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君の声  作者: メーティス
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初めてのお使い

声が聞こえた。

ぼんやりとした意識の中、

誰の声かなんて分からない。

否──、本当は分かりたくないだけなのかもしれない。

その声は、どこか懐かしさを感じさせ、古めかしい記憶を呼び起こそうとしているようで、どうしようもない焦りを覚える。


感覚を感じない、その空間で、留めなく涙が零れているような気すらする。


思いだしたいのに、思い出せなくて、でも、思いだすのが怖くて.....。


そんな事に対し、罪悪感を覚える。


「──まだ、思い出さなくても言いよ。」


そんな焦っている私に対し、その声は、私が焦っている事をまるで知っているように、愛おしそうに、優しく言う。


そんな声に甘えて、思いだすのを躊躇ってしまう。


そして、だんだんと自分の意思に関係なく、その場所から遠のいていくのを感じる。


また、会えたらどれほどいいだろう?


そう考えている浅ましい自分に気ずき、苛立ちながら、私は意識を無くすのを感じた。





***********************






「──ぅ、はあ! っはあ、っはあ。」


目覚めた瞬間、急な息苦しさを覚えた。

僅かに手足が痺れ、汗が体中をつたっている。

心臓の心拍数も、恐らく通常時をとっくに通り過ぎているだろう。

それだけ、体からの異常が、じかに感じられる。


「プリム~、朝ご飯よ~。」


「.......は、はい!」


母親の声で、先ほどまでとは違い、はっきりと意識が覚醒した。

ベトベトした体を気にしながらも、白いパジャマから、お気に入りのピンク色のパーカーに着替える。

もう慣れた手つきで、自分でブーツを履く。

この前の8歳の誕生日以降、自分で出来ることは自分でするをモットウに頑張っているのだ。

キシキシと音を立てる木製の階段をゆっくり降りていくと、紫色の髪を肩からたらしている、色っぽいエプロン姿の母がいた。


私は元々、おとうさん似の緑色の髪を、肩までに切り揃えていて、顔も丸顔だから、お母さんの色気を受け継げなかったみたい.....。


「実はね、今日、プリムに頼みたい事があるの。

 お願いしても良いかな~?」


母は木製の机の上に、似つかわしくない白い陶器のお皿を並べ、スープを注いでいく。

甘い香りが、ふわりと広がる。

今日は、私の好きなトロ~リクリームのシチューだった。


「うん。 大丈夫、今日はね、何もないから。」


スープを食べながら、今日の予定が何も無いことを確認すると、嬉々として答える。

すると、母はとても嬉しそうに笑顔になると、いつも使っている草を編んだ買い物籠を持ってきた。


「今日はね、プリムにお買い物に行ってきて欲しいの!」


母の言葉に思わず目を見開く。私がこれまで一人で買い物に行った事はなく、それは初めてのお使いだった。


「わかった! で、で、何を買ってくればいいの??」


嬉しくて、つい机から身を乗り出して聞く。

母はそんな私の事を見て、頬を緩めている。


「今日はね、おとうさんの誕生日でしょ?

 だからね、美味しいローストビーフを作るために、プリムにお肉を買ってきて欲しいの、お願いできる?」


再度母は、首をコテンと横に倒し、問いかける。


「うん! 絶対美味しいお肉買ってくるね!!」


買い物籠と、銅貨を受け取ると、おとうさんが仕事から帰ってくる前までに帰らなくては!と意気込み、外へと飛び出したのだった。




***********************






「迷子に......なっちゃった。」


街へ出たはいいが、森を進んでいるうちに迷子になってしまったのだ。

森は鬱蒼と茂っていて、いつもより恐ろしく感じるられる。

少し葉っぱがこすり合う音がするだけでビクビクとしてしまう。

時間もなくなってきちゃったし.....。


どうしようか迷っていると、空気が震えた。

そう感じるような違和感を感じた。


僅かだが、体が少し重くなって、肌を指でなぞられるような不快感な感覚が体全体に広がっていく。


なんだか、胸の所がザワザワする。


こういう感覚....、胸騒ぎって言うんだっけ?


早く街に行かなくちゃいけない、何故かそういう気持ちが広がっていく。

きっと、この胸騒ぎだって勘違いだと思うけど、でも......。



「ふっ、くぅ........。」


自然と目から涙が溢れでてくる。


ねぇ、街はどこなの?


