せんせい
「そこから飛び降りなさい」
それがある日クラスの28人中
12人に向けられた先生からの言葉。
片田舎の小学校。
教室は3階。
窓際でふざけていた12人。
教室に入ってきた先生は
心配するそぶりもなく
怒った様子もなく
ただ無感情にそう言った。
おどおどする12人。
泣き出しそうな空気感。
そりゃそうだよね。
でもその空気感を変えた奴がいた。
椅子から立ち上がって
まっすぐに窓に向かって走り
飛び降りた
僕。
僕は実際のところふざけていた生徒じゃない。
ずっと机に座って本を読んでいた。
でもなんだか
体が勝手に動いていたんだ。
目が覚めるとそこは病院で
僕は自分が誰なのかわからなくなっていた。
「飛び降りた際の脳への衝撃
もしくは精神的なショックからの記憶喪失でしょう」
そんな声が聞こえてきた。
マスコミが押し寄せていて対処に追われている、とも言っていた。
先生は先生を辞めてしまったらしい。
安易な行動で
「ぼく」をなくしてしまった僕。
安易な言動で
「せんせい」をなくしてしまった先生。
不幸なのはどちらだろう。
本音を言えば
好きな女の子の名前くらいは思い出せたらな。
…好きな女の子
…もとい女の人が「せんせい」だと思い出したのは
それから1年半後の事だった。
ふこうなのはぼくのほうでした。