52話:サツキ誕生日会、準備
5月27日火曜日。今日はサツキの誕生日!
陸上部での部活もいつも集団で走ってたが、今日は気分が高揚してたので1人抜け出して気持ちよく走る。
4周、大体4キロメートルでばてたが……。
今日のノルマは8周、8キロメートルだったので残りはめちゃくちゃしんどかった。
走りきった後も、ちゃんと走れって先輩から怒られるし……。
お前らの方こそちゃんと走れってんだ。
その時にヤマピョンも抜け出して走ったので、一緒に怒られた。
ヤマピョンは俺なんかよりずっと速く走ってた。
せめてヤマピョンについていけるぐらい走りたいなあ……。
そんなこんなで部活も終わり、今日はケンとポンポコさんと帰る。
サツキの誕生日会の参加メンバーだ。
「そういえば、ポンポコさんの家は大丈夫だったの?兄弟達の話を聞いてると、『遅くなったら絶対外に出してやるか!』とか言いそうな雰囲気な気がするんだけど」
「……………………………………ああ、大丈夫だ。全く問題ない」
だからその間は何さ?なんか怖いって!
家に着いたら、誕生日会の準備を始める。と言っても、そこまで特別な事をする訳じゃない。
いつものように夕飯を食べて、しゃべって盛り上がるくらいだしな。
特別なのはプレゼントくらいなものだ。
現在は18時。サツキは今日は19時に帰ってくると言っていたから、それまでに準備しなければいけない。
「ケン、部屋の飾り付けはお前に任せる、居間を綺麗に飾ってくれ。ポンポコさんは料理は出来る?」
「いや、私は料理は大の苦手でな……一度作った事があるが、兄弟全員、次の日までトイレにこもりっきりになった。」
そ、それはまたきつそうな料理だ。
「じゃあ、ケンの手伝いお願い。ケンが邪魔だったらポンポコさん1人でやっちゃってもいいから」
「了解した」
さて、俺は料理を頑張りますか!
既に朝のうちに下ごしらえをしておいたので、そんなに時間はかからない。
料理は、箸を使わずに手でつかんで食べられるようなものばかりを作った。
その方が、料理に気を取られずにおしゃべりしやすいしな。
デザートだけは、ケーキを丹念に作ってやった。1時間で作るのはギリギリなのだが、誕生日にケーキは欠かせない!
「ケンはセンスがいいな。私ではこんなに上手く飾り付けは出来ないぞ」
お、何か話してるな。確かにケンの飾り付けは上手いからな。
「ふっふっふ、任せたまえ!これでも小学、中学と美術の授業では褒められなかった事は無いぞ!一度県コンクールでも銀賞を受賞した経験ありなのさ!」
「ほほう、それはすごいな」
「逆にヤスの美的センスはめちゃくちゃ変だぞ。何か描く時も、とにかく動物を入れようとするんだ。空を描こうとしたら必ず鳥が入ってるし、海を描こうとしたら、魚かカモメが描かれてるな。いっぺん夜空を描いてきた時には、風景画のはずなのにイカとタコを描いてて、『これは宇宙人だ!俺の前に現れたんだ!』とか叫んでたし」
俺の話に変えてんじゃない!しかもまた俺の恥ずかしい過去をしゃべるな!
「ふむ、じゃあこのヘアゴムもそうなのか?」
「あ、それヤスからのプレゼントなんだ?うん、絶対猫が入ってたからそれを選んだね。今までのサツキちゃんへのプレゼントもどっかに動物が入ってるから」
いいじゃん、動物って可愛いじゃん。
「ふむ、そうなのか?」
「えっと、俺の覚えてる範囲だと……去年のオルゴールにはリス、ぬいぐるみは犬だったかな」
「まあ、そのぐらいならいいのではないか?」
そうだ!ポンポコさん、俺を援護してくれ!
「でも、一昨年のリストバンドはコウモリ、鉛筆立ては深海魚だったんだよ。動物なら何でもいいと思ってんのかね?」
そんなことはないぞ、ムカデは嫌いだ。噛まれた事があるからな。あと、あの台所にいる黒いのも嫌いだぞ。蚊とかハエとかも好きでないし……うん、動物全てが好きって訳でもないな。
「ふむ……人の好き嫌いは他の人には理解できない事が多いからな、仕方が無いのかもしれん……」
ポンポコさん!?
今、さじ投げたね!?俺の趣味について理解できないって言い切ったね!?くぅ、ポンポコさんなら分かってくれるかと思ったのだが。
俺の料理も完成し、ケンたちの飾り付けも終わり、後はサツキが帰ってくるのを待つばかり。
時間は18時57分。ぎりぎりで間に合ったな。
さて、やっぱりこういう祝い事の時にはクラッカーは大事だろ。俺はクラッカーをケンとポンポコさんに渡しサツキが帰ってくるのを待つ。
玄関で祝いの言葉を言う為に、今日だけはサツキにインターフォンを押してもらう事になってる。
ピンポーン
「お、鳴ったな」
俺がつぶやいて立ち上がり、受話器を取り「どうぞー」と一声かける。
「よし、スタンバイするぞ!」
「イエッサー!」
そう合図して、3人で玄関で待つ。
ガチャリ……玄関の戸が開く。
よし、今だ!
『ハッピーバースデイ!!サツキ!!』
パンパンパン!!
3つのクラッカーが同時に響き渡った。うん、いい始まりだな!
……。
…………。
……………………。
…………………………………………。
……………………………………………………………………………………あれ?
「た、宅配便なんですけど……」
宅配員さんにクラッカーから飛び出た紙テープが大量にかかってる!
向こうの人もどうしていいかめちゃ困ってるよ!?
「ヤス!この場は任せた!」
「ええ!?俺!?」
「当然だ!ここはお前の家なんだからな!」
く、確かにケンの言う通りだ……。だが、この空気は……。
「名も知らぬ宅配員さん!今日はこの家に宅配が来てちょうど99回目なんです!」
「あ、はい……」
「今のはそのお祝いなんです!さあ、一緒に叫びましょう!ハッピーバースデイと!」
「な、なんでハッピーバースデイ?」
「いいですか、99と言えば100より1個少ないんです!漢字の百から一を無くしたら白です!」
「は、はあ……」
「宅配99回目の日、タクハイが99回でシロの日、タクハイシロデイ(DAY)、タックハーイシデイ、ハッピバースデイだ!イエイ!イエイ!」
『………………………………』
や、やばい……は、はずしまくってるっぽい。
こ、こうなったら!!!
俺は2階に上がって祭りに着るあの服を持ってきた。
そして玄関に戻り、
「ただい」「ハッピーバースデイにハッピ(法被)、ワー、すげい!!」「…………ま」
……
…………
今の状況
法被を着て背中を見せながら親父ギャグを言っている俺。
未だに紙テープを大量にかぶっている宅配員さん。
ちょうど帰ってきた所のサツキ。
何故かいなくなってるケンとポンポコさん。
……サツキ、バッドタイミングだ。
俺はサツキに白い目で見られながら宅配員さんに平謝りして、ハンコを押して帰ってもらった。
うん、何で最初から謝んなかったんだろうなあ……。
「お疲れー、あ、その宅配便俺のサツキちゃんへの誕生日プレゼント。今日サツキちゃんの誕生日だからここに送ってもらった」
居間に戻ったら、それを受け取ってケンが何くわぬ顔で偉そうにふんぞり返って宣言しやがった。
「じゃあお前が対応しろ!!この大馬鹿野郎!!」
今までに無く変な空気でのスタートとなった誕生日会だった。