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427話:インターハイ地区予選、100m準決勝

 応援することができなかったキビ先輩は無事、決勝進出できた。

 400mハードルは競技人口が少ないから、予選通過さえできれば、県大会出場が可能だ。


 ケンは800m準決勝、バテバテで出場した。

 600mくらいまではなんとか走れていたけど、その後思いっきり失速。最後のスパートのとこでも何とか頑張っていたけど、最後にはほかの選手たちに突き放されてしまった。

 結果は2組目の中で7位。全体で20位。残念ながら県大会に行くことはできなかった。

 予選のタイムなら、決勝でもいい順位で入れただろうに……ほんとに残念だ。


 ケンのどじは置いといても、去年に比べ、ものすごくたくさんの競技で県大会出場を果たしている。

 俺もこの勢いに乗って、県大会出場出来たらなあと思うけど……、やってみないとわからないなあ。


 今、競技は100mの準決勝まで来た。大山高校で出場する選手はユッチ。1組3レーンで出場する。

 ユッチの応援に、俺とケンの2人が100mのスタートライン付近まで来た。


「ううぅ、ボク、すっごい緊張してきたよお……みんなボクより背がおっきいし、場違いな気がしてきたあ……」


 背が小っちゃいのは全く関係ない気がするけど。


「ユッチ、そんなに気にしなくたって大丈夫ですよ。誰がどう見ても、小学生に見えるユッチは場違いに見えます」


 何の気遣いもなく、アオちゃんがものすごく失礼なことをユッチに言った。

 ……アオちゃん、さすがにそれは言いすぎだろ。


「ふ、ふ、ふーんだ! どうせボクは小学生みたいですよおだ! ちんちくりんのちびっこですよおだ!」


 誰もそこまで言ってないぞユッチ。


「別に、けなしてるわけではないですよ。小さいからこそのユッチですし、ねえヤス君」


 ちょ、アオちゃん!? どんな瞬間に俺に振るんすか! めっちゃ答えにくいじゃん!

 ユッチが俺の方を見る。あの顔はきっと、不審と期待といろんな感情がごちゃ混ぜになったよくわからない顔だ。

 そんな目で俺見んなよ。言ったのアオちゃんなんだから。

 

「えっと……まあユッチ、100m、頑張れ」


「ヤスぅ! 今の、何の答えにもなってないじゃんかあ! ちゃんと答えてよお!」


 ……ほら、めんどくさいことになるじゃんか。えっと、なんていえばユッチ、納得してくれるんだ?

 俺はなけなしの脳を使って無理やり言葉を紡ぎだした。


「……ユッチ、今は県大会に行けるかどうかが決まる、大事な大事な100m準決勝の直前だ。そんな時に、ユッチが小さいほうがいいのか、大きいほうがいいのか、そんなことを議論している場合だろうか。いや、そんな訳がない」


「ヤス君、ごまかそうとしてますね」


 うるさいな!? せっかく納得しかけた顔してるってのに! なんでわざわざそんなこと言うんだよアオちゃんは!


「それでは、ただ今より100m準決勝のコールを開始します。呼ばれた方は、返事をして腰ゼッケンを見せてください」


 ちょうどタイミングよく、審判員の人が準備のためにコールを開始してくれた。


「ほれユッチ! そろそろお前の番だ! がんばれよ!」


「えぇ!? こ、答えはぁ!?」


「そんなん後々! ユッチ、絶対行きたいんだろ!? 今はそのことに集中しろよ!」


「……あ、うん! 頑張ってくるから、アオちゃんもヤスも、思いっきり応援してねえ!」


「あいよ! まかせとけ!」


 そう言って、俺はユッチを送り出した。

 ……最初は緊張してるって言ってたけど、途中からは普通に会話してた。言ってるほどには緊張してないみたいで、そこは結構安心だ。

 去年の新人戦は、がっちがちに固くなっちゃって、全然試合に集中できてなかったみたいだったもんな。

 新人戦の時は特に、中学時代の仲たがいしちゃったチームメートに会って、余計にひどくなってたもんな。


「はぁ……ヤス君がいると、ユッチが緊張せずに済みますから、助かります」


「へ? なんの事?」


「100mの予選の事なんですが。ユッチすっごく緊張してて、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ……全然集中してくれなくて」


 へえ、そうなのか。今の雰囲気見たら、いい感じに落ち着いてたように見えるんだけど。

 予選の時も、新人戦の時みたいにがっちがちに緊張しちゃってたのかな。2回目だから雰囲気に慣れたってのもあるんだろうけど、それでも俺がいたからリラックスできたって言ってくれるのはうれしい。

 

「ん? ……つまり、ユッチはそれくらい俺の事を信頼してるというわけだな」


「いえ。自分よりレベルが低い人がいると安心する。そういう感覚じゃないでしょうか。私もヤス君といると、すごくリラックスできます」


 ひどっ!? ……べつにそこ、落とさなくてもいいんじゃないかな。持ち上げてくれりゃいいじゃんか。

 ……怒るな自分。これがアオちゃんのデフォルトだ。悪気がなく言ってるだけなんだ。

 気を取り直して、ユッチの応援するぞ。

 そう思い、自分はグラウンドに出て、スタート地点に立っているユッチに大きく叫んだ。


「ユッチ、頑張れよ!」


 声が聞こえたのか、ユッチは背を向けたままだったけど、ぐっと拳を握って、右手を掲げた。

 ……頑張れユッチ。





 パン、という音と同時、一斉にスタートした。3レーンのユッチはいいスタートを切った。1人小さな体のなか、他の選手に引けを取らないスピードで走るユッチ。他の人が1歩走る間に、ユッチは2歩走る。小さい体ながら、大きな選手に対抗するために、一生懸命練習したピッチ走法。


「負けるなユッチ! がんばれユッチ!」


 走ってるユッチに聞こえてるかどうかわからないけど、めっちゃ大きな声で、叫んだ。

 ほぼ横一線の状態で、ユッチは走る。

 100m。たった10数秒って短い時間だけど、その10数秒の為に何か月も何年も練習してきたユッチが、一生懸命駆け抜けた。





 ……結果は1組の中では4位。準決勝のメンバーの中では11位。

 決勝には行けなかった。けど、ぎりぎりだったけど、なんとか県大会に行けた。

 結果が分かった時のユッチ、不安そうな顔から、満面の笑顔に変わった。今にも飛び跳ねんばかりに、喜んでた。

 明日、俺もそんな風になれたらいいな。


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