415話:空回り
ユッチと2人で家に帰ってきたその夜の食事中。
「……」
ホカホカと湯気がでていて、出来立てアツアツで美味しそうなマカロニグラタンが食卓に並んでいる。
「……」
けれど、そんなアツアツな料理に対して、とても冷えきっている食卓の空気。
「ヤスう、このグラタン、すっごいおいしいねえ」
ただ1人、ユッチだけが空気を察しないまま、うまそうにパクパクとグラタンを頬張っている。
「……あ、ああ。喜んでもらえてなによりっす。サツキとアヤはどう? うまいか?」
「……」
「……」
カチャカチャとスプーンが皿に当たる音だけが響く。2人揃ってただ黙々と食べてるだけ……。き、きまずいっす。
「き、今日のマカロニグラタンは結構な自信作なんだぞ。このチーズのとろけ具合が口一杯に広がって、まるでスイスにあるアルプスで飼ってるヤギのしぼりたての乳を飲んだみたいな気分になるぞ」
「ヤスう、その例え、ものすごおく分かりにくいよお?」
そ、そうか。ええと、じゃあどう言えばいいんだろう?
ひとまず一口パクッと食べて、もぐもぐと咀嚼して……ふむ、これならどうだ。
「ボリュームを感じさせるにもかかわらず、やや丸みを帯びたクリーミーさと、香ばしさを伴う甘みが口の中を圧倒する。味わいに勢いがあり、鼻に抜けていく香りも伴ってバランスがすばらしい。口の中でずっとずっと余韻が心地よく続く、グラタンという西洋料理の中でも、日本の家庭的な空気をかもし出し、家庭円満を願った真心が込められている。惜しむらくは、味にもう一品スパイスが含まれればよりよいと思われる……それは、団欒という名のスパイスだ」
「……」
「……」
あ、あれ? めっちゃ外した? 俺が料理を食べた感想を述べても、反応せずただ黙々と食べるサツキとアヤ。
「ヤスう、もっと意味不明になってたよお?」
そ、そうなのか? ワインを飲んでいるソムリエが言っている言葉を上手く混ぜ込んでコメントしただけのつもりなのに。
やっぱり自分の言葉で言わないとダメなんだな。そうなんだな。
「このチーズのとろけ具合が上手にマカロニに絡み合って、他の具材の鳥モモ肉、マッシュルーム、玉ねぎからも旨味がたっぷり引き出されて、他に入れたブロッコリー、ニンジンといった野菜がグラタンをカラフルにして見た目も鮮やかで……とってもおいしいです。サツキ、アヤ、どうどう? おいしそうに聞こえた? 実際すごくおいしいんだけどさ」
「……」
「……」
「ええとな……サツキ、アヤ、ごめんなさい」
「ヤスう、今何を謝ったんだあ?」
「よくわからないっす。けど、なにかきっと自分がやらかしたからサツキとアヤは怒ってるのかなあ……と思って。謝ってから考えればいいかと思ったんだけど、間違いだったかな?」
「うっわあ、意味も分からないまんま謝っちゃダメだろお」
そ、そうなんだけどね。サツキとアヤがこれだけ無言な事って中々無いんすよ。これは俺が何かやらかしたのかなあって思うじゃん。だ、だから、なにか謝らなければならない気がしたんすよ。
「マッカロニマッカロニマッカロニグラタン♪ んん、このマカロニの穴から中に入ってるクリームをチューッと吸うのがまたおいしいんだあ」
ユッチ、その食べ方はめっちゃ行儀が悪いと思うぞ。だからやめとけ。
「あ、ユッチ。ほっぺたにクリームがとんでるぞ」
「あ、ええ? どっちどっち?」
「今拭いたるから動くなよー…………うい、とれたとれた」
「えへへえ、ヤス、ありがとねえ」
いえいえ、どういたしまして。
「……おにいちゃん、ごちそうさまでした」
……へ? ア、アヤ?
まだ食事開始して10分もたってないんだけど。
「お、おいアヤ、まだめっちゃグラタン残ってるじゃん。そんなに口に合わなかったか?」
「そんなことないよ、ごちそうさま」
……そう返事をすると、パタパタと2階に上がってくアヤ。
「あーあ、ヤス兄ってば泣かせちゃってー。この女たらしー」
……たらした覚えはないぞ。
「もっとヤス兄はアヤを大事にしてあげなきゃダメだよ? フィリピンから単身でこっちに来てるんだよ。心細いに決まってるでしょ」
や、まあそれは確かにそうなんだけど。俺、アヤを大事にしてないかな?
「それなのにさー、ヤス兄ってばユッチ先輩とデートしてきた挙句、お持ち帰りまでしちゃってさー、そりゃ怒るよねー」
お持ち帰りって……俺はそんなことしてない。
「ね、ねえ、サツキちゃん。ボク、何か悪いことしちゃったのかなあ?」
「大丈夫ですよ。家族の問題なので、気にしないでください」
「う……うん……分かったあ」
ああうあ、ユッチまで暗くなっちゃって。みんなを明るくさせようと色々やったのに全部逆効果……ダメダメだあ、俺。
こんばんは、ルーバランです。
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