401話:レッツ、初練習
陸上部に体験入部を希望してきた8人の1年生が思い思いのTシャツ、ハーフパンツの格好で俺の前に。まずは自己紹介。
「こんちはっす、俺のこと何人か知ってる人も思うけど、近藤康明、通称ヤス、よろしくっす。専門種目は5000メートル。まだ陸上を始めて1年しかたってない、新人さんです。よろしく」
「私は通称ポンポコ。陸上部のマネージャーを務めている。最初は短距離のマネージャーをしていたが、最近はもっぱらヤスの指導をしている。よろしく」
本名言わないんすね、ポンポコさん。
「体験入部で何をしようか考えていたのだが、サツキと経験者の小川夕子、三石今日子、鈴木里佳子の4人は本練習に参加してもらおうと思う。実力が分かるしな」
「あれ? サツキって経験者っすか?」
疑問に思ったのか、オカ妹がサツキに尋ねる。
「半年間ヤス兄と一緒に練習してたからねー。経験者にもひけを取らない程度の実力はつけたかなって思うよ。今度のインターハイ地区予選も先生に頼んで出場させてもらうつもり」
「そうだったっすか。私も半年前から練習に参加したかったっす。羨ましいっす」
「半年くらいの差ならきちんと練習さえすればすぐに追いつける、気にするな。先ほどの続きだが、残りのオカ姉妹、近藤彩、渡辺弘の4人はヤスと一緒に軽くジョグしてもらおうと思う。とりあえず近藤彩と渡辺弘の2人は完走を目標に」
「はーい」
元気よく返事をするアヤ。
「ヤスは4人にいつものアップを行ってから、練習を開始してくれ。1年生のうち近藤彩と渡辺弘は5キロ、オカ姉妹は7キロ、ヤスは15キロをやること」
「ちょっとまてい! 何で俺だけそんなに距離が多いんだよ!?」
「1年生と同じ量をやっても練習にならないだろう? いつもどおりの練習をしなければ意味がないではないか」
……そりゃそうなんだけどさ。くそう、今日は軽く練習して終われると思ったのに。
俺とオカ姉妹、アヤ、渡辺弘を残してポンポコさんたちは短距離の練習に参加していった……なんやらポンポコさんにすごく押し付けられた気分っす。
「ほら、そこの変態先輩。ボケッと突っ立ってないで何すればいいか教えてよ」
「そうっすそうっす」
……お前らなあ。一応、尊敬されるようなことは何もしてないけど、一応先輩なんだから少しくらい敬ってくれよ。シイコにいたってはタメ口になってるし。お前らホントにあのきっつい上下関係があったあの中学のテニス部出身かよ。
「まあいいや。それじゃ練習を始めようと思います。最初は軽く2キロくらいジョギングして、その後体操、ストレッチ、流しをした後本練習に入るから。アヤとナベはついてこれるところまで頑張ってくれ」
「はーい!」
「オカ姉妹も高校に入って最初の練習だから、無理せずにな」
「ふん、変態先輩にできるくらいの練習くらい軽くこなしてやるわよ」
「その通りっす。ついでにオカ姉妹って言うのやめろっす。何度言えば分かるっすか」
……俺ってオカ姉妹に何かしたっけ。1回か2回くらいしか会ったことないのに、ここまでブチブチ言われる筋合いはないと思うんやけど。
「そこのシイタケとエリンギ。ええ加減俺を変態って言うのやめてくれ。俺は変態じゃないし。普通だし。一般人だし」
「エリンギって何っすか!? 私はきのこじゃないっす! 変な名前で呼ぶなっす!」
「オカ妹って呼ばれるのも嫌で、オカエリって呼ばれるのも嫌で、エリって呼ばれるのも嫌なんだったら何かあだ名を考えなきゃダメだろ? というわけでシイタケとエリンギで」
うむうむ、ナイスネーミングではないか? シイタケとエリンギ。我ながら上手くあだ名をつけることが出来たと思う。2人のおかっぱ頭をマジマジと見つめれば、きのこっぽく見えなくもないし。
「おにいちゃん、そのあだ名はないよー。アタシに子供が出来た時に変な名前つけないでよー?」
そうか……変なあだ名だったか? 自信あったのに。その後に言っていたアヤの変な言葉は聞かなかったことにしておこう。
「シイタケとエリンギが嫌だったらオカ1号、オカ2号でもいいぞ」
「1号2号って言うなっす! 私は2号じゃないっす!」
本人には不評のようだけど……エリンギ、2号って呼ばれてたことがあるんだろうか?
