49話:プレゼントを買いに、いつもと違うメンバー
「終わったあ!!!」
ケンの叫び声が聞こえる。
うん、お前の終わったっていうのはどっちの意味なんだろうな……。
「ケン、大丈夫だったのか?」
「いや、もう全然。さっぱりだったさ」
「……進級できなくても知らんぞ」
「ま、補習があるし、それやれば何とかなるんじゃん?」
「……お前がそれでいいなら別にいいよ」
うん、俺はもう気にしない。
「そう言うヤス君はどうだったんですか?」
アオちゃんが俺に聞いてきた。そう言えば、アオちゃんも最近は勉強ばかりであんまりしゃべってなかったから久しぶりだ。
「俺は2科目を除いて大体出来た。7、8割とれたと思うよ」
「残りの2科目は?多分、英語IとOCですよね?駄目だったんですか?」
「ごめん、聞かないで……」
そう、苦手な英語は、全然出来なかった。かろうじて丸暗記した部分が何とかとれただけな気がする。
「そう言うアオちゃんはどうなのさ!?実はアオちゃんもケン並みに勉強できなかったりしないの?」
「現代文以外は9割いったと思いますよ?現代文も丸暗記したので、8割はいけたと思います」
天才だ。本当の天才がここにいる。
「く、その程度でいい気になるなよ!今度会う時は覚えてろ!」
「お、ヤス君、それは悪役の捨て台詞の王道ですね。ここはなんて返すべきなんでしょう?ライバル的存在なら、『私も次会うまでにもっと精進しておきます』ですよね。でもヤス君はどっちかって言うとやられキャラっぽいですから『ごめんなさい、もう忘れてしまいました』って返しましょうか」
「…………やられキャラか…………」
もうこのクラスや部活での俺のキャラが確定してきたな……。始めの頃はケンに毒舌とか言われてたのに…………。
いいさ、俺はきっといじられシスコン野郎なのさ!
「さ、久しぶりの部活だ!張り切ってこう!」
「ああ、そうだな」
ケンに促されて部活に行く。
今日は5月22日木曜日、中間試験の最終日。5月19日(火)〜5月22日(金)の間、テスト期間になってたのだ。
その間は部活中止。15日までは練習していたが、テスト3日前からはやってはいけないと言う学校のルールがあるらしい。
県大会に出場する先輩たちは、その間も練習を許可されていた。県大会は5月30日(金)〜6月1日(日)に行われるので、こんな時期に休んでいたら活躍するなんて不可能だからな。
先ほどまでの会話はケンにテストの出来を聞いていたんだが、芳しくないようだ。
1年の最初からそれでは先が思いやられる。
そういや、俺がケンにアドレスを教えてから、ほんとに月に3000件送るつもりなんじゃないかってくらいメールが来た。
既に1000件近くになっている。
おかげさまでメールボックスは
受信箱
ケン
ケン
ケン
ケン
ケン
ケン
ケン
ケン
ケン
の状態だ。
……俺が教えてから、まだ10日経ってないから、1日100件のペースで書いていると言う事だ。
一応律儀に読んではいるが、正直そろそろきつい。しかも毎回写メールで送ってきて、この写真がどうだ。あの写真がこうだとメールしてくる。やめろと言ってもやめてくれないし……はぁ……そんな事してるくらいなら勉強しろよと言いたい。
さて、今日からまた練習開始だ!
……今日の練習もいつもと一緒、学校の周りをぐるぐる回るだけ。
いい加減、飽きた。ほんとに飽きた。
この練習がもう1月続いてる。他にする事無いんだろうか。
よく先輩たちは飽きないなと思いながらも、ぐるぐると回る。
スピードもジョギングほどではないが、俺が息を切らさずについていける程度のスピードだ。
短距離7.5秒、シャトルラン108回の俺が息を切らさずについていけるってかなり練習量が少なくないかな?
