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62話:授業参観、サツキ、後編

さて、妹のサツキの空気を読まない発言が出たわけだが、どんな風に議論していくのやら。


「えー、自分の好きなことに対して、希望をもってやり抜こうとする気持ちがあっていいじゃない!そしてこれからも頑張ろうとしてる所もさ!」


「んー、まず、笑えないから大減点だよね」


サツキ、教科書に笑いを求めてどうする。


「感動しないの!?」


「えっ?どこかに笑えるポイントあった?大負けしてて、他の選手はみんな出られる状況なのに、6年生で1人だけ試合に出られず試合を見てる智を笑うの?みんなそれは性格悪いよ」


智が俺だったら、サツキならもしかして笑うか?

多分わざと笑って、俺を怒鳴らせて、落ち込ませないようにするんだろうなあ。サツキ優しいから。


「いや、そんな所を笑う人はいないって」


「じゃあどこで笑うの!?」


笑いからいい加減思考を外せよ、サツキ。


「全然成果が出なくても、頑張る姿に感動するでしょ?」


「そっかなあ、私はむしろ鼻で笑ったけどね、ハッて」


「何で!?」


「だってさ、試合に出れないんだよ、1回も試合に出れなかったんだよ。それで、選手の人たちをにこやかに応援し続けるんだよ?こんな聖人君子なんている訳ないじゃん!こういう人読むと、何か鳥肌たってくるんだよねえ」


俺もそう思うけど、そう言う事ははっきり言わない方がいいと思います、サツキさん。


「そんな事ないって!こう言う事考える人だっているよ!こういう人目指したくなるじゃん!」


野球部の彼が言い返した。お前がそれを言うか。


「ふーん……じゃあ、今度の中総体、レギュラー落ちして、ベンチにも入れなくても、ちゃんとそう言う事言ってよねー。恨んだりせず、頑張れって言い続けてよねー」


「え、いや、それは……」


うん、お前ボーダーギリギリだったもんな。今でもそうなんだな。


「ほら、言えないじゃん。でも、それが普通じゃない?頑張ったら、何か成果は欲しくなるもんでしょ?テニス部でも、私が中2のとき似たような事あったしねー」


ああ、あったなー。


「どんなことあったの?」


「ん?私が中2で団体戦のメンバーに選ばれて、中3の先輩が外されちゃった事があったんだよね。で、その先輩それから部活に来なくなっちゃってさ。『試合に出れないなら、続けてる意味がない』って言ってさ」


『…………』


「私の兄も野球部だったけど、最後の最後に試合に出れるようになって、すっごい喜んでたんだけど、それまではめちゃくちゃ悔しそうにしてたもん」


俺の話は出さないで!後輩もいるし!


「えー、お前の兄ってヤス先輩だよな?ヤス先輩は何か嫌だよ。部活は一応やってたけど、他の先輩たちが居残りして練習してる中、さっさと帰ってさ。それで最後は試合に出られるようになってんだもん。出られなくなった先輩たちが悲惨じゃん。最後はあの先輩のエラーで負けたし、その後のミーティングはバッくれるし」


うわ、後輩からもそんな目で見られてたの俺?嫌われてんなあ、俺。


「ふふふ、私の前でヤス兄の悪口を言うとは……ヤス兄をけなしていいのは私とケンちゃんとお父さんとお母さんとケンちゃんの家族と、ポンポコ先輩とユッチ先輩だけなんだからね!」


多いなおい!そこは私だけなんだから!って言えよ!


