8話:1年3組
今回から高校に舞台は戻ります。
あの後、野球部だった中学校のときの同級生から逃げるように教室に戻ったら黒板上に座る席順が書いてあった。出席番号順になっていて俺は近藤で出席番号4、ケンは早川で出席番号12だから、必然的に席が離れる事になった。
俺は窓側の前から4番目の席。ケンは真ん中の前から6番目の席だ。
そして、戻って席に着いたら、ついさっきまで物思いにふけってしまってた。
周りを見渡すと、もうほとんどの人が席についている。
「あ、お隣さんですね」
そう言って話しかけてきたのは、入学式の前に会った、
「えっと……木野……さん?でしたっけ……?」
「はい、『木野あおい』です。確か、ヤス君でしたよね。」
「あ、はい……」
くそ、ケンのせいでヤスって呼ばれるようになっちまった。
あの野郎、覚えてろよ!
面倒なので特に話がないのなら、あまり話しかけないで欲しいんだが。
「康明<ヤスアキ>で、ヤス君なんだから、私の場合はアオになるんですね」
「さ、さあ……」
「じゃ、私はアオちゃんですね」
い、いきなり何言ってんだ!? このひと。
「えと木野さん……何の話……?」
「だって、私だけヤス君って呼ぶのは不公平じゃないですか? だったら、こっちもなにかあだ名つけませんと」
「いや、俺は木野さんでいいんだけど……」
「駄目駄目、せっかく同じクラスで1年過ごすんですから。そんな他人行儀じゃよくないです」
「いや、木野さん……」
「だから、木野さんなんて他人行儀は駄目です。これから木野さんって呼ばれても、私無視しますよ」
「……いや、別にいいですけど……」
むしろ、そのほうがいい。人付き合いなんて事務連絡程度の最小限でいいんだ。
「な、なんてひどいことおっしゃるんですか!? コミュニケーションは大事ですよ! 人は一人では生きていけないんですよ! 人という字は支え合っているんですよ!? そうは思いませんか?」
人という字は片方は乗りかかっているだけで、実際に支えているのはもう片方だけだと思う。
……そんなツッコミを入れたくなったが、これ以上会話をするのも面倒になり、妥協する事にする。
「……アオイさんでお願いします……」
「うーん、まあいいです。いつかアオちゃんって呼ばせます」
よくわからん。変な風に呼ばれたいのだろうか?
まあいいや、これからそんなに関わり合いにならなければいい事だし。
ちょうどその時、前のドアが開き、先生っぽい人が入ってきた。
制服を着ていないから先生っぽいだけで、まだすごい若い先生だ。さすがに高校1年生には見えないが、10代と言い張れる顔立ちだ。実年齢はどうなんだろう?
スーツを着ているから社会人だと分かるけど、スーツに着られてる感じが否めない。
髪の毛はショートカットにして、ほんの少しだけ茶色に染めている。
背は150くらい、小ささがより若く見せている。
うん、出来れば見ないようにしてたんだが、胸は……すごい。
スーツでしっかり押さえているが、それでも一歩一歩歩くごとに振動してる。
振り返ってケンを見てみると、完全に釘付けになっている。
おい、もうちょっと自制しろ。その反応はまずいだろ。
「はい、みなさん、もう席に着いてるね。……これから1年間1年3組の担任をつとめる、室井春乃<ムロイハルノ>と言います。
担当教科は英語、まだ2年目なので、ミスもしてしまうかもしれませんが、そこはフレッシュさと勢いで乗り切りますのでみなさんよろしく!」
ハキハキとしゃべる。若いのにしっかりしているように見えるなあ。
まあ、見た目じゃ判断できないけどな。
「室井センセ、よろしくお願いします! 俺はケンって言います! あなたのためにも、ヤスが英語で1番になってみせます! あ、ヤスって言うのはあそこに座っている髪がぼさぼさのやつです!」
ケンが大声で返事をしやがった。よく分からんセリフをくっつけるな! 何で自分で一番にならねえんだ、俺が英語苦手なの知ってるだろ!? あと俺を指差すな、さらし者の気分だ!
「えっと……うん、早川君に近藤君だよね、よろしく。」
「そんなぁ、ケンって呼んでくださいよ! 俺はあなたの犬になりますから。ついでにヤスは猫になります!」
「だから、わざわざ俺を巻き込むな! 俺を指差すな! 大体、何で俺が猫なんだよ!」
「普段はツンツンしててつれない仕草なのに、寂しくて構ってほしがる猫っぽいから」
「いつ俺がツンツンしたよ、寂しくなんてねえよ!」
「一人じゃ寂しくて寝られないからって妹と一緒に寝てる変態のくせに」
「それは中三の頃の話だ! 今は一人で寝てる! 大体なんでお前がその事知ってるんだよ!」
「サツキちゃんから聞いた」
「あのクソ妹がーー!!」
『……………………』
いままで、俺たちのやり取りをのほほんと聞いていたクラスメイト達が、絶句したように俺の方に視線を向ける。
「…………え? えっ?」
「ヤス」
「な、なんだよ……」
「中三で妹と一緒に寝てるって言うのは」
「…………あっ!! いや、違う! 今のは違う!」
「ちなみにこいつの妹は現在中三でーす!」
うわ、なんか全員の目が軽蔑・好奇・哀れみと言った目になった。そんな目で俺を見るな!
