53話:サツキ誕生日会、開催
「では、改めまして……サツキ、誕生日おめでとー!!」
『おめでとー!!』
変な空気を消す為に、元気よく祝いの言葉を述べる。
「ありがと、ヤス兄、ケンちゃん、……と、会った事ありましたっけ?」
「いや、初対面だ。ヤス、ケンと同じ陸上部でマネージャーをしている。陸上部ではポンポコと呼ばれているので、そう呼んでくれて構わない。よろしく頼む。……サツキと呼んでもいいか?」
「あ、はい、もちろんです。よろしくお願いしますね、ポンポコ先輩」
ポンポコ先輩。なんか微妙な呼ばれ方な気がするのは俺だけか?
「私はサツキって言って、残念ながらこの馬鹿兄の妹なんですよ」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは」
確かに親バカならぬ兄バカなのは認めるけどな。
「うむ、よく聞いているぞ。お互い兄弟では苦労するな」
「え、ポンポコ先輩もなんですか!?」
そんな話を始めないでくれ、やな予感がする。
「それより、早く飯食べよ、飯。」
「あ、そうだね。せっかく作ってくれたんだもんね。食べながらその話しよっか……で、ポンポコさんは何か面白いエピソードはありますか?」
しまった!話がしやすい食べ物ばっかりだ!これじゃあ俺の暴露話が始まってしまう。
「例えば……、私が中学校の時、委員会の仕事で同じクラスの男子生徒と話していた時なんだが……」
よし、向こうの話なら何でも来いだ。
「あ、それヤス兄もしましたよ。突然『俺のサツキに何してる!?触れようとするな!』って怒鳴り込んできて、その男子の胸ぐらをつかんだんですけど。」
「サツキ、それ以上言うな!!」
最近ご近所さんの井戸端会議が俺の事ばっかりになってるんだ!
どんどん広がってるのに、これ以上広めようとしないで!
「つかんだ途端、ブワッと投げられて、目を白黒させて失神しちゃったんですよ、口からヨダレたらしはじめて、これはヤバいかな?と思った瞬間、ばっと立ち上がって今度は机に頭ぶつけてまた失神。ほんと見てて最高ですよ」
あーうー、また過去の汚点が広がっていく。
「私の兄弟より面白い結末を迎えるのだな。さすがはヤスだ」
そんな褒め言葉いらないっす!!
「その時の写真ありますよ、見ませんか?」
「ああ、見せてくれ」
「見せなくていいから!お願い!ってか何でそんなんが残ってんの!?」
俺の必死の説得も空しく、女2人組は俺の恥ずかしい写真集なるものを持ち出してきて、きゃいきゃい言い始めた。
何でそんな写真集を作ってるのか、俺は1時間近く問いつめたい。
しばらく見て満足したのか、ようやく終わってくれた。
かなりの量の俺の馬鹿話がばれた気がする……。
「これ、前編なんですよ。次回来た時は中編か後編を見せてあげますね」
「ああ、よろしく頼む」
やめて!そこの2人!!
「それにしてもヤス兄も、この前のユッチ先輩といい、ポンポコ先輩といい、最近女を連れ歩いてるねー」
「どっちも部活の友達だよ。サツキ、妬いてんの?」
「いやいや、ついにヤス兄が妹離れを初めてくれたのかと思うと、嬉しくて。やっと一歩大人になった感じ?」
どういう感じだ、それは。
「サツキも寂しくないの?」
「うーん、どうだろね。ちょっと寂しい感じもするけど、ね……」
うん、こう言う可愛い事を言ってくれるから、妹離れが出来ないんだ。
「寂しいなら、ずっと一緒にいてやるから安心しな、サツキ」
「それは嫌、ってかキモイ、ヤス兄」
くっ、これぐらいの言葉、いつも言われ慣れてるしな。
「ヤス、不思議でしょうがないんだが、サツキちゃんからそんなにけなされ、馬鹿にされてるのに、何で怒ったりしないんだ?や、怒鳴ってるのは見た事あるんだけど、こう怒る所って見た事無いんだが……」
ケンの言葉も最もだが、まあそれは秘密という事にしておこう。
どんどんと俺の秘密が暴露されるのは嫌だ。
「昔1回だけ怒った事あるよねー、ヤス兄」
「もうやめてくれ!これ以上色々ばらさないでください!」
「別によくある話じゃん。ヤス兄が怒って、私が泣いて、おろおろしたヤス兄がもう絶対怒らないって誓ったってだけの話でしょ?その時からこんなに仲良くなったんだもんねー」
「いや、誓ったとか言うの恥ずかしいし……」
確かにそれだけなんだが、細部を語るともっと恥ずかしいからな。
「ヤス、恥ずかしがる事じゃないぞ。俺もヤスが初めて俺の前で泣いた時、『こいつはなんて面白いヤツなんだ!これからはもっといじってやる!』と誓ったものだ」
「お前最悪だよ!そんな事誓ってんじゃねえ!」
「そしてその誓いは今も続いてる。将来、俺たちがじじいになるまで続けるつもりだ」
「馬鹿か、お前は!そんなに長い間腐れ縁が続くかってんだ!」
「いや、分からんぞ。大学、就職先と全く同じ所に行くかもしれんしな」
「いやいや、そんな偶然はごめんです」
ほんとに、そんな時までケンのお世話になっているのは勘弁です。