384話:春合宿、3日目
…………zzzz。
ドスッ。
「ふゎわああふぇづえええ!?」
「ヤス、うるさいぞ。そんな吉本の若手芸人のようなリアクションをとっても、ここには観客はいない。静かに起きろ。みんなが起きてしまうではないか」
……ポ、ポンポコさん? な、何でそんなところで竹刀を抱えて仁王立ちしているんですか?
ってか、さっきボスッて音じゃなくてドスッて音がしたぞ。なんだか突き刺すような音だったぞ。そんな勢いで布団を叩かないでくれよ。
「早く起きろ、今から15分後に早朝練習を開始する」
「……ええと、ポンポコさん? 今何時?」
「今は4時45分だ」
また、めちゃくちゃ早い時間に起こしてくれたなあ……まだ眠い。もう一眠りするかあ……。
「昨日の時間と一緒だな、5時から練習開始する」
…………zzボスッ。
「ヤス、起きろ。おきなければもう一度竹刀で叩く。今度は頭を叩くからな」
「ちょちょちょ! 頭はやめて! これ以上バカになったらどうすんのさ!?」
「大丈夫だ。頭を叩いてもバカにはならない。それにヤスはこれ以上バカにはなりようがないだろう?」
……おい、ポンポコさん。それはひどすぎでないかい? 俺、確かにバカだけど、底なしのバカではないと思ってるんだけど……。
ま、言い返すのはやめとこう……なんだか最近反抗してもどうしようもないというのが分かってきたので、ものすごく従順になってきた気がする。
今日はええと……春合宿3日目の朝、3月29日か。そろそろめちゃくちゃ体が重くなってきた。昨日、50キロも走らせたりするから……。
まあ、それだけ頑張れば強くなれる気がするから、今日も頑張って起きるかあ。
「んじゃ、準備するっす」
もぞもぞと布団から出て、浴衣を脱ぐ。
なんか、短距離人がぐうすか寝ている中、1人だけおきるってのはなんだか悔しいよなあ。なんだかケンの顔ぐらいに油性マジックで落書きしておきたい気分だ。
……やるか。
「ヤス、変なことをしていないで、さっさと着替える」
……ラジャです。ちっ、命拾いしたな、ケン。
はああ、なんか汗をかいたな。ってか寝汗すごいな、昨日ちょっと暑かったもんなあ……パンツも脱ぐか。
「……ヤス、一応断っておきたいのだが、私は女だからな」
「うん、知ってるよ」
「……寝ぼけているようだからひとつ聞きたいのだが、ヤスは私の事をどう思っているのだ?」
「俺の師匠兼親友」
「ふむふむ。なるほど」
「最近サドっ気が強くなってきてる。ちょっぴりぽっちゃり、もしも抱きついたら、とってもぷよぷよしてて気持ちよさそうな女子高生」
さて、パンツ脱ごう。
「……でだな、そのでっぷりと太っている女子高生が目の前にいるのに、浴衣を脱いでパンツ一丁になった上に、さらにパンツまで脱ごうとするのはどういう了見だ?」
……ってかポンポコさん、まだいたんすか。俺、着替えたいんすよ。そんなことを言うのなら俺に怒る前に出てってくれよ。ここは男子部屋っす。
しかもいつの間にかでっぷりになってる。『でっぷり』と『ぽっちゃり』じゃ全然意味違うと思うんだけどな。
「あ、ポンポコさん、もしかして興味津々っすか? もう、ポンポコさんってばエロイなあ」
「……」
スパアン、という竹刀がしなる音がして、黙らされた。
「ポンポコさん、怖いっす……ってかさ、その強権を発動するの、やめようよ。自分、そんな竹刀を使わなくたってポンポコさんのこと信用してるから、きちんと言うこと聞くよ」
「む、そうか? だが、これを握っているとな、なんだか私がとてもやる気になるのだ。ふつふつと竹刀からやる気が沸いてくるという雰囲気だ。わかるか?」
「……俺のモチベーションががた落ちっす」
「ふむ……それなら仕方ない、これから竹刀を持つのをやめよう」
ありがたやありがたや。竹刀にびびらされながら練習するなんて真っ平ごめんだからな。
「だが、今日ヤスはゆすっても呼びかけても起きてくれなかった。明日からはどう起こせばいい?」
んーと……。
「こうさ、耳元で、『あ・な・た、お・き・て♪』って言った後にふっと耳たぶに息を吹きかけて起こすってのをやってみて。そうすれば俺、きっと起きれるから」
「うむ、分かった」
……え? 分かったんか? じょ、冗談なのに。
「ええと、やめてくれていいっすよ? なんか新婚夫婦の起こされ方みたいじゃん」
「いや、やる。私もそういう起こし方を1度してみたかったのだ。うむ、明日どういう反応をするのか楽しみだ」
……な、なんか変なスイッチを入れてしまったみたいだ。
明日、自分が変な反応をしてポンポコさんを喜ばせないようにしないと……。
「それでは、早朝練習頑張ろう。ヤス」
「ういーっす……」
ま、それよか今日の練習を乗り切ろう。頑張れ、自分。
おはようございます、ルーバランです。
なんだか最近、きちんと投稿できておらず、申し訳ありません。
それでは今後ともよろしくです。