今、街に行かなくてはならないのに、結局何もできなくて、おとうさんのために....、せっかくお母さんが私の事を信頼してくれたのに......、今街に行かなくちゃ、間に合わなくなるのに.......。


たった一人になってしまっては、何にもできない自分が、情けなくて......、情けなくて.......。


ただ一人、森の中でしゃがみこむ。


早く早くと言う気持ちだけ込み上げてきているのに、森が怖くって、もう、足が動かない........。



「どうしたの?」


すると、とても綺麗で、澄んだ声が真上からした。


見上げてみると、黒いマーメイドラインのドレスを着ている人が立っていた。

薄い紫色の日傘をさしていて、顔が見えない。

かろうじて女の人だということと、私より年上だということ、そして、まったく生活感を感じさせない、透き通った白い肌であることが、傘を持っている手からわかる。


「まい.....ご...に、なっちゃったんです。」


「フフ....、街え行きたいのでしょう?」


そう言って、女の人が微笑んでいるのが分かった。


「う.....ん。」


短く答える。

女の人は、それだけで満足だったのか、歩みをどんどん進めていく。


「ついていらっしゃい。」


女の人が、そう言いながら、少し此方を振り返る。

依然、顔は見えないままだが、早く街へ行きたい気持ちが抑えられる訳もなく、つて行く事にした。


「お姉さんは、どうしてこんな所にいたの?」


「............。」


「どうして黒いドレス着てるの?」


「.............。」


色々と質問をするが、無言を貫き、何も答えてくれない。

足を進める速度も、全く変わってはくれない。

鬱蒼とした森の中、たった二人で見知らぬ人と歩くのは、中々勇気がいる、しかも、会話が全く続かないのだから、その分、余計緊張してしまう。



「着いたわよ。」


悶々と悩んでいると、不意に、隣から声がした。

顔を上げて、見てみると、目の前には街が広がっていた。

明るい声が飛び交っていて、初めて一人で来た街は、とてもキラキラとしている。


「あのっ、案内して下さってありがと.....」


お礼を言おうと、横を見るが、いつの間にかいなくなっていた。

もしかして、先に街に行ってしまったのだろうか。

まだ、お礼も、言えてなかったのに。


とりあえず、街へ行かなくちゃ!


早くお肉を買わなくちゃ、迷子になった時間だけのロスタイムもあるのに....。



***********************






「はい、お嬢ちゃん偉いのね~。」


お肉屋さんのおばあちゃんが、お肉を渡してくれる。


これで、おとうさんが喜んでくれる。

そう思うと、思わず頬が緩んでしまう。

きっと、お母さんも、美味しいごはんをたっくさん用意してくれるだろう。


早く夜にならないかな~。



そう、思っていた時......。


「イヤァァァァァァ......!!!!」


街の中心部の方から、女性の叫び声が響いた。

その声と共に、中心部から、どんどん人が鬼気迫った顔で、こちらえと、溢れだして来る。

私も、その人の波に押し流され、街を囲っている塀の所まできてしまった。


すると、また、森の時と同じように、違和感を感じた。


みると、地面が少しずつ中心部の方から、黒ずんできた。

まるで、コップから水が零れだしたように、地面を浸食していく。

黒ずんだ部分は、そこに除草剤を掛けたように、葉っぱや草が枯れていっている。

しかも、テントウ虫や、蝶々まで、パタリと動きを止め、体が黒ずみ、灰となり消える。

この黒ずみ、かなりヤバいんじゃ.....。


「こ、こないでぇぇっっ......!!」


何とか後ろの壁の部分まで逃げたが、それでもやはり、地面の浸食は止まらない。


思わず、目をつぶってしまう。



...................................?



ゆっくりと、目を開ける。


確かに、黒ずみは、私の靴の下まで広がっている。

だが、私に実害はなく、ただ地面が黒ずんでいるだけだ。

もしかして、人間には害がないのだろうか?


だとしたら、早くこの街を出て、家に帰りたいのだが...。


「以外ね、まさかあなたが消えないとは.....、

 でも、まあ、喜ばしいこと?なのかしらね.......。」


耳元で、場違いな、少しワクワクとした綺麗な声が聞こえた。


その瞬間、唐突な眠気に襲われる。


瞼が重くなり、足から力が抜けて、立っていられなくなる。


ドサッ


身体に、もはや、神経が通っているかも怪しくなり、

聴覚だけで自分の倒れた事を自覚した。


何とか、動かせる目で、僅かに視線を上に上げると──────、



「なん.....で?」


驚愕に目を見開ける。


有り得ない事なのに.....、嘘みたい。


そこで完全に私の意識は完全に闇えと沈んでしまった。

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