「ばらすな!! もう黙れ!」
「自爆しといて何言ってるんだか」
「ケン! この野郎!」
バン! と大きな音がした。びくっとして教壇を見ると、室井先生が持っている出席簿で教卓を叩いていた。
目が笑ってない怖い笑顔をにっこりと浮かべ、静かに述べる。
「2人とも、いい加減にしましょうね。2人が仲がいいのは分かりましたから、続きはホームルームが終わった後やってください」
「はーい」
「……はい……」
くそ、やっぱりケンが相手だと、つい怒鳴っちまう。
いい事なんだが、さすがに恥ずかしかった。
「えと、それじゃ、私の自己紹介だけじゃなくて、みなさんの自己紹介もお願いします。みなさん元気よくお願いしますね! ケン君とヤス君ほど元気じゃなくてもいいけど」
「おー、ケンって呼んでくれた!」
「ケン君、自分の番まで待ってくださいね。」
「はーい!」
「じゃあ、窓側の席の人から順番に言ってって下さい。えと、まずは相原君」
「はい!」
4番目かよ、早いな。
……ってか、さっきはケン相手だったから普通にしゃべってたが、他のやつにはちゃんとしゃべる気なんてさらさらない。
いつのまにか2番目まで終わっていて、3番目のヤツが自己紹介を始めた。
「僕は加藤守<カトウマモル>って言います。中学校の部活は帰宅部でした、まだ高校で何の部活に入るかは決めてませんが、運動部に入ろうと思ってます。僕は趣味は鉄道で、月に一回は電車に乗ってます。鉄道が好きな人、僕と一緒に鉄道の旅を満喫しましょう!」
俺は遠慮します。他の誰かと楽しんで下さい。
そういえば、こいつ結構太ってるし、そんな運動得意なようには見えないんだけどな。中学も帰宅部だって言うし。なんで突然運動部に入りたいって思ったんだろ?
……ま、俺には関係ない。
あ、次は俺か、面倒だ。
「近藤康明<コンドウヤスアキ>です……よろしくお願いします……」
それだけ言って俺は座ろうとする。
「ヤスー!それはないんじゃない?名前しか分からないじゃん」
ケンの声を無視して座る。
いいんだよ、別に仲良くする気なんてないんだから。あと、声をかけるな。
「まったく、相変わらずのひねくれ者だな。みんな、あいつの事はヤスって呼んで。俺とあいつは幼馴染の間柄で、親友。性格は見ての通り、ひねくれ者、頑固、でも構って欲しい寂しがりや。そして重度のシスコン。」
「うるさい、お前が解説するな」
「やっぱり、シスコンは否定しないんだな。遊びにいくと、兄妹のラブラブっぷりがみられる」
もう無視する。とにかく無視する。何を言おうと無視する。
「エロ本の隠し場所は――」
「ストップ! こんな所で言うな! ってかまたなんでお前が知ってる!?」
「サツキちゃんに教えてもらった」
「何でもお前に筒抜けだなおい! それに何で妹まで知ってるんだ!?」
妹よ、人の部屋を漁らないで下さい。
「他にも………………と、まあこんな所かな。後は追々、知ってけばいいよ」
ケンのやつ、無視を決め込んでいたらいつの間にかきれいに締めてるな。
「それじゃ、次の人……」
俺は、後はめんどくさくなってほとんど聞いてなかった。
いつの間にか、40人全員終わってたな。
ケンはやっぱりはっちゃけてた。ケンのときだけ、笑いが起きたもんな。さすがはケンだ。
自己紹介も終わり、後は帰るだけとなった。
「それじゃ、明日は部活紹介があるから楽しみにして下さい。まだ部活を決めてない人も多いと思うので、明日、話を聞いて参考にしましょう。それじゃ号令! ヤス君、お願い!」
え、何で俺? 普通委員長が決まってないこういう時って出席番号1番とかがやるもんじゃん?
「だって、寂しくて構って欲しいんでしょ?」
真に受けるな! 寂しくなんかない、むしろ放っておいてくれ!
……つっこみたい気分だったが、そんな風に叫んで、またいろいろ話す事になるのはごめんだったので素直に従う。
室井先生はしっかりした印象を持っていたが、どこかぬけてる気がした。
「……きりーつ、れい」
『さよーなら!』
午前中だけだったけど、なんだか長い入学式が終わった。
こんにちは、ルーバランです。
一応、このクラスは全部で40人います。
席順ですが、一応こうなってます。
教壇
□□□□□□
□□□□□□
カ□□□□□
窓 ヤア□□□□ 廊
側 □□□□□□ 下
□□ケ□□□ 側
□□□□
ヤ:主人公ヤス
ケ:親友ケン
ア:木野あおい
カ:加藤守<カトウマモル>
という席順です。
現在の1年3組のキャラクターはこれだけです。
増えていくかどうかはまだ分かりませんが、
主要登場人物は増やしすぎないよう気をつけます。




