゲーム系か!?
だとしたら辺りを警戒しなくてはいけない。僕はさっと草原を見渡す。
どうやら僕が立っているのは草原の端っこらしい。右にはチラホラと地面から突き出した岩や小高い丘などが見えるものの、地平線まで特に何もない草原が広がっている。左には森、樹海といっても差し支えないであろう、光のとどいていない森林が見える。そして僕はその森と草原の境目からすこし草原側にいった方に立っていた。
「まず…ここはどこだ…?」
周りに人工物はない。いや、もしかしてあれは!?
目を凝らすと、僕の後ろ側に少し草の薄い、道のような場所が見えた。
「道!? もしかしたら人がいるかもしれない。行ってみよう!」
まあ人じゃなくて「オデ、ヒト、クウ」とか言っちゃう化け物かもしれないけどね。とりあえず行ってみよう。そして僕が少し悩んだ末、そっちに足を向けたその時、森の奥から道をたどって何人かが歩いてくるのが見えた。
「わっ! やばい! とりあえず隠れよう!」
びっくりして僕はとっさに近くの丘の斜面に身を伏せる。いや、隠れる必要はなかったかもな。もしかしたら友好的かもしれないし。
僕は草陰からそっと彼らを観察する。…いや、彼女達、か。
見ると人影は全員女性だった。なぜ男がいないのか分からないが、そんなことはどうでもよい。
「まじか…」
重要なのは、彼女達全員の頭に、まるで獣のような、というかケモミミが生えていることだ。
「けもみみ獣人キターー!!」
僕は興奮のあまり、声を出してしまった。するとどうだろう。僕の口からでた声という音波が彼女らの鼓膜を揺らすことになる。彼女らのそれぞれが鼻をぴくぴくさせたり、耳をぴくぴく動かしたかとおもうと、皆いっせいにこちらを向いた。
「こっちだ!!」
「なんか変なにおいするぞ!!」
「変な声があっちから!!」
「やばっ!!! 逃げろ!」
はい。ということで見つかってしまいました。というか何気に最後の子ひどいな!? あ、そういえば言葉通じてよかった。僕は一目散に逃げだす。
彼女たちはなぜか追ってこない。それをいいことに僕は走って距離を離していく。
「あいつ人間!? なんで逃げるんだ?」
「私らにビビったんじゃないの?」
「いや、取引に来たんなら逃げちゃダメだろ!?」
「偵察とか?」
後ろで会話がうっすらと聞こえる。
「いや、待て!! あれはもしや…!」
「姐さん?」
「おい! ラビ!! あいつを捕まえろ!」
「ひゃっ! は…はい!」
後ろの方でなにか声がしたが大丈夫だ。振り向いても彼女達は追ってきていなかった。もう距離は結構離した。逃げ切れたのかもしれない。
ふとそこで彼女達のうち一人がジャンプするのが見えた。
「ふぐっ!!」
後ろを向いて走っていた僕は、ここでなにか柔らかいものにぶつかった。
「な、なんだ!?」
僕は何か…人に抱きしめられる形で止められていた。よく見ると、それはさっき見た獣人の一人、うさぎの耳を持った娘だった。彼女の白髪ボブはサラサラと僕の胸を流れるように垂れている。
「なんで…」
「捕まえました!」
彼女が僕と目を合わすと、彼女の赤い色をした目が見えた。そしてうさぎの娘は捕獲を宣言すると、僕を軽々と持ち上げた。彼女の胸が驚くほど柔軟に押しつぶされ、みぞおちの辺りが柔らかい。いやいやいや。今は捕まってしまったのだ。そんな場合ではない。
「ちょっと…! 離して…」
「ほっ!」
そして彼女は短い掛け声とともに、僕もろともジャンプした。
視界が変わった。いつの間にか獣人たちに囲まれていた。
「は」
さっき彼女達がいた場所に僕が移動したようだった。
「なんで」
「あはははっは!」
「捕まえました!」
「よくやったラビ」
「このにおい…」
周りを囲まれていた。ねこみみ、いぬみみ、うさみみ、きつねみみ。ここは天国か!? と見紛うほどの光景が広がっている。彼女達はよく見ると全員美人で、まるで楽園にいるようだ。さらに今僕は白髪うさみみ美少女の胸が押し当てられている状況であり…。
「へぇー意外とかわいい顔してんじゃん」
猫耳の少女がいう。今はそれどころではないが、どうしても小学生のころ女顔だからいじめられたことを思い出してしまう。
「なんだよお前ら! 離せ」
「離してやれ、ラビ」
いぬみみの、おそらくリーダーであろう長髪の美人がいう。
「はぁっはぁっはぁっ。…いやです」
「は?」
やっとこの柔らかい捕縛から逃れられると思ったが、しかし兎少女が放った返事は予想だにしないものだった。
「おい、離してやれよ」
「っ離してやれ! ラビ!」
「いやです。だってこんなにいい匂いがして筋肉が硬くて抱き心地がいいんですよ! なんで離さなくちゃならないんですか! 別にこのままでもいいでしょう!? 私が年中発情期なの知っていますよね! こんないい体抱いたら、いくら女相手でも興奮するに決まっているでしょう!!!」
激しい運動の直後のように、息の整わないままにうさみみをぴくぴくとさせ、少女はまくしたてる。は? 意味が分からないというかおっぱいがやわらかいきもちいい…。
「おい」
「まずは離せ」
「この年中発情期が! いつも迷惑なんだよ」
「話が聞けないだろうが!」
周りにいるけもみみ少女達はあきれた顔で声をかける。
「そいつ、男だぞ」
そこで、ポツリと犬耳のリーダーがつぶやいた。すると、少女らはギギギッとまるで機械仕掛けの人形のようにぎこちない動きでこちらを向き、ゴクリと生唾を飲んだ。そして騒ぎ始める。まるでひな鳥のいる巣のように、はじけるポップコーンのように、理性が無くなったように。
「はあああああああ!?」
「これが!? 噂の!?」
「はあはあはあはあっはあっ!」
「おいはなせバカ!」
「私にも触らせろ!!!」
そして彼女達は赤らんだ顔でこちらに向かって手を伸ばす。いや待ってこわいこわい! みんな目が血走ってる! 美人に迫られるのはすごい嬉しいことだと思ってたけど、いざ実際にその状況になったら意外と怖い!
「いやだから、なんで?」
なぜうさ耳少女に捕まったらワープしたのか、なぜ彼女らはこんな風に暴走しているのか、分からなくて僕はただ疑問の声を漏らした。
暇なので書いていきます…!
評判良かったら続けますね