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438/442

438話:間違い

1年生の初登場はそれぞれ399話、400話、404話です。

 5月18日月曜日。授業も終わって、放課後、部活開始時間。

 キキ先生、普段と全く変わらない様子で、顧問の事をどんなふうに考えてくれてるかさっぱりわからない。ほんとに顧問やってくれるんだろうか。

 ……まあ、そんなこと考えてもしょうがないか。今は部活に集中しよう。

 1年生の長距離部員と、俺と6人が集まって、ポンポコさんから今日のメニューを聞く。


「今日から長距離選手は、今までよりも多く、出来る限りたくさん走るようにしよう」


 ……ポンポコさんの一言に、長距離部員全員の顔がとても嫌そうな顔になった。

 きっと思っていることは全員同じだろう。俺ら、今までだってめっちゃ走ってたよね。これ以上に走れって言うの……と。


「嫌そうな顔をするな。基礎体力をつけることは大事だ。5000mを目標にする選手は、最低限5000m走れなければ意味がないというのはわかるだろう?」


 そりゃそうなんだけどね。俺も入部したばかりのころは全然走れなかったし。


「今年も長距離部員は初心者が多いのだから、長い距離をしっかりと走れるようになってから、次のステップを考えるようにしよう。そうだな……今日は軽く12キロくらい走ることにしよう」


 あああ、1年生たちがぐったりした顔してる。

 ここは唯一の長距離の先輩である俺が何か言って、気持ちを和ませないと。


「お前ら、この程度の練習でねを上げていたら、この先やっていけないぞ! ポンポコさんの練習はこの程度じゃないんだからな! ポンポコさんの悪魔っぷりは1年間耐えてきた俺がよく知っている!」


「……それを言われて、俺たちはどう反応すればいいんでしょう?」


「ほんとどうしようもない奴ね。あんたって」


「馬鹿っす、本物の馬鹿が目の前にいるっす」


 あ、あら? おかしい。俺の中では、『そうっすね! これぐらいへの河童ですよね! がんばりましょう!』みたいな返事が返ってモチベーションが上がるかと思ったのに。

 余計にぐったりした顔が増えた気がするのは気のせいだろうか。


「……ヤス、後で覚えておけよ」


 しかもポンポコさんまで、睨むような目つきで俺を見るし……なんでだ。


「ヤスお兄ちゃんは別に悪気があって言ったわけじゃないよー。みんなを元気づけようとしていっただけなんだから」


 ありがとうアヤ! 俺の味方はアヤだけだ!


「ただ単に間が悪いだけで」


 ……その一言は言わなくてもいいんじゃないかなあ、アヤ。アヤのその一言に、ちょっとだけへこんだ気持ちになりながらも、ひとまず全員でアップのジョグに走り出す。おかしいなあ……そんなに間の悪いこと言ったかなあ。別に普通なことを言っただけのはずなんだけどなあ。


「なあエリ、俺ってなんか変なこと言ったか?」


 ジョグをしながら、隣をジョグしていた1年生に声をかける。


「私はシイコ。1月以上もたってんだから、人の名前ぐらいいい加減覚えなさいよ」


 ……すみません。

 けど、俺はきっと悪くない。シイコとエリって双子だから、顔が似てるというか同じに見えるんだよ。わざわざ髪型まで一緒にする事なかろうに。2人そろって性格きついから、雰囲気も似てるし。

 きっと1年生同士でも、2人の見分けってついてないんじゃないか。ちょっと他のやつにも聞いてみるか。

 俺の後ろを走っていた1年生に声をかける。


「なあナベ、ちょっといいか?」


「俺はカケルですけど……」


 ……やばい。今のはやばい。


「何あんた。私とエリだけじゃなくて、他の1年生の見分けもついてないの?」


「いやいや、違うって! 言い間違えただけだって! わかってるよ。さすがにナベとカケルの違いくらいは区別ついてるって!」


「ヤス先輩、言い訳は見苦しいっす」


 エリとシイコ、同じ顔の2人が俺に対して攻めたててくる。

 ちくしょー。俺が悪いよ。悪いですよ。でも仕方ないだろ? 人の名前と顔って覚えるの大変なんだから。

 特に5月のインターハイ地区予選までは俺とお前ら別々に練習してたじゃんか。一緒に行動してないと顔なんてわかんなくなるぞ。


「ふぅ……ヤスお兄ちゃん、今のはフォローしきれないよ」


 えええ? マジですか。アヤにまで見放されるとは。そんなにさっきの発言まずかったですか。

 ど、どうにか信用を回復しないと。


「え、えっとな。たまたま、そうたまたま言い間違えちっただけなんだよ。走ってて視界がぶれるから、ちょっと見間違えちゃうなんてよくあるだろ?」


「言い間違えたのか見間違えたのかどっちっすか、ヤス先輩」


 うっ……そ、それは言葉のアヤってやつだよ。揚げ足を取るなよ。


「な、なあグロさん! グロさんだけは俺信じてるくれるよな!」


「俺、ナベです。というかグロさんって短距離の1年生ですよ」


 ……終わった。ここまで間違えると、言い訳のしようがなかった。アヤも完全に呆れた顔をしてしまっている。

 部活が終わるまで、なんとなく冷たい目を感じながら12キロを走り続けた。

 どちくしょー。次の機会までには絶対覚えきってやるからな。

名前を覚えるのは苦手です。

高校時代、1年年下にいた、短距離の女子の名前、卒業まで覚えずにいた人がいて……ごめんなさい。


それでは。

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
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ええじゃないか
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