442話:サツキの誕生日、準備中
5月27日水曜日……試験期間中なのだが、今日だけは絶対にはずせないイベントがある。そう、サツキの誕生日だ。
毎年毎年、必ずかかさずにお祝いをしていたのだけど、今年は試験期間中ともあってなかなかきちんと準備ができていなかった。
けれど、どれだけ準備不足だろうと、サツキの誕生日を祝わずにいていいのだろか、いや、そんな訳がない!
という訳で、朝少しだけ早起きして、ねぼすけなサツキが起きてくる前にアヤと2人で、今日のスケジュールを決める。
「いいかアヤ、午前中は普通に試験を受ける。ここまでは決定事項だな」
「うんうん」
「その後、昨日や一昨日だったらアヤは部活終わった後一緒に家に帰ってきてる。けど、今日はそのまま家に帰るのではなく、どこかに寄ってほしい」
「どこかって言っても……どこ行けばいいかな? ヤスお兄ちゃん」
「できる限り時間つぶせるところがいいな。図書館とかで普通に勉強してくれればいいんじゃないか? 明日が余裕だったらどこかで遊んできてもいいけど」
その間に俺ができる限り誕生日の準備をすると言う流れだ。
と言っても、明日がテストなうえに明後日から県大会なんて日じゃ、盛大に祝うなんてなかなかできない。
やるとしても普段よりちょっとだけ夕ご飯を豪勢にするくらい。
「アヤは今日の夕飯、食べたいものはあるか?」
「へっ? あ、あたしは別にお兄ちゃんが作ったものなんでも好きだし……バナナがあれば」
……何でバナナ? バナナを夕飯にすることは無理だし……チョコバナナクレープでも作るか。
「ふぁあああ……おはよおヤスう……さっきからアヤちゃんと何の会話あ?」
泊まりに来ていたユッチが目をさまし、2階から降りてきた。
「アヤ、誕生日ってのは大勢に祝ってもらう方が嬉しいかな? それとも家族でこじんまりとお祝いする方が嬉しいかな?」
「大勢すぎるのは嫌だけど、ユッチ先輩とケン先輩位ならいてもいいんじゃないかな?」
ふむ、普段は、ユッチに対してはたまには帰れというばかりだけど、今日くらいはサツキの誕生日を祝ってもらうって為にはありかもしれない。
「ユッチ、今日は泊まってくか?」
「もちろんだよお……当たり前のこと聞いてどうするの、ヤスってばあ」
……おかしい。泊まることがユッチの中で当たり前になっている。父さんも母さんも、ユッチの母さんも父さんも別に怒ったりしないけど、それでいいのか。
一応ユッチの姉さんには逐一ユッチの様子は報告してるにはしてるけど……。
「……まあ、気にしてもしょうがない。アヤはその計画で、なんとか17時くらいまでは粘ってくれ」
「ラジャ! ヤスお兄ちゃんこそ、下手うっちゃだめだよ!」
「当たり前だって!」
俺とアヤはニヤッと笑いながらアイコンタクトを交わす。
ユッチのよくわからない返事は無視して、俺はアヤとそのまま打ち合わせを完了した。
ふぅ……今日の部活も終わった。
毎日毎日長い距離を走ってきて、だんだんと1年生も長い距離を走ることに慣れてきたようだ。
最初は途中で走るのをやめて立ち止まってしまったり、歩いてしまう1年生も多数いたけど、今ではアヤを除いて全員が10キロを走りきることができるようになっている。
アヤはまだまだ他の部員には及ばないレベルで、はぁはぁ言いながら6、7キロくらいでばててやめてしまってるけど……それでも4月に比べれば格段に走れるようになっている。
「なんか、いくら男女の差があるとはいえ、あんたに負けるのは腹が立つ」
いや、シイコ、さすがに俺、シイコに負けてるようじゃかなりやばいだろ。これでも一応1年間は練習し続けてきてるんだぞ。
「シイコ姉、それはヤス先輩をバカにしすぎっす。こんなでも痩せても枯れても先輩っす」
「エリ……てめえもやっぱり俺の事バカにしてるだろ」
ちょっとムカッと来たので、わざと声のトーンを落とし、どすの利いた声でエリに向かって言う。
「バカにはしてるっす。バカにしすぎてはいないっすよ? というかヤス先輩、全然怖くないっす」
うるさいっ! これでも頑張って怖くしようとしてるんだよ!
っていうかバカにするとバカにしすぎるの違いが分からない。バカにしてるのとバカにしすぎているの……一緒じゃんか。
「……っと、今日はお前らにかまってる暇はないんだ。急いで帰らないと!」
「あんた、今日は何かあんの?」
出来る限り早く帰って、サツキの誕生日の準備をしないといけないんだよ。
サツキの好きなケーキを焼いて……他にもいくつかデザートを作りたいな。
夕飯は何にしよう。主菜はビーフシチューにしようかな。んで、副菜に鶏ささみのさっぱりサラダとかにしておくか。もっとメニューを考えたいけど、今ぱっと思いつかない。後は買い物しながら考えるか。
……飾りつけする時間はないけど……しょうがない。
「じゃあなシイコ! エリ!」
「質問してるんだから、それくらい答えなさいよ! このバカ!」
質問に答える時間が惜しいんだよ。俺は鞄を手に取ると、シイコとエリにひらひらと手を振って、急いで校門を出て行った。
アヤ、上手く時間を稼いでくれよ……。