410話:ただいま練習中
今日は4月23日木曜日。ただいま練習中。後輩ができて初めて知ったのだが、他の人を見ながら練習をするのってかなりめんどくさい。
だが、こいつらのレベルが上がらないと、いつまでたっても俺に練習相手が出来ないので頑張って指導する。
「ナベ、諦めんなー、頑張って走れー」
タッタッと走りながら、周回遅れになったナベに声をかける。明らかにやめようとしていたので、励ましてみた。
「む、無理っすよ……」
「おーし、話せるならまだ大丈夫だー。もう少し走れー。人間限界を超えないと強くなれないぞー」
「お……鬼……」
誰が鬼だ誰が。ポンポコさんの方がよっぽど鬼だ。俺を鬼というのならポンポコさんなんて鬼神になってしまうぞ。大体まだ15分も走っていないぞ。それでばててどうするんだよ。
そのままナベを追い越して走り続けていると、目の前には既にダウンして地面にへたり込んでいるアヤの姿が。
「アヤー。走れないのならせめて歩けー。座り込んでたらダメだぞ」
「おにいちゃん……無理だよー」
「頑張って歩いたら帰りにハロハロ買ってやるからファイトー」
「ハロハロのためにヘロヘロになっちゃうよー」
……ええと……なんて返事すればいいんだか。
「とにかく歩けー。歩ききったらなんか言うこと1個聞くから」
「……約束だよー……おにいちゃん」
今にも死にそうな顔をしながらノロノロと立ち上がり、ヨロヨロと歩き出すアヤ。ほんとに今にも倒れそう……。
……ううむ、比較すんのはかわいそうだけど、アヤってシイコとエリとではかなり身体能力に差があるよなあ……もうちょいアヤに近いレベルのやつがいたら、互いに切磋琢磨しあってレベルアップできるようになるんだけどなあ。
チラッと後ろを見ると、付いてきているシイコとエリの姿。ついでにカケルもちょっと後ろにポジションを取って付いてきている。
「どうしたっすか? ヤス先輩」
エリはまだまだ余裕そうだ。ただエリの場合、余裕そうな顔をしているだけでいきなりぶっ倒れるので、見ているほうは心配。
そう言えば、いつの間にやらエリの方は俺に変態とも言わなくなったし、きちんとヤス先輩って言ってくれるようになった。なんだかちょっと嬉しい。
「はっ……はっ……な……なによ……この変……はっ……」
対するシイコはかなりギリギリなようだが、このシイコというやつは苦しそうになってからが強い。1キロも走らないうちに息が切れ始めるけれど、正直いつまでも倒れないと言うプレッシャーはかなりのものになるんじゃないかと思う。
「…………」
いつでもどこでも影の存在のカケル。後ろを振り返るといつの間にか脱落している。けど、今のところは1年生の中では一番強い。
「…………」
まあいいや。声をかけなくても。
「……上から……目線で……はっ……見んな……このへんた……」
別に上から目線でなんて見てねえよ。それよりもいい加減変態っていうな。
「今15分。後45分、頑張っていこー!」
「了解っす!」
……返事をするのはエリだけかー……。
「はぁ……はぁ……」
「カケル、お疲れー」
「どうも、ありがとうございます」
多少息は切れているけれど、まだまだ余裕そうにしているカケル。
……ちょっとペースを落としすぎたかなあ。ついていけるようにペースを作ったつもりなんだけど、もっとギリギリでついてこさせるつもりだったのに。
ううん……明日はもうちょっとペースを上げてやってみよう。
「……はっ……はっ……」
「エリ、お疲れー」
女子は45分でいいといっているのに60分走ったエリ。エリは途中30分くらいまではついてきた。
シイコも60分走ろうとしてたけど、途中でダウンしてそこから先は歩いている。この双子、やっぱり根性あるなー。
「……何で、そんな、涼しい、顔してるっすか……ヤス、先輩」
「いや、1年生のためにペース落としてるし」
「……な、なんか悔しいっす……なめられてるっす」
「いや、1年間練習した俺とお前らとレベルが一緒だったらそれこそもんのすごく悔しいんだが」
「それでも悔しいもんは悔しいっす」
……負けん気が強いなー……それに引き換え……。
「アヤ、ナベ……脱落速すぎだろ」
「そんなことないよー。ちゃんと60分間歩ききったもん。約束守ったもん」
「まあ、そやね……お疲れっす、アヤ」
歩くペースはゆっくりだったけど、とにかく歩いたんだもんな。
「明日は今日よりちょっとだけ頑張ろうな、アヤ」
そうしないと、シイコとエリにどんどんは離されていくよ。
「はーい!」
……分かってるよな、大丈夫だよな、アヤ。
「それよりおにいちゃんも忘れてないよね、私の言うこと1個聞いてねー」
「へーい、了解っす。出来ることだけな」
「うんうん、何にするか頑張って考えるよー。楽しみにしててね」
……頑張るところはそこじゃないぞ、アヤ。
「んじゃ、ダウンに行くぞー!」
『はいっ!』
うむうむ、俺も徐々に板についてきたんではないか?
けど……何かを忘れているような……。
「……私を置いていきやがって……覚えてなさい」
シイコの地獄からの怨念のような声がかすかに耳に届いた……そう言えば集合場所にいなかったなあ……聞こえなかったことにしよう……。
こんばんは、ルーバランです。
中学の頃、普段の練習は強い人にあわせた練習をしていましたが、駅伝練習の時は、底上げをはからないと勝てないので、弱い人に合わせた練習になりました。
それでは、今後ともよろしくです。