5話:回想〜おかしな連絡〜
まだ中学生編は続きます。
高校生時代に戻るのは、もう少し待ってください。
中学校の野球はもう終わった。
俺は気持ちを切り替えて、また高校でも野球をしようと思っていた。
中総体は基本的には夏休みに行われるものだ。
試合が終わった後、疲れもあるので、そのまま解散となり、後日反省会と3年生お別れ会ミーティングを行う事になった。
全員の前で、最終回、エラーした事を謝ると、「仕方がないよ」「気にするな」と納得しない顔をしながらもそれぞれが言ってくれた。
結構ほっとしたもんだ。
その後、俺はケン以外のメンバーと別れ、ケンと家に向かった。
「ヤス……終わっちゃったな……中学の野球……」
「そうだな……ごめん……」
「いいって。大体ヤスってさ、1回表の送りバントに最終回表のスクイズ。全ての得点に絡んでるんだぞ。だから、ヤスがいなかったらそもそも最終回裏にもいけず、そのまま終わってたって事じゃん」
「それを言うならケンだろ。1回表も、最終回もケンがホームベース踏んでるんじゃん! 俺がいなくても点はとれたかもしれないけど、ケンがいなかったら絶対点取れてないよ」
それからもお前が、いやお前がと2人して言い合っていたが、ばかばかしくなってどちらからともなくお互いに言い合う事をやめた。
「でもさ、ヤスは高校入っても野球、続けるよな?」
「もちろん! ケンもだろ? また、俺たちで1番2番を組もうな!」
「……おう!」
ケンはにかっと笑うと俺に向けて手をかかげた。
それに向けて俺は思いっきり右手を叩き付けた。
パチンッといい音がして、俺たちはハイタッチをかわした。
最後のミーティングは夏休み最初の出校日にあるので、それまで俺は宿題をしたり、ケンと一緒に遊びにいったり、妹のサツキのショッピングにつきあったりと、楽しく過ごしていた。
そして、出校日。
俺はサツキと家を出た。相変わらずねぼすけなサツキを叩き起こした時には、遅刻ぎりぎりの時間となっていた。
夏休みという事もあり、サツキの寝起きの悪さは普段にもましてひどいものになっていた。
俺はサツキを自転車の後ろにのせて、道路を駆けた。
サツキは俺の腰に手を当て、落ちないようにぎゅっと抱きついている。
まったく、こんなシチュエーション、実の妹とやって何が楽しいんだかなぁ。
「おいサツキッ! ひっつきすぎ! こぎにくいだろ! もう少し離れろ!」
「またまたー、ヤス兄、照れちゃってー。ほらほら、こんなかわいい子が抱きしめてあげてんだよ。男冥利に尽きるってもんじゃないの」
「うっさい! だれが妹にひっつかれて照れにゃならんのじゃ!」
「もうー、素直じゃないな、ヤス兄は。顔、真っ赤だよ」
「それはお前を乗せて坂を上ってるからだろーがっ!!」
「そんな叫んでないで、しっかりこいでよ。遅刻しちゃうでしょ」
「お前がさっさと起きないから悪いんだろうが! あーむかつく、降りろ! サツキ! そこから走りやがれ!」
「わ、ひどいんだ。 こんなはかない妹をこんな所にほっぽって、あまつさえ走らせようとするなんて。ヤス兄、それでも人間?」
「もういい加減黙れー!」
と、サツキといちゃつき(?)ながら、息も絶え絶えに学校に到着する。
なんだかんだいいながらも、結構なハイスピードでこれたのか、朝のホームルームまでそこそこの時間があった。
「じゃ、サツキ。また後でな、今日は野球部の最後のミーティングがあるからもしかすると家に帰るの昼すぎるかもしれん」
「ん、わかった。私も今日昼まで部活あるし、ヤス兄がミーティング終わるのまってるよ。一緒に帰ろ?」
「はいよ。んじゃこの駐輪場で待ち合わせな、終わったら寄り道せずにここで待っている事」
「うん、じゃあね」
サツキと別れ、俺は3年1組の教室をあける。
このクラスにはなぜか野球部の連中が集まり、スタメンの9人中5人が、ベンチ入りの3人がこのクラスに集まってた。
ついでにいうと、担任も野球部の監督だ。
ケンは3年2組、残念ながら別のクラスだ。
「はよーっ」
挨拶をして、教室内に入る。こんな声はほとんど無視されて教室内の喧噪にかき消される。
俺がなんとなく挨拶をしておきたいからしておく。それだけだ。
が、今日に限っては一瞬こちらを全員がちらっと見てまた会話に戻っていった。
ん?なんかあったか?髪がぼさぼさなのはいつもの事だし、サツキと自転車で来るなんて事も週に1回くらいは経験してる。
今日の行動に何も変なとこなんてないよな。
