440話:お昼ご飯
5月22日金曜日……昼休み、屋上でサツキとユッチと弁当中。今日のメニューはサンドイッチ。
来週月曜日から中間テスト。なので、ユッチは必至で単語帳をペラペラとめくりながら卵サンドイッチを食べてる。
「ユッチ、行儀悪いぞ」
「しょ、しょうがないじゃんかあ! 月曜日から試験なんだよお? そ、そういうヤスは大丈夫なのかあ!?」
「うーん……大丈夫なわけじゃないけど、昼休みのんびり飯食う程度には余裕」
「ヤスの嫌味い!」
備えあれば憂いなしって言うじゃんか。普段からやってないから今慌てることになるんだろ。
まあ、サツキもユッチも、来週金曜日から県大会。中間テストなんてそれどころじゃないって言うのもあるんかもしれないけど。
しょうがない部分も少しはあるのかなとか少し思うも、自分には別にどうもできんしなと、諦めの気分でハムサンドを手に取る。
「サツキは大丈夫か? 中間テスト」
「んー……なんとかなるんじゃないかな?」
卵サンドをぱくつきながら、余裕の表情で答えるサツキ。
高校1年生の中間テストなんて、まだまだ難しい問題を出すわけでもなし、そんなもんかもしれないけど。
「ううう、さっき覚えたはずの単語がまた頭から抜け落ちてるよお……」
ぶつぶつと何か言いながら、再度単語帳を読み始めるユッチ。今更そんなに頑張ってもどうしようもないと思うんだけどな。
「ユッチ……こんな言葉を知ってるか?」
「んん? なにい?」
「人生諦めが肝心」
「うるさいい! 人ががんばってる時にそんなこと言うなあ!」
「人はそれを無駄な努力という」
「うるさいうるさいい! バカにするなあ! ボクはバカじゃないんだあ! このバカあ!」
別にバカなんて一言も言ってないけどな。自分でそう思っただけだろ。
む、この卵サンドうまいな。さっきからユッチもサツキも卵サンドばっかり食べてると思ったらそういうことか。
「ユッチ、バカって言った方がバカなんだぞ」
「う、うるさいうるさいうるさいいい! ボクはバカじゃないい!」
うん、こういう反応が返ってきてくれることが嬉しい。
1年生もこういうユッチを見習ってほしい。
「あああ、ヤスがバカなことばっかり言うから、単語全部忘れちゃったじゃんかあ……来週のテストどうするんだよお……ヤスのバカあ」
俺のせいにすんな。
「ヤスう……そんなバカなことばっかり言ってないでさあ、もっと手助けしてよお。ボク、これでも結構ぎりぎりな気分でせっぱつまってるんだからあ。サツキちゃんも何か手助けしてくれないかなあ」
勉強関連で後輩にそんなこと求めるなよ。どれだけせっぱつまってるんだ。
「ユッチ先輩、頑張ってください」
「うん、サツキちゃん、ありがとお!」
ユッチ、応援してもらってうれしいのかもしれないけど、サツキのあの顔はきっとめんどくさがってるだけだぞ。
「ほらほらあ、ヤスもヤスも。何かボクに言ってよお。なんでもいいからさあ」
「ユッチ、また来年があるさ」
「留年するみたいなこと言うなあ!」
「ユッチ、期末があるさ」
「中間テストがもうだめだみたいにいうなあ! まだ何とかなるんだからあ!」
「ユッチ、補習があるさ」
「赤点決定みたいに言うなあ! まだ大丈夫なんだからあ! ……ヤスう……もっといいこと言ってよお」
ありゃ、かなり落ち込んでる。遊びすぎたか?
そろそろフォロー入れないとだめか。
「ユッチ……」
「な、なに? 突然改まっちゃってさあ」
「人の価値なんて、勉強で決まると思うか? そんなことはないさ。ユッチの魅力はそこじゃないだろ? 一生懸命陸上やってるとことか、何事にもひたむきなところとか、実は料理が得意なところとか、他の人に気遣いができるところとか……たくさんあるじゃないか。勉強ができないところもユッチの魅力の1つだって」
「え? そ、そ、そうかなあ? えへへえ。照れるよお」
「ユッチ先輩、今ヤス兄はいいことを言ったふりしてユッチ先輩の事バカにしただけですよ。ユッチ先輩は勉強ができないって」
おいサツキ、そんなこと言うなよ!? ばれるだろ!?
「や、や、や、ヤスのバカあ! ボクをバカにしてそんなに楽しいかあ!」
楽しい。とても楽しい。
「ふんだ! も、もうヤスとは口きいてあげないんだからあ!」
そう言い捨てると、卵サンドを1つとって立ち上がり、出口に向かって走っていってしまった。
「ヤス兄、さすがにいじめすぎじゃない? 面白いかもしれないけど、やりすぎはだめだよー」
最後にとどめを刺したのはサツキな気がするけど。
まあ、ユッチの事だから教室戻ったらまたいつも通りになってるだろう。そう思い俺は別にユッチを追わずにそのまま昼食を続けた。
「あ、最後の卵サンド! 俺まだ1個しか食べてないのに!」
「ヤス兄が遅いのが悪いんだよー」
くそっ、この卵サンドうまかったのに。
また明日もサンドイッチにするかなと思いながら、俺はトマトレタスサンドを手に取った。




