44話:インターハイ地区予選、観戦
今日、先輩たちが出場する種目は全て終了した。
女子100mハードルでは、最後のハードルを跳び越えた後転倒してしまい、その後立ち上がってゴールはしたが、結果はもちろん最下位。県大会でリベンジして欲しい。
まだ、競技種目は残っているけど、先輩たちが出る種目は全て終わったので、集合して解散と言うかたちになる。
今日の結果は、3年生の先輩が110mハードルで1人、女子の先輩が100mハードルで1人、県大会に出場って所だった。
他の学校の速さはなんなんだ?
特に、1500mの結果にびっくりした。自分たちの高校が強いと思ってなかったけど、実力が全然違う。富士西高校と言うところなんかは、全員が決勝に出場していた。
自分たちの高校は学校の周りをぐるぐるしているだけで、スピードを上げる練習をしていないからそうなるのだろうか?
それならば、最終日に行われる5000mなら、先輩たちでも対抗できるのだろうか?見てみないと分からないな。
ウララ先生が審判員の仕事を抜け出て、大山高校のいる所にきてくれた。
「今日はお疲れさま。怪我してしまったり残念な結果な人もいたけど、だいたいの人は自己ベストを出せたみたいだったね。まだ明日以降もあるので、選手はちゃんと休養する事。怪我したあなたは、無理をせず必ず病院へ行くこと。明日以降は残念だけど、棄権してね。まだ、新人戦も来年もあるんだから!………… まだ試合は残っているから、見ていきたい人は残ってもいいですよ。じゃあ、私はまだ仕事が残ってるから戻るね。また明日!」
そう言って、戻っていった……が、途中で振り返って
「あ、そうそう、明日から降水確率0パーセントみたいだから、そのテントもう持ってこなくていいから。ヤス君、学校に持っていっておいてね。ほんとは今日も0パーセントだったみたいだけど、言うの忘れちゃった」
ウララ先生がそんな発言をした。
ってそれ前に言ってくださいよ!!テヘって笑ってないでさ!
俺の運び損じゃん!
……もうこの事は意識の外に持ってく。さて、これからどうしようか……。
「ケン、試合見てく?」
「ああ、俺400mの決勝見ていきたいな」
「そっか、俺は1500mの決勝を見てみたいな、見に戻るか」
「あいよ」
テントを持ちながらの移動。重いなあ…………。
帰った人も入れば、残った人もいる。1年生では、俺、ケン、ヤマピョン、ポンポコさんの4人が残っていた。
ユッチは残りたがってたようだが、今日は家族で夕方から用事があるらしく、帰らなきゃならないと言って帰ってった。アオちゃんもそれについてったみたいだ。先輩たちが最後まで試合に残ってたらどうしたんだろ?
他の1年は普通に帰ってった。気にならないのかなあ?
集合していた間に女子400m決勝は終わっていた。
これから男子400m決勝が行われる。
「位置について…………ヨーイ」
バン!
スタートした!
予選と違うのは、全員が速いと言う事。予選の時は、誰かしら1人ぐらい、あ、こいつは初心者だなと思うような明らかに走り方がおかしい人がいたもんだ。
予選の時にはラスト50mぐらいになると、もう勝ったって分かったのか、決勝に体力を温存する為に、スピードを緩める人も結構いた。
今回はもう全員が速いから、手を抜いて走るような事が無かった。
残り100mの時点では、横1直線だった。誰が優勝してもおかしくないんじゃないかって思えるぐらい。
ただ、やはり実力差があったみたいで、ここまで走ってきた人の中で、明らかに失速してる人もいた。
400mは最初とばしすぎてはならない競技なんだと、それを見てしみじみ思った。
優勝者のタイムは49秒02。しかも1位と2位は同じ学校だ。
「なあ、ケン。49秒02ってタイムはすごいのか?速いのは見てれば分かるんだが、イマイチどのくらいすごいのか想像がつかないんだけど」
「うーん、お前、50m何秒で走ったっけ?」
「えっと……7秒5だけど」
「単純に8倍してみたら?」
50m×8=400mと言う事か。
…………。
「おお、60秒!って俺おそっ!めちゃくちゃ遅いな俺!」
「俺の場合は、6秒3だ。8倍してみ」
…………。
「50秒4か、って、ケンの50メートル全力走より速いペースで、400mも走ってんのアイツ!?」
「まあ、そう考えれば、すごいのは分かるよなあ」
…………。いやあ、びっくりした。速い速いと思ってたけど、そんな速かったんだな。
「私も昨日、ちょっと調べたんだが、49秒02ならば、東海大会にも出場できそうなレベルだな」
げ、ポンポコさん、それはまじですか?あいつ、すっげえなあ。
次は男子1500mの決勝だ。
もう選手はスタート位置についている。
バン!
銃声が轟いた。一斉にスタートする。
予選の時点で全力出してるのかと思ったけど、全く違う。
予選は様子見だったみたいだ。ほとんどの選手が、予選より速いペースで走っている。
決してスピードがないレースではなく、今回のレースは全員が始めから全力で挑んだレースのように見える。
だが、それぞれの実力がそんなに変わらないのか、中々ばらけない。集団のまま2周目に突入した。
実力が足りない人だけが少しずつ振り落とされていく中、変化が起きたのはラスト1周になった時だった。
ラスト1周から集団の先頭あたりを走っている人たちがさらにスピードを上げ、スパートをかけたのだ。
もうそれまでの走りが目一杯、全力で走っていると思ってたから、びっくりした。
ラスト100mで、直線に入っても2人が先頭に立って、お互いに譲ろうとしない。
腕は思いっきり振って、足も1cmでも前に出そうと素早く動いている。
最後、ゴールした瞬間でも、どちらが先にゴールしたのか分からなかった。
そいつらの差は0.05秒。4分03秒45と4分03秒50。
…………。
一番速かった先輩のタイムは4分25秒だけど、先輩たちのタイムは最初から全力だ。
先輩達より遥かに遅い俺なんて、勝負にもなりゃしない。
…………どうすっかなあ…………。
「…………うん…………」
ん?ヤマピョンがなんかしゃべった気がするけど?
「ヤマピョン。どした?」
「……っ……と……走る…………」
……ま、そうか。先の事ばっか考えててもしょうがないし、とりあえず、走っておこう。
その後、俺はテントを持ち帰った。帰りもやっぱり重かった。
……後で気付いたのだが、明日はケンが持ってくる予定だったんだから、ケンが持ち帰るべきだったんじゃん……。何で俺が持って帰ってるんだろ?