4話:回想〜苦い思い出〜
今まで主人公のヤスは高校生でしたが、この話から数話、回想として中学校時代に戻ります。
混乱してしまうかもしれませんが、ご了承ください。
中学校の時、俺とケンは野球部に所属していた。
ケンの兄貴が野球をやってて、小学校のときなんか俺もケンもケンの兄貴にキャッチボールしてもらったりしてた。野球部に入部したのはケンの兄貴の野球している姿に憧れて、だったな。
少しでもケンの兄貴みたいになりたかったので、野球部の練習とは別に、ケンの兄貴には練習をつけてもらっていた。監督は自分の目の届かない所で勝手に練習している事にいい顔してなかったけど、そう言う事とは関係なしに野球部の連中とは結構仲が良かったし、野球部での練習もまじめにやっていた。
このときはケン以外のやつとも普通にしゃべっていたんだよな。
俺もケンも、練習して守備はそこそこにできるようになった。でも、バッティングが上手くいかずいくら素振りをしてもなかなかボールに当たるようにならなかった。バッティングセンターでもたくさん練習したけど、野球部の中では下手だったな。
だから、俺とケンとで別の練習した。バントだ。
ケンの兄貴の指導のもと、ひたすら反復練習を繰り返した。
送りバント用のバントだけじゃなく、プッシュバントとか、セーフティバントとかいろいろ。
他の人より、バントにかけた時間は軽く倍は超すと思う。
バッティングは相変わらず下手だったが、バントはすごく上手くなった。
特にケンは持ち足の俊足を生かして、セーフティバントでの出塁ができるようになると、1番センターというポジションで使われるようになった。
俺も足は速くないけれども、送りバントがほぼ確実にできるようになると、ケンを確実に進塁させる為に、2番ライトというポジションで使ってもらえるようになった。
どちらも2年生の新人戦がすぎた後、残る公式戦は3年の中総体を残すのみというかなり遅いタイミングで、ようやく2人ともスタメンになることができた。
そして、中学最後の大会である中総体、地区予選、これに勝てば県大会出場が決定するという大事な試合。
序盤から接戦だった。
先攻は自分のチームだ。
自分のチームは1回、ケンのセーフティバントに、相手ピッチャーの隙をついた盗塁、俺の送りバントで、1アウト3塁のチャンスを作り、3番の選手が外野フライを打ってその間にタッチアップをして1点先取。いきなり先制点を取る事ができた。幸先がいいかと思っていたが、この1点を取った後、ケンのセーフティバントは警戒され、ケンは全く出塁する事が出来なくなり、3番4番5番を打つクリーンナップを打つ3年生達も、ヒットは時々出るが、そのヒット一本だけで止まってしまい、打線がつながらない。6番7番8番9番の下位打線に至っては完全に沈黙してしまっていた。
対する相手チームもこちらの投手を攻めあぐねていた。
こちらのピッチャーは速球で押すタイプ。ただし、コントロールはいまいちで、結構フォアボールを出している。初回から相手チームのバッターはバットに当てて入るが、どうしてもボールの下の部分を打ってしまうらしく、内野フライが量産されている。
しかし5回裏、相手チームの攻撃。2アウトながら自分のチームのピッチャーの2連続フォアボールで2アウトながら1塁2塁、そして次の打者の時、ワンバウンドボールをキャッチャーが後ろに逸らしてしまう。この間に、そして2アウト2、3塁の場面で相手チームの4番がバッターボックスにたっている。既に2アウトなので、バックホーム体制はとらず、内野はいつも通りのポジションにとる。外野は、2塁ランナーまでホームにかえって欲しくないので、かなり浅めに守っていた。
ここまでの4番の打席は、セカンドゴロにピッチャー返しのライナー。まだヒットは打っていないが、向こうのチームで唯一タイミングが合っているバッターである。
カウントはノーストライク2ボール。ここで、バッテリーは出来るだけストライクをとりたいと思ってしまった。
1塁が空いているので、次の5番で勝負してもよかったのだが、バッテリーとベンチの判断は勝負。そもそもこのバッテリーは勝負をさけた事はなかった。
ピッチャーが投げた、いつもより甘く入っていったストレート。相手バッターは見逃さず、コンパクトに振り抜いた。
ピッチャーの脇を越えてセンターへ抜けるタイムリーヒット。
3塁ランナーは悠々ホームイン。2塁にいたランナーも3塁を回って突っ込んでくる。相手のランナーもかなりの俊足のようで、3塁ベースをちゅうちょなく周り、ホームに向かう。
センターのケンはダッシュして前に突っ込み、出来るだけ浅い所でボールをとる。
