419話:試合前、最後の追い込み
今日は5月6日。ゴールデンウィーク最終日。ゴールデンウィークだというのに、毎日毎日部活にいそしんでいる。
ゴールデンウィークは1日くらい日帰りで、ちょっぴり旅行に行きたいという気持ちもあったけれど、ポンポコさんいわく、試合直前に旅行に出かけたりすると、調子が全く戻ってこないそうだ。まあ、しょうがないな。
「ヤス、今日が練習できる最後の追い込みだと思え」
「……そうっすか」
「そうっすかじゃない。やる気はあるのか?」
「ぼちぼちでんなあ」
「もっとしゃきっとしろ、ヤス。そんなことでは県大会出場は夢のまた夢だぞ」
「……了解っす……」
「ヤス、本当に元気がないな、もっと元気を出さぬか」
……出せないっすよ。これだけ延々と私生活を監視されたりしたら。
昨日、ポンポコさんが監視宣言をしたとき冗談だと思ってたのに、本当に隣で延々と監視されるとは思わなかった。正直食べるものまで口をだされたときにゃ、真面目に怒りそうになったなあ。昨日の料理はナスとがんもの煮物に、卯の花、それとサワラ。健康的ですっごくおいしいのに、『もっとスタミナのつく食べ物を食べろ』だとか、『炭水化物の摂取が足りない』とか、ひたすらぶつぶつと文句を言われた。
本気で勘弁して欲しい……食事中ぐらい楽しく過ごしたいんだけど……俺は囚人じゃねえよ。
「5月10日がヤスにとって目指す目標だ。その日までは一所懸命頑張れ」
「……了解っす」
まあ、自分に尽力してもらっていると思えば、なんとか耐えられる。うん、そうだよな、俺のためを思ってやってくれてるんだ。だから少しぐらいやりすぎたって俺は耐えられる。
「それでだ、今日のメニューは4000×4で行こう」
「無理! 俺は耐えられない!」
前言撤回! 耐えられると思ったけれど、そんな仕打ちには耐えられない!
「ふむ……最後の追い込みくらいでしかこのぐらいきついメニューは出来ないのだが……どうしても嫌か?」
「む……む、む」
ず、ずるいっすポンポコさん、そんな期待と諦めとが入り混じった悲しそうなすがるような目は反則だと思うっす。
そ、そんな目をしたら無理だといいたいけれど、無理だといえないじゃないっすか。
「や、やるっす。4000×4、頑張るっす」
「うむうむ、それでこそヤスだな。それでは今日も頑張ろう、ヤス」
……なんかいきなり顔が変わった、『してやったり!』みたいな顔をされた。
「なあポンポコさん、まさかとは思うけど……さっきの顔は演技ではないよな?」
「む? 何の話だ?」
……演技じゃない……きっとあれは演技じゃない。
ある程度アップをして、本練習開始。今日は1年生は一緒には練習せず、それぞれ1時間ずつジョグをして終わるよう伝えてある。
なので、俺1人での練習になる……これから4000メートルを4本かあ……気が重いなあ。
「それではヤス、準備はいいか?」
「あんまりよくないけど、オッケーっす」
「……もう少し歯切れのいい返事を聞きたいものだな、それでは4000メートル1本目、行くぞ! ヨーイ!」
パン!
ポンポコさんの合図とともに、400メートルトラックを走りだす俺。4本もあると思うと、最初の入りはちょっと抑えて、後半に向けたいと思ってしまう。
そんな気分で走りながら、200メートル通過……200メートルのラップは、47秒……まずっ、めっちゃおそっ!
「ヤス! やる気があるのか!? もっとスピードを上げろ!」
トラックの反対方向からポンポコさんが声を張り上げて俺に怒鳴る。うあっ、ポンポコさん、めっちゃ怒ってるっす。
「そんなペースならば、4000メートル5本に増やすぞ! もっとシャキっと走らぬか!」
すんませんポンポコさん、さすがに4000メートル5本は勘弁です。今から頑張って走るんで、温情をください。
200メートルの結果を見て慌ててペースを上げる俺、途端に自分に吹く風が強くなる。
「400メートル、89秒! まだまだペースは遅い! ヤスならもっとペースをあげられるだろう!?」
ポンポコさんから俺へ叱責が飛ぶ。自分でも、1本目ならもっといいペースが出るとは思うのだけど、いかんせん最初の200メートルがあまりに遅かった。
……くそっ、ゆっくりしたペースで入ってしまうと、後々あげるのがかなりきつい。試合でも、スローペースで入ってしまった時点で絶対に勝てないな。
自分みたいに実力がない人間が上位に食い込んで行こうと思うなら、最初からがんがん飛ばしていかないと。
……はぁ、はぁ……なんで息が切れてるんだ自分。いつもならこれぐらいのペースなら、ばてないはずなのに……スローペースからペースをあげると、速くないのに速いと感じてしまう……。
「ヤス! もっとペースをあげろ! 今日は最後の追い込みだ! 後先を考えるな!」
分かってるっす、分かってるっすよポンポコさん。分かってるんだけど中々ペースがあがらないんすよ……。
「……ぜぇ……はぁ……」
「ヤス、お疲れ。1本目、前半はボロボロだったが、後半になってからそこそこのタイムで走れていた。後半のペースでは知れれば、運がよければ県大会にいけるかもしれん」
ま、まあこの実力じゃ、運がないとやっぱり県にはいけないよな。
「5分の間を取って、2本目に行こう、ここからが追い込みだからな」
「5、5分っすか? せめて10分くらい……」
「ダメだ、間を空けすぎると走る気がなくなるだろう? 今から5分後、2本目開始だ、完全に体を止めるのではなく、ジョグかウォーキングか、どちらかをしておくように」
……お、鬼だよこの人。ほんとにポンポコさんについていったら、まじしんどいっすよ。
その後、なんとかかんとか、ポンポコさんに怒鳴られつつも4本こなした。
……しんどいっす……いくら本命ではないとはいえ、明後日には一応1500メートルがあるんだけど……こんなにばててて、試合は大丈夫なんだろうか。
こんばんは、ルーバランです。
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