「は、話がずれてるよ、今はサツキちゃんのお兄ちゃんの事じゃなくて、智の事でしょ?」


む、確かにな。話がずれてる。


「あ、そうだったね。だから、私には『いいよ。だって、僕、野球好きだもん。』に感動ってよく分かんないね」


だよなー。俺だけじゃなかったんだな。


「なんで?」


「ん?だから言ったじゃん。お前は試合に出たくないんか!と言いたくならない?みんな球拾いでもいいの?」


「ええっと……智って子は野球が好きだったんだからいいんじゃない?」


「野球が好きなら試合やりたくならないものなのかな?私はテニスは見てるよりやってる時のが100倍は楽しいけど」


「きっとこの智って子は見るのが好きなんだよ!」


「ええ?じゃあ試合見に行くだけでいいじゃん。わざわざ入部しなくてもさ、入部すると色々お金かかるし」


お金の話すると妙に現実的になるな。


「確かに……じゃあやっぱり野球やりたいんじゃないかな?」


「だったら球拾いでもいいよって言ったあの言葉はなんなの?」


『…………』


あー、みんなして黙ったな。このよく分からない議論はいつ決着がつくんだろう。


「あのさ……」


お、女子生徒D(さっき『うん』しか言わなかった子)が初めて発言する。


「きっと智は、野球が好きなんじゃなくて、球拾いが好きなんじゃないかな?」


スッゲー発言が出た!


「でも、最後に「いいよ。だって、僕、野球好きだもん。」って言ってるよ?素振りもしてるし」


「でもさ、確かに6年も練習してて、全然上手くならないって言うのはいくら才能なくてもおかしいでしょ?だから、智は球拾いが好きで、球拾いが好きだから下手なままなんだよ。もしくは、下手な振りをしてるんじゃないかな。スイングもそれで、球拾いが好きなんて言うのは変なヤツだと思われるから、最後は野球が好きって言ったんだよ」


『な、なるほど……』


すげえ!みんな納得してる!


「そう考えれば、中学に入って、試合に出れなくても野球部に入りたいって言ったあの言葉が自然だよね」


「そうだな……球拾いできるのは野球部やテニス部……野球部に入りたいと思うというのはすごく自然だ」


「試合を観に行くだけじゃ球拾いできないもんな。そっか、智は球拾いが好きな変な人だったのかあ」


「そう考えればこの物語はとても笑えるものになるかも。感動作だね……」


サツキの感動ポイントは笑えるか笑えないかだけなんだなあ。


「そろそろ意見交換は終わりましたでしょうか?保護者の方は一旦下がってください……では、班ごとに、出た意見を発表していってください。」


一個一個班ごとに意見を発表してる。

あのグループにも最初に出た、感動した、報われなくても頑張ってる姿がいい。という意見ばかりだった。

最後はサツキの班だ。


立ち上がったのは野球部の子で、


「智は球拾いが好きな変人という結論に達しました!」


と宣言した。


他の班の人はびっくりしてたね。先生も保護者もびっくりしてたっぽい。ええ、何でそんな結論になるんでしょうか?と。


その流れを作ったのは妹のサツキだ。さすが俺の妹!


授業が終わり、サツキに会いにいく。抱きつきたかったけど、前にポンポコさんに恥ずかしいと言われたので我慢だ。


「やほ、サツキ」


「ヤス兄!?何でこんなとこに!?学校はどうしたの!?」


「ふっふっふ、サツキの授業参観の為なら!高校なんてどうでもいい!」


「この馬鹿兄!何で制服で来てるのさ!保護者の中で明らかに浮いてるよ!」


「ん?確かに中学校とは制服違うしなあ、転校生に見えない?」


「見えない、むしろヤス兄って老け顔だから、大学生がコスプレしてるように見える」


うわっ、ぐさっと来る。そんな事言われたらへこむなあ……。


「と、ところでさ……」


「はい、そこの学生服の君?ここの中学生じゃないよね?ちょっと生徒指導室まで来てもらおうかな?」


「へ?」


「うん、そうだよー、今『へ?』って言った君の事だよ。多分君、大学生だよね?社会人かな?コスプレ?コスプレで中学校入ってくるってどういうこと?ロリコンなのかな?」


「えと?高校生?」


「高校生!?高校生がこんな時間に何でこんな所にいるのかな?サボり?高校はどこ?」


「え?いや?OB?」


「そんなの関係ねぇ!さっさと来ないと不法侵入で警察呼ぶぞ!」


いや、さすがに警察は勘弁です!!

その後、会いたくもなかったたくさんの中学校の時の教師に会い、高校にも連絡され、どっちからもこってりと絞られた。

ケンにちゃんと言ってくれるように頼んどいたけど、本当にちゃんと「腹が痛くなって妹の中学校へ行きました」と言ったらしい……。ケンを信じた自分が馬鹿だった。

反省文は前回よりも多くという事で150枚書けと言われた。無理なら停学だってさ……。

脅しだとは思うが……。150枚って何書けばいいのさ!?

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
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