中継がなくてもホームに直接ノーバウンドで勢いよく届きそうな距離までケンは走ってきていた。
走りの勢いをつけたまま、ホームに向かって投げる。
これ以上ない返球がきた。だが、タイミングはギリギリ。
キャッチャーとランナーが激しくぶつかりあう、クロスプレーになった。
判定を両チームがじっと待つ。
「セーフ!!」
主審であるアンパイヤが告げる。
「おっしゃあああああ!!!!」
ランナーが思いっきりガッツボーズをして吠えた。
相手チームはもう既に勝利を確信したかのような歓声だ。
たしかに、これで2対1で相手がリードしている。
だが、まだ終わった訳ではない。
この後、ピッチャーは後続を三振でしめ5回裏は終了した。
そして、そのまま両チームのエースが踏ん張り、お互いに点が入らないまま、ついに最終回になった。
表の攻撃で、俺たちが点を入れないとこのまま試合は終わってしまい、最終回裏には×がつく×ゲームとなってしまう。
「いいか、この回で絶対逆転するぞ! 相手はただの中学生だ! ましてやあのピッチャーはここまで一人で投げ抜いてきてる。競り合いの試合での疲れは相当な物だ! 絶対に打てるぞ!」
『おおおおっっ!!!!』
俺たちは円陣を組んで、監督から檄をうけとる。
俺たちの打順は9番から。9番はここまでノーヒットだ。
相手ピッチャーも疲れがたまり、さらに9番という事で油断したのか、今までで一番甘い球を放る。
9番はボールを叩き付け、1塁に走る。ショートとサードの間を抜けるかという位置にボールははねていく。
ショートがボールをとったが、送球する事が出来ず、内野安打でノーアウトランナ−1塁になる。
1回以来のノーアウトのランナー。
次は1番の俊足のケンだ。
「ケン、頑張れよっ!!」
2番バッターのおれはネクストバッターサークルに行き、ケンに声をかける。
「任されよ!! 見とけっ! ダイヤモンド1周してきてやるから!」
ケンは1回以来出塁していない。成功はしていないが、その後もケンはセーフティバントを狙い続けていた。それによって、向こうのチームもセーフティバントを警戒して、前進守備をとっている。
今もケンは送りバントの姿勢をしていて、相手チームはバントの警戒がすごい。
1球目バントしようとしたとたん、ファーストとサードの選手が普通に考えてありえないくらいのスピードで突っ込んできた。
ケンは慌ててバットを引く。
ストライク。
相手チームはケンにバントをさせない気だ。今までヒッティングを全くしなかったので、バント一本だと思われている。
……実際そうなんだが。
ケンはそれでも諦めずに、送りバントの姿勢を崩さない。
2球目。相手ピッチャーが投げると同時にまたもやファーストとサードが突っ込んでくる。
と、その時ケンはバットを引いた。ヒッティングの構えをしている、これは……バスターだ!
「おらああああぁっ!!!」
ケンは思いっきり叫んで、バットを振り抜いた。
真芯には当たらなかったが、突っ込んできていたファーストの頭上を越えるライト前ヒット。
「よっしゃああああ!!!!」
ファーストベースで雄叫びをあげるケン。というかバスターなんて今まで練習はしてたけど、1回も試合でやった事ないじゃんか。普通のバッティングですら下手なのに、バスターなんて上手くいく確率は、ものすごく低そうだ。
その博打っぷりには恐れ入る。
「ナイスだ! ケン!!」
俺も思いっきりケンにエールを送る。
さあ、次は俺の番だ。
現在、ノーアウトランナー1塁3塁。先ほどケンのヒットの間に、1塁ランナーは3塁まで進塁した。
「打ってまえ! ヤス!」
「おう! 任せとけ!」
ケンの声援に応え、素振りをする。
だが、実際は狙っているのはスクイズ。ベンチからもまずは同点と言う思惑があるのか、そう言う指示が飛んだ。
俺の場合、セーフティスクイズをして間に合うだけの足の速さがない。だから、1打席目の送りバント以外はヒッティングをしているから、ケンほどバントを警戒されているとは思えない。
もう試合は最終回、出来れば早く決めてしまいたいこの試合。この最終回で逆転しようと思っている。俺たちが逆転するには2点必要なんだから、相手チームには1点取ってまずは同点に持ち込むというこちらの考えは分からないはずだ。
バッターボックスに入り、構える。
初球目から狙えという指示。
相手ピッチャーが1球目を投げた!さっと俺はバントの姿勢に入る。3塁ランナーがホームに突っ込んでくる。
って、やばい!! 外された! 読まれているとは思わなかった! このままだと、3塁ランナーはアウトになってしまう。
くそっ! 俺とケンはバントの練習だけは誰よりも練習したんだ。届け!!!