入学した頃は適当でいいと思ってたし、実力差が激しい他の高校の事を考えるとやる気がなえるが、それでももうちょっときちんと練習したい。
……無理か。まず顧問が見てないと練習できないもんな。顧問が見える範囲で、練習できる環境と言うと、この学校周りぐらいしかなさそうだ。
しかも先輩たちはこの環境に満足してるっぽいしな。
……ふぅ、なんかなじむ気が起きないな。アオちゃんと友達になってから、もっと周りと仲良くしてみようかと思ってたんだけど、この先輩たちとはどうもそんな気分になれない。
今日は7周、7キロメートル程度を走って、今日の練習が終わった。
短距離も今日はテストあけと言う事で、軽めの練習だったようだ。
長距離が終わったと同時に短距離のメンバーも終わってる。
「ケン、今日は俺行くとこあるから一緒に帰れんわ」
「ん?どこ行くん?」
「サツキの誕生日プレゼント買いに。ケンも行く?」
今日は午前中、10時半頃でテストが終わる。なので、部活も早めに終える事が出来るのだ。今はまだ13時半。
「そういやもうすぐサツキちゃんの誕生日かあ、でも今日は無理、今日はこれから兄貴に会いにいくんよ。明日から試合でさ、応援に行くんだ!ついでに兄貴のアパートに泊まりにいく!」
「お、明日から試合なんだ?試合には出れるの?」
「もちろん!明日は1番ショートで出場の予定だ!めっちゃ楽しみだよ!」
ケン、お前も十分重度の兄好きなんだが……、言うのはよそう。
「ヤス、明日暇?暇なら応援に来てくれよ!」
「うーん、サツキが行くって言ったら行くよ。ほどほどに期待しといてくれ」
「もし来れないようだったら、メールで実況中継してやるから!期待しといてくれ!」
もうメールは送らないでくれ、ケンしかいないんだ。俺の携帯の受信箱。
「そういや、お前月300円でどうやって買うんだよ?」
「何の為にお年玉をもらうと思ってるんだ?サツキと父さん、母さんにプレゼントを贈る為だろ?今年の母の日もサツキと一緒にカーネーションを買って贈ったけど」
「お前の家、異常だよ……」
ん?そうか?仲が良いだけの普通の家族だと思うが。
「じゃ、また今度な!」
そういって、ケンは帰ってった。久々に兄貴に会えるから嬉しいのだろう。すごい顔がほころんでいた。
昔から、俺とケンはケンの兄貴を尊敬し慕ってたからな。特にケンは俺なんかとは比べもんにならないくらい尊敬してたもんな。
「さて、1人で行くのも寂しいな……」
俺は暇そうな人を捜した。
ノンキとマルちゃんはさっさと帰ってるし、ユッチとアオちゃんも今日は既に帰ったみたいだ。
となると、残ってるのは後片付けしてるポンポコさんと、ヤマピョンだな。
ポンポコさんとヤマピョンと言うのは不思議な組み合わせかもしれんが、2人を誘ってみるか。
とりあえず、ヤマピョンを誘ってみよう。
「ヤマピョン、この後俺、買い物行くんだけど、一緒に行かね?」
「…………え、と…………俺……?」
きょろきょろと周りを見ながら聞く。
「そう、ヤマピョン。妹の誕生日プレゼントを買いにいくんだけど、1人で行くのも寂しいし、他の人の意見も聞きたいから一緒に行かね?」
「…………」
とりあえず、コクコクとうなずいているから、行くと言う事でいいんだろう。
さて、ポンポコさんにも聞いてみるか。
「ポンポコさん、この後暇?俺と買い物に行かない?」
「む?それは何のお誘いなのだ?デートならばお断りだぞ」
ポンポコさん、そこまではっきり断られるとちょっとへこみますが……。
「や、違うって。ヤマピョンもいるし。今度妹の誕生日なんだけど、今からプレゼント買いに行くんだ。で、他の人の意見も聞きたいから、来て欲しいかなって」
「ふむ、いいだろう、行こうか。ところで妹さんの誕生日はいつなのだ?」
「5月27日生まれ。サツキって名前だ」
「5月生まれだからサツキか。なるほど」
そう、ポンポコさんの言う通り、5月生まれだからサツキって名前になった。でももっといろんな意味が込められてる。サツキって花は、どんなに環境が悪い所でも、毎年元気な花をつけるんだ。木そのものが枯れてしまうなんて事は、ほとんど無い。そう、サツキって花は、がんばり屋なんだ。そんな、元気で頑張りやな女の子になって欲しいって意味を込めて、サツキって名前を付けたんだ。……正直、時々元気すぎる気がするけどな。
まあ、そんな事は言わなくてもいい事だ。
「そうなんだ。だから、いいものをプレゼントしたいんだけど、ポンポコさんも考えてくれない?」
「私が考えていいのか?サツキと言う者の事はほとんど知らないぞ」
「うん、むしろポンポコさんが選んだものなら絶対喜ぶと思う」
「……その根拠はなんだ?」
「シスコン兄弟に囲まれてる環境がそっくり」
「…………確かに、私とサツキと言う者はその一点に置いて誰よりも似ているかもしれん。ケンからいろいろ聞いているぞ?ヤスの妹溺愛っぷりを」
やめて!それは頭の中から消去して!!
「サツキと言う者と私がされていた事が全く一緒だったので、思わず笑ってしまった。私とサツキはとても気が合う気がするな」
俺も思いました。あなたの兄弟とは絶対に気が合うって。
「よし、一緒に行こうではないか。……ところで、ヤスは誕生日はいつなのだ?」
「俺?俺は6月22日生まれ。サツキとは1年も年齢差が無いんだよね」
「ほう?私は6月21日生まれだ。ヤスと私はほとんど同じ時に産まれたのだな」
ほー、ポンポコさんとほとんど同じ日か。中々に偶然だな。
「それでは行くか?ヤス、ヤマピョン」
「あいよ」
「…………うん……」
こうして、いつもとは違うメンバーで買い物に行く事になった。