48話:シスコン&ブラコン
携帯を買って、日曜日を挟み学校に行く日になった。
今日は5月13日月曜日。
今は昼休みの時間だ。ケンに会って、当然のごとく笑われた。
「ヤスにピンクは似合わなすぎ!ヤスの頭ん中はいつもピンクだけどな!」
うるさい、ほっとけ。お前に言われたくない。
まあ、俺もこれで携帯を持つようになった訳だ。
よし、いつでもサツキに連絡できると言う事だな。
「ヤス、せっかく買ったんだから、電話番号とアドレス交換しとこう!」
「うーん……ケンの機種はなんなんだ?」
「え?俺はauだけど?」
「そっか、俺はソフトバンクだ。お前に電話をすると通話料が発生しちゃうからな。だから俺からは電話もメールもしないけど、それでもいいなら交換しよっか」
「何でそんなにケチケチするんだ?ちょっとくらいいいじゃん」
「携帯料金は小遣いからひかれるから、本当にぎりぎりなんだ。少しでも使ったら、俺の小遣いは即座にマイナスになる。マイナスになった分は夏休みアルバイトでもして返済しないと行けないから、出来る限り節約したい。……普段はアルバイトする暇無いしね」
「お前の小遣い月いくら?」
「……2000円」
「そのうち電話の基本料は?」
「……1700円だ、2000−1700円で、だから俺は毎月300円で生活しなきゃいけないんだ!」
これじゃ誰かに連絡なんて出来ない。するとしても、通話料無料になるソフトバンクだけだ。
「だってお前、今まで昼食とか部活で必要なものとか、電車代とか色々あっただろ?そういうのはどうしてたんだ?」
「昼食代と部活代は別にあるんだ。ただ、全てレシートやら、切符料金とかは確かめられるから、そこからちょろまかす事は出来ないんだけどな……」
「サツキちゃんは?もう持ってるだろ?お金大丈夫なの?」
「サツキは母さんを上手く丸め込んで、携帯代も別にしてもらってるから大丈夫だ。基本料含め3000円越えたら小遣いからひかれるけどな」
「ってそれ……ヤスが丸め込まれたんじゃない?いくら何でも300円で1月過ごさせようとか思わねえだろ?」
「…………」
そういや、昨日母さんと言い争いになって(俺が怒鳴ってるばっかだったので、言い争いと言うのかは微妙なのだが)、いつの間にか
「じゃあ俺の小遣いからひけばいいだろ!?」
とか叫んでたなあ。
…………。
「しまったあああ!!!」
「…………御愁傷様、ヤス」
ふう、一瞬意識がとんでたみたいだ。小遣いに関しては、もう覆りそうにないし何とかしていくしか無い。
「そういや、ヤスってアルバイトする暇本当に無いの?土日は基本的に暇だろ?」
「土曜日はサツキの為に開けてあるんだ!ケンとだって、時々会ってんだろ?それができなくなるぞ。日曜日は家族で過ごす日って決まってるからな、バイトなんて入れてらんねえよ」
「……ほんと不思議なんだけど、お前んちって仲良すぎだよなあ。俺んち別に日曜日にわざわざ家族で過ごそうなんて思わねえよ」
「いいじゃん、家族仲はいい方が、ケンだって兄貴大好きのくせに」
「まあね、俺の兄貴は最高だからな!んじゃ部活終わってからは?夕方7時くらいには家に帰れるだろ?」
「月水金は俺が夕飯作ってるから無理。火木はサツキが作ってるけど、夕飯サツキ1人で食べさせると思うと……ちょっと無理だな」
「朝は?朝ならバイトする暇あるんじゃん?新聞配達とかさ」
「……うーん、朝飯って俺が作ってるんだよね。だから、朝6時、どんなに遅くても6時15分頃には家に帰らないと……で、その前にバイトって事は朝3時頃からか?雨降ったらもっと時間かかるって言うし…………なんとかなんのか?それ」
そもそも高校生って何時から何時まで働いていいんだ?夜は10時までだった気がするんだが。
