392話:ショートコント『コンビニ』
さて、俺のすべる話を披露したところで、次は誰がやってくれるんだろう?
「じゃあねじゃあね、次私たち3人でコントやるから、ヤス兄感想よろしく」
「……感想っすか」
どんなことでも感想言うのって嫌なんだよなあ。ものすごい面白いものほど、言えば言うほど面白さがかけない自分に腹が立ってくる。面白いものはただ一言面白いでいいよなあ。
読書感想文とか『面白かった』『つまらなかった』の一言だけじゃいけないんかなあ、としばしば思う。
3人一気にやってしまうってなんだか損した気分だ。誰か別々にやってくれればいいのに。
「まあいいや、期待してるっす」
「ハードルあげないでよ、ヤス兄」
……ごめんなさい。
「ショートコント『コンビニ』、ピー、ガシャ」
手を広げて自動ドアが開いた動きをするサツキ。そんなサツキに並んで入ってくるユッチ。
「いらっしゃいませ」
深々と礼をして応対するキビ先輩。キビ先輩が店員さん役なのか、ついさっき、俺から男物の学生服を借りてたのは、自分は男役なんだーっていう意思表示なのかな。
んで、サツキとユッチがお客さん役か。
「サツキお姉ちゃん! ほんとにごめんねえ!」
「いいから、さっさといってきてよ、もらさないでね!」
「もらさないよお! もう、サツキお姉ちゃんのバカア!」
姉役のサツキに叫んで、退場するユッチ。
ユッチ、妹役なんだな。ユッチのほうが年上なのに……なんだか不憫だ。
「あー、妹待ってる間暇だしー……何か買おうかな」
もんのすごい説明的なセリフっすな。サツキ。
「ちょっと店員さーん、こっち来てー」
「はい、少々お待ちください」
テケテケと歩いて寄ってくるキビ先輩扮する店員さん。
「チキンを1つください」
「チキンですか? チキンでしたらフライドチキン、チキンナゲット、チキンハート、チキン野郎がございますが」
チキンハートとチキン野郎ってどんなんやねん。
「それじゃチキンハートを1つお願い」
そしてチキンハートを頼むんかサツキは。
「かしこまりました、準備が出来るまで少々お待ちください」
チキンハート、どうやってキビ先輩は準備するんだろう?
「後ついでに、肉まん2つ買いたいんだけど」
「肉まんでございますか、申し訳ありません、肉まんはただいま品切れとなっております」
「ええ!? あそこに2つ並んで置いてあるじゃん!」
「あちらは既に私が予約しておりますので」
「じゃあしょうがないね」
しょうがなくねえだろ!? ダメだろそこの店員!
「それじゃあんまんで」
「あんまんはあんまりおいしくないですがよろしいでしょうか」
めっちゃよろしくないだろ、店員さん! どんだけひどいコンビニエンスストアだよ。
「じゃあそれで」
しかもオッケー出すなサツキ!
「あ、このコンビニっておでんも売ってるんだね?」
「左様でございます。当店の商品はどれもお勧めでございますが、特に牛すじ肉と鶏肉のつみれと魚肉入りのがんもがお勧めでございます」
「肉ばっかりなのは」
「仕様でございます」
「話し方が流暢なのは」
「素養でございます」
「今つばが飛びまくったんだけど」
「粗相でございます」
『仕様』と『粗相』じゃ一文字しかあってねえよ。
「んーと……はんぺんともち巾着と大根がほしいんですけど」
「申し訳ございません、どれも置いてございません」
「なんで!? どれもおでんの王様みたいなものばかりじゃない!?」
おでんの王様って。俺はおでんの王様はちくわだと思うんだけどな。
「なんではんぺんはないのさ?」
「はんぺんは勘弁でございます」
……ただのギャグかい。
「何でもち巾着はないの?」
「おもちはお客様のようなもち肌美人がいれば十分でございます」
「じゃあしょうがないね」
しょうがないのか!?
「何で大根はないの?」
「大根はお客様のような大根足がいれば十分でございます」
「じゃあしょうがないね」
いや!? そこは怒れよ! しょうがなくないだろ!?
「それじゃおすすめのおでんはなにがあるの?」
「ソーセージでございます」
はぁ、ソーセージ……うまいんだろうか。
「他のものは何があるの?」
「卵がお勧めですね」
「卵かあ、卵、黄身は好きなんだけど、白身は嫌いなんだよねー」
「黄身だけのお買い上げも出来ますが、いかがいたしましょうか」
「じゃあそれで」
出来ねえだろ!? ダメだろ!? 黄身だけとか!?
「はあ、サツキお姉ちゃん、お待たせえ! お姉ちゃん何か買ったあ? 僕アイス食べたあい」
今まで退場していたユッチが戻ってきた。
「それではキミをお持ち帰りにさせていただきます」
「お、お姉ちゃん!?」
サツキと店員さんは『黄身をお持ち帰り』、ユッチは『君をお持ち帰り』なのか……まさか女3人集まってシモネタをやるとは……。
「ソーセージもね」
「かしこまりました」
「サササ、サツキお姉ちゃん! どんな会話してんのさあ!?」
「あ、ユッチ、トイレ長かったねー。あ、妹も同じようにお願い」
「かしこまりました、それでは妹さんにもお持ち帰りを用意させていただきます」
「ばばば、馬鹿じゃないのお!? ボクはお持ち帰りなんかされたくないんだからあ!」
噛み合ってるようで噛み合ってないこの会話。
「あれ? ユッチは嫌だった? ユッチはソーセージ好きだったと思ったんだけどなあ」
「す、好きなわけあるかあ!? お姉ちゃんのばかあ!」
「それじゃユッチはフランクフルトにしようか? ユッチ、くわえるの大好きでしょ?」
「誰が好きなわけあるかあ!」
「それではお客様はどのようなものがお好みでしょうか?」
「え? ええと、ええと……ぼ、ボクの好きなのはあ……」
……こっからどういうオチをつけるんだろう?
「こ、こんなところで言えるかあ!」
「お待たせいたしました、チキンハートひとつお届けいたしました」
「今頃ですか!? もういいよ」
『ありがとうございましたあ!』
……さて、感想をどう言おうかな。