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426話:インターハイ地区予選、荷物番

 練習を終えてポンポコさんと2人、大山高校の集合場所に戻ってくると、ユッチが1人ストレッチをしながら、荷物番をしていた。

 こちらがユッチに気付いたのと同時、ユッチの方も俺に気付いたようで、ぶんぶんと手を振ってきた。


「ああっ、ヤスってばどこ行ってたんだよお! ボクの100m予選終わっちゃったじゃんかあ」


 ……や、練習するって言ったうえで、行ったんだけどな。

 そう思いながらも、それを口に出すことはせず、ポンポコさんと2人、靴を脱いでブルーシートが敷かれているところに座った。ここで少し自分もストレッチするか。


「ってか、予選くらいなら余裕だろユッチ」


「そんなことないよお……すっごい緊張したんだからあ! そういう時って応援はしてほしいもんじゃんかあ! ヤスだって明日の5000m、応援してほしくないのお!?」


 まあ、そりゃ応援はしてほしいもんだけど。

 けど、今日出場する選手の予選、準決、決勝と全ての応援をしてたら、自分の練習に行けないだろうが。


「ところでユッチ、私もヤスの練習に付き合っていなかったが、私の応援はどうでもいいのか?」


 今まで黙って俺とユッチの話をポンポコさんが、ボソッとユッチに向かってつぶやいた。


「そ、そそ、そんな事ないよお!? ぽ、ポンポコさんも応援にいなくて、ぼ、ボクすっごいさびしかったんだからあ!?」


 ユッチ、大慌てで否定すると、余計ウソっぽく見えるぞ。

 ジト目でユッチの方をずっと見ていたら、ユッチの顔がどんどんと顔が真っ赤になっていった。


「あ、ああ!? な、何さあ! その目! ヤスもポンポコさんも信じてないだろお!」


「そんな事ないぞユッチ。俺たちはユッチの事、すっごく信じてる。とてもとても信じてる。なあポンポコさん」


「ああ、私も信じてる」


 ポンポコさんとアイコンタクトを取りながら、上手く口裏を合わせる。


「ううううぅうう! 2人ともウソ言ってる顔だあ!」


「ウソだなんて、心外だなあ。俺はウソなんてついたことないよ」


「そこはウソだな」


 ……ひでえ、ポンポコさん。ここでわざわざ俺を落とさなくてもいいじゃんか。

 ほんとにポンポコさんがいなくてさびしかったのか、ウソなのかは知らないけど、まだまだふくれっ面をユッチがしていた。

 えっと、何か話題を変えて、空気を和まさないと。


「そう言えば、なんでユッチだけなんだ?」


「……」


「や、ユッチ。怒るなよ。冗談なんだし」


「ふーんだ。ボク怒ってるんだからあ」


 ……めんどくさっ。

 ユッチに聞いてもしょうがないと思ったのか、ポンポコさんがプログラムを持って、タイムスケジュールを調べていた。


「……ふむ、今は400mハードルの予選をやってるな。そろそろキビ先輩の番なので、きっと今、応援に行ってるのだろう」


「あ、そうなんだ。キビ先輩、そろそろ出番かあ」


 そうか。予選くらい、キビ先輩なら大丈夫だと思うけど……。

 そう言えば、なんでそれでユッチだけここにいるんだろ?

 そんな俺の目線に気付いたのか、ふてくされた顔をしたまま、ほっぺたを膨らませてユッチが言った。


「ボクはじゃんけんに負けて、荷物ばーん」


 なるほど、だからユッチだけ1人でここにいるのか。納得がいった俺は、ぐっと一度背筋を伸ばした後立ち上がった。

 ポンポコさんも俺が立ったと同じ頃合いに立ち上がる。


「んじゃ、俺たちはキビ先輩の応援行ってくるわ」


「えええ!? なんでなんでえ! ボクの応援はしないで何でキビ先輩の応援にはいくんだよお!」


「や、普通にユッチの応援も、準決勝からするぞ?」


 そんな差別なんてしないって。全く、なんでユッチのやつはそんな風に思うんだよ。

 あれか、100m予選でユッチの応援をしなかったからか。キビ先輩だけずるい。とかそんな感情か。気持ちはわかるけど、しょうがないじゃんか。


「そうじゃなくて、1人で荷物番が暇なんだよお! ヤスも一緒に荷物番しろお!」


 ……おい、そんな理由か。このわがままめ。それだけの理由で俺をここに縛りつけようとするな。

 けど、なんとなく、さびしがりのウサギのような眼をしているユッチを置いてく訳にはいかないような、そんな気分になる。


「ふむ。別に私は荷物番をしなくてもいいようだから、私は応援に行く。それではな」


 ってちょっと!? ポンポコさん! おいてくなよ!?

 自分がなかなか動かずにいたら、ポンポコさんは立って1人で行ってしまった。


「ほらほらあ、ヤスも諦めて一緒に荷物番してようよお」


 ……くぅ、ほんとは自分もキビ先輩の応援に行きたいのに。

 ここで俺がユッチを置いて応援行ったら、後がうるさいんだろうなあ……。それに、すごく期待してそうな顔をしているユッチを置いてはいけないよなあ……。

 仕方なしに再度ブルーシートに腰を下ろす。このわがままユッチ、今度絶対何か仕返ししてやる。


「そう言えばユッチ、100mの予選は結局大丈夫だったんか?」


「うんうん! 予選は2着で通過してきたよお! ……タイムで見ると、県大会に行けるか、ほんとにぎりぎりなんだあ。準決勝は絶対に応援してよお!」


 はいはい、わかったよ。今度はしっかり応援するようにするよ。


「ケンも準決勝に進出したよお!」


 おお、すげえ。ケンにも800mで県大会、行ってほしいなあ。

 周りが頑張ってて、さらに結果も出してると、自分も頑張らねばって気分になるな。

 明日に向けて、だんだんとモチベーションが上がってきた。


「けど、予選なのに全力で走ってバテバテになってたあ。準決大丈夫かなあ」


 ……理由はないんだけど、なんとなく上がってきてたモチベーションがなぜか落ちた気分になった。


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カカの天下
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