431話:インターハイ地区予選、5000m試合中
パン、という空砲と同時に、一斉にスタートした。
プラン通り、流れに巻き込まれないよう、最初は少しスピードを上げ、集団の先頭付近に立つ。
……流れに乗って上手く前から2番目の位置につけた。いい位置だ。この位置でうまく先頭の選手について行って、体力を温存しながら3000mくらいまで行ければ……。
たったっと集団の足音が聞こえる。その足音に合わせ、リズムをつけて走る。
その流れのまま、200m通過……。
38秒。速くもないけど、そこまで遅くもない。ちょうどいいペースだとは思うけれど……なんか前の選手のスピードが遅くなったような……。
自分がただ単にそう感じるだけならいいけど、絶対に遅くなっている気がする。後ろからの足音や息遣いが大きくなっているからだ。
これは絶対に後ろとの距離が詰まってるって言うこと……。
ちっ。このペースに巻き込まれてたら、いいタイムも出せない。仕方なしに、300mを超えたところで俺は前を走っている選手を追い越し、先頭に立つ。
……先頭には立たないようにしようって言ってたのに、いきなり先頭かあ。
嫌な気分になったが、気にしててもしょうがない。ペースを落とさないよう、先頭に立って走る。
「ヤス、76秒! いいペースだ!」
ポンポコさんからのタイムの読み上げが聞こえる……よし。ちょうど目標にしてたタイムと同じだ。このペースのまま、出来る限り維持していって……。
ちらりと後ろを振り返ると、自分の後ろには5、6人程度しかおらず、残りは既にかなり離されていた。
……誰か前に立ってペースメーカーをやってほしいんだが……このまま俺が先頭に立ちづつけなきゃいけないのか。
「ヤスう! いいぞお! ファイットお!」
「ヤスお兄ちゃん! がんばれ!」
ユッチとアヤの応援が聞こえる。去年の新人戦の時は、応援の声を聞いた瞬間、『これでも頑張ってるんだよ! これ以上何頑張れって言うんだよ!』って思ったりしたけど、まだ心に余裕があるからか、頑張れって言葉が素直に聞ける。
先頭を走り続けるのは嫌だが、仕方ない。このペースを維持しながら、走ってやる。
2000mを通過した。タイムは6分29秒。まだ、呼吸もしっかりしているし、腕も重くない。足もしっかり蹴れている。
……まだまだ大丈夫だ。この調子で5000mまで走り続けることができたら。
2000mを通過するまで、ずっと先頭を走り続けている。400m走った時点では5人くらいいた選手たちも、だんだんと振り落されていき、現在後ろについているのは2人だけだ。
けれど、このぴったりと後ろにくっついている2人がなかなか脱落してくれない。
さっさと脱落しろよと思っているのだけど、全然脱落しない。
「ヤスお兄ちゃん! 負けるなー! 突き放しちゃえー!」
アヤの応援が聞こえた。確かにこのままずっと後ろにつかれるのは嫌だな……少しペースを上げて、ゆさぶりをかけてみるか?
……や、自分にそんなことできるほどの実力はない。後ろの選手がどう動こうが、今のペースを維持してしっかり走る方が大事だろ。
「ヤスう! かっとばせえ!」
ユッチ、無茶言うな。こんなところで飛ばしたりして、残り3000m、途中でばてたらどうするんだよ。
……あくまで慎重に、慎重にだ。
タッタッとその調子で2900mまで走ったところで、変化が訪れた。今まで後ろについていたうちの1人が、グッとスピードを上げ、俺を追い抜こうとしてきた。
ここまで散々俺をペースメーカーにしたうえ、抜き去ろうとは……そう簡単に抜かれてたまるか。
負けじと俺も少しペースを上げ、ぬかさない。直線以外のところではアウトコースを走る選手の方が絶対に不利だ。
カーブの部分では、かなりのスピード差がないと抜き去ることはできない。
だからこそ後ろの選手はストレートになった瞬間に仕掛けてきたんだろうけど……そうそう簡単に抜かしてたまるかってんだ。
3000m通過。
タイムは……9分58秒。くっ、後ろの選手が追い越そうとしてきたのは、俺のペースが落ちてきたからか。ポンポコさんのタイムも聞いてはいたけど……そんなにペースが落ちてる気がしなかったのに。
3000mを走ったあたりから、だんだんと息が苦しくなってくる。負けてたまるかという思いで走り続けてはいるが、かなりきつい。
……また、ストレートになった瞬間に俺を追い越そうと狙ってくる。
だから抜かすかってんだ! しつこいやつだ……いい加減諦めろ。
はぁ、はぁという息遣いだったものが、はっはっはっはっ、と短い間隔で息をしないと辛くなってきた。
後ろの選手はまだ残り2人。ぴったりとついてくる。うち1人はさっきから何度も俺を追い抜こうと狙ってくる。
本来なら、こいつを前に出して、こいつに残りの距離をペースメーカーやってもらうのが一番楽なんだろうけど、今の自分では、こいつに前を明け渡したら、きっと心がおれてずるずると引き離される気がする。そんな思いから、何度狙われようと明け渡さずに走る。
……くっそ、まだあと1800mもあるってのに、ここでこんなにばててたら、残りの距離走れるのか自分……。