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413話:ふてくされ

今日は4月28日、火曜日。

昨日、マイルでメンバーから外されてから、ずっとずっとユッチの機嫌が悪い。

朝なんてこんな感じ。


「おっはよー、ユッチ」


「……」


無視ですよ奥さん。俺はどうすればいいんですか。

休憩時間の間も何かと声をかけてみてるんだけど……。


「ユッチ、今日はいい天気だねー」


「別にい……」


「ユッチユッチ、今日俺さー、弁当でサーモンフライ作って来たんだ。結構な自信作。今日のユッチの昼ごはんは何?」


「別にい……」


「さっきの先生うざかったなー。延々とお経みたいに教科書読んでさー。ってかさ、教科書読むだけだったら小学生でも出来るじゃん。あれでよく給料もらえるよなー」


「別にい……」


「ユッチ、将来の夢ってお嫁さんだったっけ。ユッチの夫になれるやつって幸せだよなあ。一途だし、適度に嫉妬しそうだし、なによりめっちゃ料理上手いし」


「別にい……」


「ユッチ、こんなCM知ってるか? 『こんぶこんぶこんぶつーゆ、私から気持ちが離れちゃっても、白だしでもう一品、私の料理からは離れられないぞ。やーまさ』」


「別にい……」


「ユッチは白だしなくたって、料理うまいんだもんね、もう、夫は浮気しようがないね」


「別にい……」


「沢尻か!」


「別にい……」


ううう、心がくじけそう。元気になってほしいのに、なかなかいつもみたいなユッチになってくれない。

やっぱり一番頑張ってたユッチがリレーメンバーから外されるって言うのは納得できないところも多少はあるけれど、


「なあナベリン、ここまでどうでもよさそうな返事をされると、俺は何でこんなに頑張ってユッチを励まさなきゃけないのかちょっと悩んでしまうんだけど」


「どうでもよい話だからどうでもいい返事をされるんじゃないの?」


……そうかあ……俺の話ってそんなにどうでもいいのかあ……。


「どうでもよくない話って……例えば俺の話だとさ、どんな話がどうでもよくなるんだ?」


「ヤスの話は全部どうでもいい」


……もう……本気でくじけそう。ナベリンって毒舌やね。


「……も、もう今までの話が全部どうでもよかったって事でいいっすよ。んでさ、どういう話をすれば話聞いてくれるかなあ」


「私に聞いたって分かるわけないじゃん。ヤスはユッチがふてくされた理由知ってるんでしょ? ちょっとぐらい愚痴でも聞いてあげれば? 女はそれで十分なんよ」


……そんなもんなんかね。まあ、同じ女が言ったセリフだし……信用するか。


「けど、口すら聞いてもらえないような状態なんだけど」


「それぐらい自分で考えなよ。いつまでもMなままじゃもてないぞ」


ナベリンには言われたくねえよと言いたくなったけど、今はナベリンと言い争うよりもユッチをどうにか励まさないとな。










「ユッチー、ちょっといいかい」


「よくなあい……」


「まあまあ、そう言わずにさ」


そう言ってユッチの前の席に座る俺。俺が前に座ったのを見ると、顔を背けて俺の方を見ないようにするユッチ。


「ボク、今誰とも話したくない気分なんだからあ! どっか行っててよお!」


「俺がユッチとすごい話したい気分なんだから話しさせてよ」


「ふん、どうせボクを笑ってるんでしょ。それで家でサツキちゃんとお祝いしてるんでしょ。いつだってヤスはサツキちゃんの味方だしねえ」


してねえよ。そこまで俺もサツキも悪者にはなれねえよ。


「まださ、ユッチは4継出れるんだしさ」


「そうだけどお! でも、でもお! マイルにも出たかったんだあ!」


……そうなんか。


「……ユッチの気持ちは分かるよ。誰が認めなくても俺は認めるぞ。ユッチがうちの高校で一番頑張ってたって。そんなユッチがメンバーから外されるってやるせないよなあ」


「もお! うるさいなあ! だからどうしたんだあ! ヤスに認められたって全然嬉しくないんだからあ! だいたいリレーを走ったこともないヤスにボクの気持ちなんか分かるもんかあ!」


「分かるよ……俺、野球部ではずっとずっと補欠だったし。同じか、それ以上の練習してるのに、もっと練習してない人が試合に出て、ただただ指をくわえて見てるだけってなんなんだろうなってよく思ったよ」


「だったらほっとけよお! どうせボクなんか……どれだけ牛乳飲んでも背は大きくならないし、どれだけ走っても足速くならないし、どれだけ勉強したって馬鹿なまんまだし……ボクなんかそういうやつなんだあ……」


「……」


「いつだってそうだもん、小学校の時だって、中学校の時だって、そんなことの繰り返しだもん。逆上がりの練習してても、ボクだけクラスで1人だけ出来ないままで、クラスメイトに馬鹿にされるし、運動会で側転の練習してたときだって、他の人はあっさり出来るのに、ボクだけいつまでたっても側転できなかったしさあ。どうせどうせボクなんか……そんなことの繰り返しなんだあ……」


お前のクラスメイトみたいに、一気に階段を駆け上がれる人もいれば、ユッチみたいに一歩一歩しか上がれない人もいるって。


「ボクなんか……ボクなんか……ヤスのばかあ……うううう……」


…………机に覆いかぶさって、声を押し殺して泣き始めるユッチ。

よっぽどでたかったんだなあ……。まあ、今は思いっきり泣いて、悪いもの全部吐き出してしまえ。そうしたら、元気になれるぞ。

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カカの天下
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