俺はみられた事を気のせいという事にして、自分の席に着いた。
と、ベンチ入りしていた野球部のメンバーの一人が、
「なあヤス、今日のミーティング、中止になったんだって」
「え? そうなの?」
「ああ、そうそう。監督が午後から急な用事ができたみたいでさ」
「ふーん、そうなんだ。最後に監督から何かもらえるって聞いてて、楽しみにしてたのにな」
「また、次回別に全員の都合がいい時にやるらしい。また連絡するってさ」
「はいよ、教えてくれてサンキュな」
そう言って、自分の座席に戻っていった。
出校日なんて本当にすぐに終わる。
教室全体の掃除をして宿題の進み具合を確認して、あとは担任の先生から適当な話を聞いて終わりだ。
サツキと一緒に帰る約束をしていたのに、ミーティングがなくなって手持ち無沙汰になってしまった。
仕方ないので、中学校の図書館に向かう。
中学校の図書館は意外に穴場だ。
ほとんどの生徒が利用しない割に、結構たくさんの本が置かれている。図書館で予約でいっぱいの本でも、ここに来ると意外とあったりする。
若者の活字離れが進んでいるって言うのは本当かもな。
その上、静かで読むのには最適な環境だ。
適当に面白そうな小説を1冊選び、カウンターにいく。
貸し出しをお願いして、その本を手に取り駐輪場に向かう。ここで読んでいてもいいのだが、
熱中してしまってサツキを待ちぼうけにさせてしまうかもしれないので暑いけれど仕方がない。
当然と言うか、まだサツキは部活のようだ。そりゃ、昼まで練習って言ってたからしょうがないよな。
かんかん照りで暑い上蝉がみんみん鳴いてうるさい中、俺は適当な段の所に腰掛け先ほど借りてきた本を読み始める。
高校球児の話だった。といっても、エースピッチャーが活躍するような話ではない。むしろ全くの逆で、補欠の野球部員の話だった。
本の紹介によると、舞台は甲子園常連校の野球部。
全国から優秀な選手が集められて、一般入試で受けた主人公がどうにかベンチ入りして甲子園にいくのを夢見ていたけれども普通の高校生みたいなことも楽しんでみたい。
煩悩を全快にしながら、夢を追い、破れ、大事な事に気付いていく話だそうだ。
今度映画化もされるようで、そのために一般の図書館では借りる事が出来ないでいた。
しばらくの間暑さも忘れて読みふけっていた。
俺も高校行ってからも野球をやるからには甲子園に行きたい。でも、甲子園常連校なんぞに行っても、俺のバッティングじゃ使ってもらえる訳がない。逆に、弱小校に行けば、レギュラーになれるかもしれないが、よっぽどの事がない限りは、甲子園出場なんて難しいんじゃないか……。
そんな事を考えながら3分の1くらい読んだ所で
「ヤス兄、何読んでんの?」
「ああ、サツキか。これ読んでたんだ」
俺は表紙をサツキに見せる。
「ふーん……そういえば、今日の野球部のミーティング早かったんだね。今日こっちの部活も早く終わっちゃったから、結構待たされるだろうなって覚悟してきたのに」
「部活お疲れさん。なんか今日の野球部のミーティングがなくなったみたいでさ。でも、何もしないでお前待ってんの退屈だろ? だから、図書館行って本借りて待ってた」
「あれ? ミーティングなくなったんだ? 珍しいね、あの先生生真面目だからスケジュールずらさなそうなのに」
「確かに……ま、いいじゃん? サツキ、また後ろ乗ってく?」
「……わ、ヤス兄、大胆だね? 私に抱きついて欲しくて、そんな事言うなんて?」
「はいはい、言ってろ。じゃ、俺は自転車に乗って帰るから、お前は歩いて帰ってきな」
「わ! ちょっと待って冗談です! ごめん、ヤス兄、後ろ乗せてってください!」
「よろしい、最初からそう言えばいいの! んじゃ、行くぞ」
「ハイヨー、シルバー! ハイヨー、ヤス兄!」
「おい! 俺は馬じゃないって!」
そんなこんな、またぎゃあぎゃあ言いながら、俺は家に帰っていった。
その日の夜、19時頃になって、電話が鳴った。
サツキはちょうど風呂に入っているし、両親はまだ帰ってきてない。
必然的に俺が受話器を取った。
「もしもし、近藤ですが」
「お、ヤスか!? 俺だよケンだよ!」
「落ち着けよ、ケン。どうかしたか?」
「お前さ、今日なんでミーティングさぼったんだ?」
最初、ケンが何の事言ってるのか俺はよく分かってなかったんだよな。
こんにちは、ルーバランです。
会話が楽しくて、全然話が進みません。
ゆっくりですけど、進めていきますので見捨てずによろしくお願いします。