91話:月曜日の朝
7月13日日曜日。個人戦の開始だ。
個人戦、個人戦はこの地区は6位まで進出できる。
サツキ&クロちゃんペアは1回戦は普通に4−0で勝ち上がった。
で、2回戦の相手は、シード扱いになっていたのが去年個人戦で東海大会まで勝ち進んだという昨日のダブルス2のフクシマ&カミムラペアの2人組だ。
……いきなりこんな所で優勝決定戦をやるのか?
サツキ&クロちゃん vs フクシマ&カミムラは白熱した。
サツキ、昨日はフラットサーブしか打たなかったのだけど、実はスライスもスピンも打てた。強い相手との対戦の為に隠し持ってたのかな?
クロちゃんの豪速球のフラットサーブも相手はとるのが精一杯くらいで、サービスエースも何回も決めていた。
相手側も自分達のサービスの時はきっちりキープし、お互いにブレイクさせないまま3−3の同点でファイナルゲームに突入。
ファイナルゲームになると、徐々にお互いのサーブを攻略し始めた。
リターンエースも時々決まったり、ラリーがずっと続いたり、ファイナルゲームはジュースの連続。
何回続いたんだろ? 途中から数えるのやめてしまったから分からん。
最後、ギリギリのコースを狙ったサツキのボールがわずかに外れ、ゲーム。
ゲームカウント4−3でフクシマ&カミムラペアの勝ちだ。
2回戦敗退と言う結果だから、結局個人戦ではサツキ&クロちゃんペアは県大会に出場すら出来なかった……。
しかもサツキ&クロちゃんペアだけじゃなく、他のブロックでも強豪同士を1、2回戦で当てて潰すという訳の分からないトーナメントになっていた。
明らかに組み合わせが間違ってる!
オカ姉妹とキリ&マイマイペアもいきなり1回戦で当たると言う訳の分からん組み合わせ。
何考えてんだ? 主催者。
結局キリ&マイマイペアが4−3で負けて、オカ姉妹が勝ち進んだ。
……俺の母校、オカ姉妹と相性悪いな……。
ぎりぎりフクシマ&カミムラペアは県大会出場を決めたけど、それでも5位と言う結果。
フクシマ&カミムラペアは準々決勝、ベスト4決定戦でオカ姉妹と当たった。サツキ&クロちゃんペアでの対戦でばててしまってたフクシマ&カミムラペアは実力を全然出せず、オカ姉妹に負けた。
東海大会出場していたチームが5位で終わってしまうとか、ありえないだろ!?
そのオカ姉妹も、キリ&マイマイペアとフクシマ&カミムラペア、それと昨日の疲れも残ってたのか、準決勝でどっかの中学のペアに敗退。
オカ姉妹は結局4位と言う結果になった。
優勝したのはタナカ&スズキペア。昨日の決勝のダブルス1のペアだ。
確かにそこそこは強かったが、むこうのブロックに強豪がどこも入ってなかったという結果だよな。
……俺の母校からの個人での県大会出場は0か。実は昨日の決勝相手は県大会に3ペア出場してるからな。明暗くっきり分かれた結果だ。
ん? サキ&ミキペアは、今日は昨日の試合の疲れで動けなくなってた。仕方が無いので棄権していた。
……オカ姉妹はぴんぴんしてるのに、サキ&ミキは動けなくなるのはおかしいとか言うか?
あいつら、オカ姉妹のコンビプレーを、運動量でカバーしてたからな。
オカ姉妹より多く動いてたのは間違いない。
無駄な動きが多いと言えばそれまでだが、そこはプレースタイルの違いだ、仕方が無いと俺は思う。
サツキ、クロちゃん、キリ、マイマイ、棄権したサキちゃんもミキミキもみんな泣いてた……。
確かに『お前らは途中で負けたんだ』と言われればそれまでなんだろうけど……くそ、納得できない。こんな結果。
「まだ、団体戦があるだろ! 県大会まで後2週間半、頑張って団体戦で見返してやれよ!」
「うん、頭ではわかってるつもりなんだけど、やっぱり悔しいよう、ヤス兄……」
いつも笑ってくれるサツキがこんな風になってしまうのは悔しい。
……こう言う時ってほんとなんて言えばいいんだろう?
俺もこう言う時は何言われても、『あ、そ。どうせ他人事だろ』って聞こえてしまって、なんともならんもんな。
父さん、母さんも車で応援に来てたので、サツキ以外のみんなをひとりひとり送ってやり、俺とサツキは2人で家に帰った。
……結局、夕飯も食べんと、何もしゃべらないまま布団に潜り込んでしまった。
ま、サツキが寝息をたてるまではここで見てるか。
……明日には元気になれよ、サツキ。
……ほんと、個人戦はありえなかったな。本気で主催者の頭をぶん殴ってやろうかと思ってしまう。
……朝だ。 気になってあんまり眠れてない。
今日は7月14日月曜日、サツキの中総体地区予選が終わった翌日だ。
今は6時半、そろそろサツキを起こさないとまずいんだが。
サツキの部屋の前に立つ。
うう……なかなか入りにくい……。
「……サツキー、入るぞー」
返事が無いのはいつもの事だ。
まだ寝てるのかな?
そーっとドアを開ける。
……うん、まだタオルケットが膨らんでる。
「おい、サツキ。起きれるか?」
「…………くー…………」
ん? 普通に寝てるだけか?
とりあえずゆさゆさとサツキの体をゆらしてみる。
「起きろ、サツキ。遅刻するぞ」
「んー、や……」
……いつも通りの反応だなあ。
「起きろ! サツキ!」
「…………あー、もう朝?」
寝ぼけてるけど、起きたな。
「おはよ、サツキ……もう、大丈夫?」
「……おはよ、ヤス兄……えと、何が?」
「あ、えと昨日のさあ」
「ああ、そんなん一晩泣いたらすっきりしちゃったよ。ヤス兄の言う通り、まだ団体戦もあるしね! 今日から県大会まで、突っ走るよ!」
ふぅ、よかった。元気なサツキだ。
「じゃ、学校行こっか!」
サツキが元気よく立ち上がろうとしたんだけど、
「あぅ、めちゃくちゃ体重い……」
すぐにへたり込んでしまった。
「……昨日の疲れが残ってるな、今日は部活やらずに家に帰ってしっかり休養しろよ」
「……はーい、んじゃヤス兄、中学まで迎えに来てくれる?」
「え? あー、えと……そだな! 自転車漕いで行くから待ってな!」
「ありがと! ヤス兄、中学から2人で自転車で乗って帰るのは久しぶりになるね!」
「あ、うん……そうだな!」
嬉しそうなサツキを見ると、どうにかしてやろうと思ってしまう。
サツキにはばれないようにしないとな。
……ま、何とかするさ。
こんにちは、ルーバランです。
ヤス君は主催者を怒ってますが、強豪同士が初戦等で当たる事はよくある事です。
特にサツキ達みたいに今年の代から強くなった場合はシード権がないので、古豪とすぐに当たってしまうのはたびたび起こります。
それでは今後ともよろしくお願いします。