42話:インターハイ地区予選、応援
次は、1500mの予選がある。
この種目には、3年の先輩が2人と、2年の先輩が1人出場だ。
マルちゃんとノンキが付き添って応援してる。1500mは、他の学校の人もたくさん付き添いで、スタート地点まできてるみたいだ。
陸上の大会ってあんな風に、スタート地点まで応援に来ていいみだい。
俺は他の部員と、応援席での応援だけど。
競技開始時間になり、選手がスタート地点に並ぶ。1組目には先輩が1人走る。
「位置について」
バン!
一斉にスタートした。内側にいる人たちが速い。1500mは一気に20人くらいが走るから、人ごみの中に入らないようにしているのかもしれない。
先輩はと………大体中盤後ろの方に位置してるな。15位から16位くらい。なんだか人に囲まれて、めちゃくちゃ走りにくそうだ。
そのままの状態で、1周目を通過した。その場所で、マルちゃんとノンキが精一杯の声を張り上げて応援している。
あ、集団から抜け出た。周りを押しのけて前に出ようとしてる。
……集団の先頭に立ったな。さっきまでよりも走りやすそうだ。
少し集団のスピードが上がり、それについて行けない人たちは、だんだんと遅れはじめていった。
そのまま集団の先頭に立ったまま、2周目を通過した。この時点で、集団の人数は先輩を含め5人。
現在6位。すでに5位との差は大きく、これ以上の順位アップはのぞめそうにない。
このまま行ってくれれば……。
残り500m、1000mを走った時点で、後ろにいた4人の集団が動き出した。
先輩の前にどんどんと出始めたのだ。
これはやばい!このままだと集団全員に抜かれるぞ!
残り400m、1周になった時点で、集団のスピードがさらに上がった。
この時点で先輩は集団の一番後ろ。現在は10位だ。
先輩は、そのスピードアップについていけず、一気に離されていった。
しかも、一気に離された事がショックだったのか、前半とばしすぎたのかは分からないが、ここに来てスピードがダウンしてしまう。
後続の1人が、どんどんと追い上げてきている。後続がこのままのスピードで行けば先輩は追いつかれそうだ。
そのスピードだと、ラストに追い抜かれる!!
俺も声を上げた。最後、抜かれて悔しい思いをして欲しくないから。
残り100mついに並んだ。
ラストは先輩はフォームも崩れ、ただがむしゃらに走っている感じだった。
腕の振りも、縦に振るのではなく、抜かれまいと大きく横に振って、相手が前に出ないように走っている。
けど、勢いが違った。100mから20mほど走った時点で、先輩の隣を走っていた人は、すっと前に出てそのまま先輩を置いていってしまった。
先輩は、ゴールした。結果は11位。4分29秒03。
1位でゴールした人は、4分13秒34だったので、先輩より16秒も速くゴールした事になる。しかも、最後1位の人は、もうこれは決勝に行けそうだと、スピードを緩めてゴールしてた。
先頭の人はどれくらいのタイムで走っちゃうんだろう。
2組目と4組目にも先輩がそれぞれ出場したが、結果は12位、16位と振るわず、結局1500mは全選手が予選敗退と言う結果に終わった。
いや、地区レベルでも俺の高校とは実力差がすごいな。
次にあるのは男子110mハードル、女子100mハードルの予選。それぞれ1人ずつの出場だ。
「ユッチ、なんでこの種目は1人だけの出場なん?」
こう言う時は、陸上大好きっ子のユッチに聞くのが一番ですな。
「ボクは歩く陸上事典なの!?ボクに聞けば何でもでてくると思ってる!?」
「うん、実際何でも知ってるじゃん、歩く陸上事典っていう言い方いいな。ユッチの事これからそう呼ぼうか?」
「やめろお!ユッチって普通に呼んでよ……もう、ハードルは跳ぶ技術が必要だからだよ。ハードリング技術って言うんだけど、聞いた事ある?」
「ない」
ってかやっぱり知ってるんだ?さすが歩く陸上事典。
「ちょっとは考えようよ……。中学校の体育の時間でも言ってる先生いるよ?で、その跳ぶ技術なんだけど、結構覚えるのが難しいんだよね。教科書通りの言葉なら、本見れば言えるけど、やっぱり細かい部分は分からないし。ちゃんとした指導者がいればいいけど、ウララ先生があんまり詳しくないみたいだから。出場してる先輩たちは中学校の時からハードルやってる人たちだよ」
「へえ、じゃあこの高校からハードルやるの無理なん?」
「んー、無理じゃないと思うよ。講習会に行ったり、別の高校と合同練習したり色々学ぶ方法はあるよ。後は、ひたすら反復練習かな。アオちゃんは向いてる気がするし……でも、ボクにはハードルは無理だねえ」
「ん、なんで?」
「あー、その……背がね………」
「そっか、ちびっ子か!チビだと出来ないのか!?」
確かに、140cm前半っぽいこいつにはハードル越えるの難しそうだ。逆にアオちゃんは結構大きいし、足も長い……いや、アオちゃんの足を観察した訳じゃないぞ!?
「チビっていうなあ!全国のちびっ子陸上部員に謝れ!!チビだって一生懸命走ってるんだあ!跳べないチビはただのチビって言いたいのかあ!?」
「最後の訳分かんねえよ!!名セリフをパクるな!!」
「いいの、ファンだから」
お、お前もファンか。俺もだ。
っと、先輩がそろそろ走る頃だ。
まずは、男子の先輩だ。3組目で、4レーンを走る。先輩のフォームは綺麗だった。跳んだ後、選手の一部は、スピードが落ちる。いかにしてそのロスを無くすかが、ハードルを跳ぶ技術らしいのだけど、ほとんど落ちてないように見える。
ただ、ラストになって少し減速してきた。最後のレーンを越えた後、スピードが落ち、5、6レーンの人に抜かれてしまった。
結果は3位。タイムは16秒38だ。110mという中途半端な距離のせいで、いまいちタイムがどのくらいすごいのか分かりにくい。
4組走り、1着は必ず決勝に行けて、残りはタイムのいい人4人が決勝に進む事が出来る。
「先輩のタイムは1着をのぞいて現在3番目。行けるか行けんかは微妙な所だ」
ポンポコさん、教えてくれてありがとう。
ラストの組がスタートした。
…………ゴール。上位3人がほぼ同時にゴールしたように見えた。トップの人が16秒27と表示されていたから、残り2人もそれぐらいだろう。
…………結果がでた。2位が、16秒32。3位が16秒36。
わずかコンマ0.02秒の差で決勝には出場できなかったか。
残念がっている1年生達に、ユッチが声をかける。
「今回の成績だと、全体で9位だったから県大会に出場できる。まだ、先輩には県大会があるよ、それをもっと喜ばなきゃ!それより、次の100mハードルの応援をしようよ!」
うん、たまにはいい事言うね、ユッチ。
次の女子の先輩は、16秒21を出して組の中で2位。2位以下の選手ではタイムが1位だったので、決勝進出だ。ついでに県大会にも出場決定。
これで、県大会出場者は2人になったんだな。
うむうむ、喜ばしい事だ。