表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
422/442

422話:インターハイ地区予選、1500m

ふぅぅぅ……はぁぁぁ……。大きく深呼吸して、リラックスさせようと試みている。

とうとう俺の番が回ってきた。男子1500m予選。応援席にはサツキが、1500mのスタート地点には自分のラップタイムを図るためにポンポコさんがいる。

この前の男子400mリレーも43秒77の好タイムを出して、組で3位、全体でも8位の結果となり、無事決勝に進出、県大会出場も決めた。

女子400mリレー、男子400mリレーと好成績を残し続けている。ここは俺もいい結果を残していかないと。

ああ、ほんまに緊張してきた。もうあと5分もしたら、俺はスタート地点についていて、銃声とともに走り出している。


「ヤス兄、リラックスリラックス。緊張を楽しめってポンポコ先輩には言われたらしいけど、限度があるよ? 気負いすぎたらいい結果は残せないよ」


サツキが俺の緊張をほぐそうと、応援席から声をかけてきてくれた。


「ああ、わかってはいるんだけど。やっぱり試合前って緊張しちゃうじゃん」


けど、サツキに何を言われようと、なかなか緊張をほぐすことは出来ず、相変わらず俺のノミの心臓はバクバクしっぱなしだ。

試合があるたびにこんなに緊張してたりして、ほんとに自分、大丈夫なんだろうか。

やっぱり、1500mを走るのは初めてだから、勝手が全然わからん。最初に飛び出していいのか、後ろについていくのがいいのか。


「ヤス、ヤスは最初から思いっきり行け。まだ駆け引きなんて考えられないだろう? そんなことを考えている暇があるのなら、最初から思いっきり行って、自分の力を出し切ったほうがいい」


「あ、うん。了解」


自分が考えていることがわかったのか、ポンポコさんが走りについて、アドバイスをかけてきてくれた。

うん、自分なんぞがあれこれ何か考えたって、うまくいかないよな。思いっきり走ってくるだけだよな……。

ふぅぅぅ……はぁぁぁ……。

もう一度大きく深呼吸して、自分の気持ちを抑える。


「それでは1500m1組目の出場者の人、呼ばれたら返事して、レーンに並んでください」


審判員の人が出場者の人たちに呼びかけた。

……と、とうとう出番がきたか……。

1番から順々に声をかけられ、内側から順々に並んでいく。どいつもこいつも俺よりはやそう……何でこいつらはみんな俺より早そうな顔をしているんだろう。ほんとに嫌になってしまう。


「23番、近藤君!」


「あ、はい!」


とうとう俺の名前が呼ばれた。今まで俺は1500mの記録を持っていないから、組の中で一番外側から走ることになった。走りやすいといえば走りやすい。


「頑張ってね! ヤス兄」


「ヤス、頑張れよ」


「ありがとさん、頑張るっす」


サツキとポンポコさんに励まされながら、俺は1500mのスタート位置についた。


「1500m一組目、位置について!」


スターターの声とともに、全員がスタートの構えを取る。

…………ざわざわとしていた応援席から、声が消えて、静かな時間が流れる。


ドン!


銃声とともに、23人が一斉に走り出す。腕を使って、前に出ようとするもの、いったん後ろに下がるもの、さまざまだ。

俺はそんな中、ポンポコさんのアドバイスどおり思いっきり前に出て、全力で走る。


スタートとともに、静かだった応援席から、怒鳴り声のような応援の声がワーッと上がる。


「ヤス兄! ファイトー! 負けるなー! かっとばせー!」


他校の応援が織り交ざって、ポンポコさん、アオちゃん、ケンの応援の声は全然聞こえなかったけれど、サツキの声だけはよく聞こえた。

……だけど、かっとばせは陸上の応援じゃないと思うぞ、サツキ。


200m通過。最初に飛ばしたおかげで、先頭集団にくっつくことが出来た。

こいつらより前に行こうかとも思ったけれど、自分の肺と足はこのペースで結構きついと言っている。ここはこの集団にひたすらついていって、みんなが落ちていくのを待つしかない……。

他のランナーのタッタッと言う足音とはっはっと言う呼吸音が聞こえてくる。

……というか、速い。先頭集団の人たちはこのペースで1500mを走りきるのか?


……ようやく1周、400m通過。すでに自分の呼吸ははぁ、はぁと荒れてきている。


「ヤス! この400m、68秒! いいペースだ! そのままついていけ!」


こ、このペースをずっと維持しなければいけないのか。そ、それはきつすぎるだろ。

けれど、先頭集団のランナーたちはペースを落とす様子もなく、しかもほとんど息も切れる様子もない。

……こ、こいつらにとってこのペースは余裕なのか?