「それじゃお前のこれからのあだ名は『エリンギ』でいいか?」
「よくないっす! シイコ姉はシイタケでいいっすけど、私はもっと違う名前がいいっす! もっとかわいいあだ名をつけるっす!」
「ちょっと! 何で私はシイタケでいいのよ!?」
「シイコ姉の『シイ』は椎茸だからいいんす」
……ふむふむ。シイコのシイは椎茸のシイ……だからどうした。
「嫌に決まってるでしょ!? 変態先輩、絶対にシイタケなんてあだ名で呼ばないでよね!」
じゃあお前も変態先輩と俺を呼ぶのはやめてくれ。
結局2人は普通にシイコとエリと呼ぶことに決定。シイタケとエリンギの方が俺はお気に入りだったのに、かなり残念。
そんな無駄な雑談もそこそこに、アップを行い、今から本練習開始。
「適当なペースで走るから、速いようだったら言ってくれ」
「ふん、絶対についていけるに決まってるでしょ」
……シイコめ。そのセリフがいつまで続くか見ものだな。
ストップウォッチを押して、のんびりと走る。大体1キロ6分くらいのペース。タッタッと後ろの足音を聞きながら、ペースをちょっとずつコントロールする。
「お、おにーちゃん……は、はやいよ……」
……アヤ、まだ1キロも走ってないぞ。いきなりそんなにもばててどうする?
けど、1キロも走れないままに終わってしまうのはなんだか寂しいので、アヤにペースをあわせながら、ゆっくりと走る。
「あ、た……おにー……」
「アヤー、声出さないで、息を整えろー。声を出すとばてるぞー」
「……はぁ……はぁ……」
「後ちょっとで1キロだから、とりあえずそこまで頑張れー」
「……はひぃ……」
あ、走るのやめちゃった。大体走ったところまでの距離を予測するとぎりぎり1キロくらいって所か……アヤ、これでやめたりしなきゃいいけど。
「変態先輩、ペース上げてよ。私もっと走れるよ」
「私もっす」
……シイコはいつ頃ヤスって言ってくれるようになるんかなあ……。
シイコとエリの要望に応えて、少しだけペースをあげる。ペースをあげても、後ろの足音はかわらずついてくる。
なんだか面白くなってきてもうちょっとペースをあげたいと思い、気持ちペースをあげる。
「ちょ、ヤス先輩……そんなにペースをあげないでください……」
「……ナベ、女子に負けんな」
「や、無理です……俺文化系なんで……」
文化系とか関係ないやろ。これから陸上部はいるんだから。
「自分で自分に言い訳しない。頑張れー」
「いやー……無理っす」
……そう言うと、走るのをやめる。ナベ……2キロしか走ってない。確かに俺はペースをあげたけど、ホントに気持ちペースをあげただけっすよ。1キロ5分30秒くらいっすよ。
「変態先輩、これから大変ね。あの2人をこれから指導していかなきゃダメなんでしょ?」
「ん……まあそだけど」
「私はしっかり鍛えられてるから大丈夫よ。手間いらずな2人姉妹」
……俺にとってはお前らもあいつらも同じくらい手がかかる気がしています。
「さ、変態先輩。邪魔者が消えたし、もっとペースあげてよ。私らこれくらい、いつも走ってたし。それともこれくらいのペースでしか走れないの?」
……本気でシイコって俺にケンカを売ってるよなー……。
「んじゃペースあげるけど、後で減らず口たたくなよ、シイコ」
「はっ、のぞむところ!」
……4キロくらいの地点でエリが、5キロの地点でシイコがダウンした。ちょっと腹が立っていたのでペースをあげすぎたかもしれない。その後、1人で15キロ走りきる。
後輩を育てていかないと、この練習もこれからもずっと1人でやることになるんだよなあ。しっかり育てよ。
俺が15キロ走り終わってダウンをしていたときに、シイコが何か言いたげな顔して俺によってきた。
「おーっす、シイコ、お疲れー。思ってた以上にやるじゃん。すごかったすごかった」
「この変態先輩……上から物を言っているのがなんだか腹立たしいわね」
だって年上だし。ちょっとくらい上から物を言ってもいいんじゃないかなと思うんだけど。
「いつか絶対練習中にあんたに勝って、ギャフンといわせてやるんだから……覚悟してなさい!」
女子が男子に勝つってかなり実力がないときついと思うんだが……分かってるんだろうか。
「頑張れーといいたいところだけど、女子は長距離部員、1人もいないぞ。そうするとシイコも短距離をやるだろ? 一緒に練習する機会はすごく少ないと思うんだが」
「……そんなの関係ない、私が最初の女子長距離部員になるから! 絶対にあんたに勝ってみせるんだから!」
はあ……まあ、頑張ってください。
ってか、何故にそこまで俺に敵対意識をもつんだろう? ……そういえば、去年のユッチも会ったときは敵対意識が強かったなあ……。