俺は必死でバットを伸ばした。
かつん、という音がして、ボールは前に転がった。
よかった……届いたんだ……。
3塁ランナーがホームインする。ケンもその間に2塁に進塁する。
俺はそのまま、アウトをとられベンチに戻る。
いくらバントが得意とはいえ、同点にするためのバントはすごい神経を使った。
ほっと一息ついて、ベンチにへたり込んだ。緊張の糸が完全に切れてしまったようだ。
試合は終わってないのに、自分とは関係ないかのようにぼけっと試合を見ている。
その後、3番はライトフライに倒れ、その間にケンは2塁から3塁にタッチアップ。
そして4番のレフト前ヒットで逆転。
ケンが先ほど言った通り、ダイヤモンドを一周してかえってきた。
「お疲れ! ケン!」
「おう! ヤスこそナイススクイズ!」
俺とヤスはハイタッチをかわした。
5番がファーストゴロに倒れ、俺たちの攻撃が終わった。
最終回の裏。俺たちは既に全員勝利を確信していた。
監督ですら、多少浮かれ気分で指示していたように思える。
多少浮ついた状態だったが、それでも相手の下位打線の8番9番は内野フライに押さえた。
そして、上位打線にもどる。2アウト。そして今日はまだヒットがない1番バッター。
俺たちはこいつが最後のバッターになると思っていた。
自分のチームのピッチャーの高めの球。1番が振り抜いた。
今まで1回も外野に飛んでこなかったのに、最後の最後にライト、つまり俺の所に飛んできた訳だ。
快晴、雲一つないいい天気。目測なんか誤るはずのないこのコンディションの中で、俺は一瞬太陽に目がくらんだ。本当に一瞬だったはずなのに、ボールのゆくえを見失った。慌てているのに誰も気付かない。
内野のメンバーはもう終わったとばかりに背を向け、ベンチに戻ろうとする人までいる。
くそっ、どこだ! どこにあるんだ!!
「おい! ヤス! 後ろ!!」
ケンが声をかけてくれた時には既にボールは俺の後ろにぽてんと落ちて、ころころと転がっていた。
「あっ……」
エラーをしてしまった事で、さらに悪い事に動きが一瞬固まってしまった。
「ヤス! 内野にボールを返せ!」
ケンの声に慌ててボールをとり、内野にボールを投げたが、既にランナーは3塁に到達していた。
2アウト3塁。
本来ならばもう勝っていたはずの試合なのに、俺のエラーのせいでピンチになってしまっている。
俺はもう地に足がつかない状態になっていた。なんで?どうして?なにがまずかった?
混乱していて、目の前の試合展開についていけてなかった。
ピッチャーもふてくされたのか、普段なら絶対投げないようなど真ん中への棒球を投げる。
相手バッターは見逃さず、レフト前へ引っ張る。
相手チームに1点追加。3対3の同点、最終回にして試合は振り出しへ戻ってしまう。
そして迎えた3番。今日はまだヒットはないが、相手チームの4番に次いでそこそこいいあたりをしている。
2アウト1塁。初球はバッターが見てボール。ノーストライクワンボールになる。
そして、ピッチャーが2球目を投げる。投げたと同時に1塁ランナーが走る。
盗塁かと思ったら、バッターがバットを鋭く振り抜く。最終回2アウトの状態でエンドランなんてかけるか!?
カキーン、といい音がしたと思ったら、ファーストの左を抜ける。ラインぎりぎりのヒット。長打コースになる。
これは俺が処理しないと! さっきのミスをどうにかして取り返さないと!
焦ってダッシュでボールに駆け寄る。エンドランをかけていたため、1塁にいたランナーはもう既に3塁近くにいる。
間に合わせるには、一気にホームまで投げないと間に合わない!!
慌てた俺は中継にきていた仲間を無視して、ホームに向けて遠投する。
だが……慌てた事で、精度がかなり落ちてしまったのだろうか。
ボールは大きくそれて、しかも2バウンドもしてようやくキャッチャーミットに収まる。
ホームベースとは10m以上も離れていた。
その状態では、タッチも間に合うはずがなく……
さよならヒットでゲームセット……
4対3で相手チームの勝ち。
相手チームは県大会へいける喜びからか、歓声を上げて、ヒットを打ったやつをもみくちゃにしていた。
しまいには胴上げを始めようとしている……。
くそっ……おれがあの時ボールを見失わなければ……。
試合に負けた。これで、中学校での野球は終わったんだ。
中学校時代はヤスとケンは野球部でした。
ただ、私自身野球の経験がなく、高校野球やプロ野球の観戦、後はインターネットの資料だけで書いた物なので、間違いがあるかもしれません。
また、野球に関して知らない人が読んだら、どのように読めるのかも判断着きません。
出来るだけ読めるようにしたつもりですが、分からない場合は教えていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。