「ヤス兄! 頑張って! 練習は嘘つかないよ!」


……サツキ、そんなセリフが言えるほど、俺はスピード練習はしてねえよ。ひたすら距離ばっかり走っていただけだよ。

あかん、そんなこと考えた瞬間、めっちゃきつくなってきてしまった。


「ヤスう! 負けるなあ! 頑張れえ! 一緒に県大会行くんだあ!」


はぁ……はぁ……ユッチか。そ、そうだよな。そんな約束はした覚えはないけど、も、もうちょっと頑張らないとな。


2周、800m通過。かなりきつくなってきたけれど、意地でついていっている。


「ヤス! この400m、70秒! いい調子だ! ファイト!」


先頭集団のペースがほとんど落ちねえ……普通は1周目から2周目にかけてペースが落ちそうなものなのに……。

も、もしかして、このペースは先頭集団にとっては普通なのか?

現在、先頭集団は俺を入れて9人。誰も彼も、落ちる様子がない。その中で俺は集団の真ん中で走っている。

1500mは4組4着プラス4だから、この中で4位以内に入らないと決勝進出確定の切符はもらえない。9位になってしまったら、そもそも決勝進出の可能性すらなくなってしまう。


1000m通過。まだ、誰1人として落ちる様子がない。これはこのまま1400mあたりまで、この調子ですすんで、ラスト100mの勝負になるのか?

……はぁ……はぁ……き、きつい。だ、誰か本気で落ちていってくれないか。


1100m通過、ラスト1周400m。ガラガラと、ラスト1周の鐘が鳴る。

と、それと同時に先頭集団の一部が、一気にペースが上がった。な、何だよ? こっからまだペースが上がるのかよ?

やばいやばい、このペースについてかないといけないのか!? あ、足が持たない……。

飛び出したのは計5人。取り残されたのは俺を含め4人。ま、前のメンバーについていかないと決勝に進出できないってのに!


「ヤス! この400! 70秒! 全力でついてけ!」


やっぱり、俺のペースが落ちてるわけじゃないのか。周りが一気に上がっただけなのか……け、けど。こ、このペースについていくなんて無理だろ!?

すでに先頭集団からは15mくらい離されている。と、とにかくがむしゃらに走るしかない。


「ヤス兄、ファイトー!」


サツキの懸命の応援にも答えることができずに、どんどんと先頭グループからは離されていく俺。

はっはっはっはっ…………はぁ……はぁ……。


ぜ、全然追いつけない。なんだかあきらめの気分になってきてしまった。

気持ちが切れそうになった瞬間、ユッチの叫び声が聞こえてきた。


「ヤスう! 負けるなあ! 最後の最後まであきらめるなあ!」


……そ、そうだよな……頑張らないとな……さ、最後の最後まで。

ラスト100m。飛び出した5人とはかなり距離が離れてしまい、もう追いつくことは出来なさそうだけど、残り4人の集団の中でトップになれば、もしかするとタイムで決勝進出できるかもしれない。

腕をがむしゃらに振って、とにかく前へ前へと走る。俺を含む残り4人は、完全に横1列になって走る。


1人、前にぬきんでた。あいつより前に出なければ、決勝進出の可能性がぐんと下がってしまう。

前へ前へ。一歩でも前に、前に……はぁ……はぁ……ま、負けたくない……。

抜けた人と、また俺は横に並んだ。


「ヤス兄! 負けるなー!」








……はっはっはっはっ……う、動けねえ。まさに精も根も尽き果てたという感じだ。

ど、どうだったんだ? ち、着順は? ……ほぼ同時にゴールしてて、争っていた人に勝てたのか負けたのかさっぱりわからなかった。


「ヤス兄、お疲れー」


「ヤスう、お疲れえ」


「し、しばらく……は……話しかけないで……ば、ばてばて……」


こ、声を出すのがつらい……。


「ヤス、お疲れ」


だ、だから声をかけないでというのに。ポンポコさん、人の話を聞いてくれよ。


「黙っていていいから、ヤスのタイムだけ言うぞ。4分20秒54。着順は7位。1周目が68秒、2周目が70秒、3周目が70秒、ラスト300が52秒。残念ながら最後の争いでは、負けてしまったようだ。タイムは相手が4分20秒51。ほとんど差はなかったのだが、残念だった」


「はあ……はあ……そっすか……」


そっかあ……負けちゃったかあ……。


「もしかすると、他の組がスローペースで展開されれば、決勝に進めるかもしれん。次のレースもしっかり見ておけよ」


ら、ラジャっす。







……結局、残念ながら、他のレースで自分よりいいタイムを出した選手がいたために、決勝に進むことは出来なかった。総合順位は23位という結果。

初めてにしてはそこそこのいいタイムだと思ったけど、決勝に行けなかったのは残念だ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