「ヤス…………頑張れ!」
「絶対無理だって顔しながらそんな事言ってるんじゃねえ!」
「じゃあ、夏休みに死ぬほどバイトしろ!そうすりゃ別に電話代気にする必要ないって」
「絶対やだ!それだったら、電話しない方を選ぶ!」
「……しょうがない、わかったよ、メールも電話もしなくていいよ。だから交換してくれ」
「おう、了解。家族を除いてなら第1号だな」
…………。
よし、交換完了。
「サンキュ!お前からは送らなくていいけど、俺からはもうばんばんメール送ってやるからな!1ヶ月で3000件は超すと思え!」
「そんなに来たら迷惑だよ!そんなに送る内容無いだろ!?」
「あるぞ!ウララセンセへの熱い思いとか、ウララセンセとの今日の出来事とか、ウララセンセとのスキンシップとか、俺の兄貴についてとか…………後は、ヤスの今日の醜態日記だな」
「そんなん送るな!最後のは特に止めてくれ!」
もうこれ以上生き恥を聞きたくない。
…………あ、そうだ。
「なんだ?にやけちゃって。怖いぞ」
「せっかく携帯を持ったんだ。今からサツキに電話しようかと思ってさ。家族同士なら24時間無料だし」
「さりげなくコマーシャルするな!今一瞬お前が犬のお父さんに見えた……auだって上手く契約すれば家族間なら電話無料なんだぞ!」
ん、お前もさりげなくコマーシャルしてるぞ。
そんなケンは無視して、俺は電話する。
発信音が数回なった後、
「もしもし、ヤス兄?なんか用?今日もうヤス兄から電話来るの6回目だよ」
「ん、サツキの声が聞きたくなった」
「……このヤス兄の変態」
ツー、ツー、ツー、ツー
「切れた……」
切れた携帯をガックリと見てた……。
「ヤス、っくくくっ……面白すぎっ!!あっはは!くっ……は、腹が痛いっ!ろ、6回ってなんだよ!まじ泣ける!アホだ!も、もうだめ……!!あははははっ!!」
「う、うるさいっ!うれしいんだよ!電話したいんだよ!使いたくなるじゃんか!サツキに電話したっていいじゃんか!」「あ、は、はらが……も、これいじょう、しゃ、しゃべるな!ひぅひっ、ひぃひひひっ!」
くそう、悪いか!携帯持てるってすごく嬉しいんだ。いくら電話したってただなら、サツキに電話したっていいだろ!
「あ、あははっ、ひひぃひっ、はぁ、はぁ、はぁ…………も、今日はお前の顔見らんない、今日だけは話しかけてくるなよ!ぶふっ…!」
もういいよ、ケン、絶対話しかけてやるもんか。
その後、今日の部活の練習が終わり、家に帰って明日からは用がないのに電話するなとサツキに思いっきり注意された。
うう、せっかく買ったんだから、電話したいなあ。
次の日の昼食。相変わらずケンと食事をしてるとき。
あれ?電話が震えてる。お、サツキからじゃん。
「はい、もしもし?」
「あ、ヤス兄?私、サツキだけど」
「どうした?なにかあった?」
「いや、その、今日電話が無かったからどうしたのかなあと思って……」
「昨日サツキが電話するなって言ったから、したかったけど電話しなかったんだが……もしかして、サツキ電話待ってた?」
だとしたらすごく嬉しいなあ。
「なわけないでしょ!?変態兄のくせに調子に乗るな!」
「じゃあ何で電話したのさ」
「……もういい、じゃあね!」
ツー、ツー、ツー、ツー
また切れた。結局なんだったんだろな。
「今の電話、サツキちゃんから?」
「ああ、そうだけど?結局用もなかったみたいで、さっさと電話が切れちゃった」
「……サツキちゃんもヤスほどじゃないけど、重度のブラコンだよな……」
「お、ケンもそう思う!?やっぱりサツキも俺の事好きだよな!よし、明日からまた電話しよっと!」
「…………お前のが重症だよ…………」
俺はケンのそんな声はもう聞いちゃいなかった。
さてさて、今日の部活も頑張りますか!