423話:インターハイ地区予選、1日目終了
俺の1500mが終わった後も、当然ながら競技はまだまだ続いている。
大山高校の選手は、去年とは違って快進撃を続けていた。
男子110mハードルに出場していたボーちゃん先輩は16秒11の自己ベストを出し、総合4位。県大会出場決定。
キビ先輩も女子100mハードルで15秒22の自己ベスト、総合3位。県大会出場決定。
ゴーヤ先輩とアオちゃんの出場した女子400mは、ゴーヤ先輩が59秒02で4位入賞。アオちゃんは63秒92と、残念ながら県大会に出場することはできなかったけれど、新人戦のときよりも3秒以上縮めていた。
ケンの男子400mも、51秒55で7位入賞、県大会出場。
400mリレーも男子女子ともに4位入賞して県大会出場した。
……去年は県大会に出場できた人が2人しかいなかったのに、今年は1日目ですでに6種目8人が出場決定している……すごい。けれど、その中に自分の名前がないのが残念。
ウララ先生の話も終わり、後は明日、明後日に向けて夜更かしせずにすぐに寝て、疲れをしっかりとることが今日の最後の仕事。
「ヤスう、お疲れ。今日は残念だったねえ」
「ユッチのほうもお疲れ。まあ確かに残念だったけど、これが俺の実力だし、そもそも俺の本命は5000mの方だからそこまで気にしてない。明後日にいい結果が残せたらそれでいいよ。ユッチはおめでと。400mリレー、県大会に出場出来たじゃん」
ずっとずっと前から、1年生のときから400mリレーでいい成績を残したい、と言っていた。新人戦では全然いい成績を残せないまま終わってしまったから、今回の4位入賞、県大会出場はとてもうれしいだろう。
俺も、他の人たちの快進撃に続いて県大会に出場できるよう、明日きちんとポンポコさんの指示に従ってうまく調整して自己ベストで走れるようにしておかないとな。
「うん! でも、ボクは県大会が目標じゃなくて、東海大会に出たいから、ここで満足してちゃダメなんだあ。ここから東海大会まで、あと3週間、もっともっと精度を上げて、絶対に東海大会に出場してやるんだあ!」
そだな、お互いに次に向けてがんばろ。
「ふわぁ……ってか、1500mしか走ってないけどめっちゃ疲れた。さっさと帰って飯食って寝よ」
「うんうん、そうだねえ。今日はちゃんと寝ないとだねえ。さ、早く帰ろお! ヤスう、今日の夕飯は何にする? 八宝菜? 天津飯? かに玉? 餃子? マーボーナス?」
……ちょい待ちユッチ。
「なんでそんなに中華を食べたいんだ?」
「今日は中華な気分だからあ」
「……って俺はそこを聞きたいんじゃない。何でユッチは俺んちに帰る気満々なんだよ」
確かに試合前日もなんでかユッチ、家に泊まっていたけど。
「自宅よりも落ち着くもん。大体ヤスの家はもうボクの家みたいなもんなんだからいいじゃんかあ。ほら、確かこんな名言があったでしょ。『ヤスのものはボクのもの、ボクのものもボクのもの』って」
「お前はジャイアンか」
確かに、ケンとユッチは週に4日以上うちに泊まっているから、確かに嘘じゃないんだけどさ。けど、こんな日ぐらい、自分の家に帰れよ。
「それに今さあ、ボクの家誰もボクにかまってくれないんだもん。マコトお義姉ちゃん、5月15日が出産予定日だから、もう毎日毎日そっちにみんなかかりっきりでさあ、退屈なんだもん」
「お前は駄々っ子な幼稚園児か。というか、そろそろ赤ちゃん生まれるんだなあ……ユッチ、家に帰らないと、赤ちゃんに自分の顔忘れられるぞ。家族だと認識してもらえないぞ」
「だだ、だだだ、大丈夫だよお!」
慌てて否定をしているけれど、俺に言われて、初めてやばいと思ったのか、かなり心配そうな顔をしているユッチ。
「でもお……家に帰ってもお……やっぱり今日はヤスの家に泊まらせてよお」
「まあ、全然かまわないぞ」
「あ、ありがとお!」
そう返事した瞬間、とてもうれしそうな顔をしたユッチ。
……なあユッチ、別にうちに泊まるのは全然かまわないんだけど、そこまで家に帰りたくないって、ユッチってばどんだけ自分の家に居場所がない状態なんだ?
ユッチのお父さん、お母さん……初孫が出来るときは、ものすごくかわいいって言うし、しょうがないのかもしれないけれど、ちょっとくらいユッチをかまってやってください。
「俺もヤスんちに泊まるつもりだったんだけど、まずいんか?」
「ケンもかよ、何でだよ」
「今日ちょっと寝坊して遅刻しそうだったからなー。ヤスんちだったらヤスが起こしてくれるだろ?」
「俺はお前の母ちゃんかよ」
めんどくさいよ、朝くらい自分で起きてくれ……まあいいけど。
「ヤス兄、最近、いつでも誰かが泊まりに来てるねー」
そうだなあ。はぁ……たまにはサツキとアヤと父さんと母さん、家族だけの時間みたいのがほしいなあ。