38話:靴を買いにいこう、靴選び
俺たち6人はユッチの案内で、ランニングシューズを売ってるスポーツ用品店へ向かった。
その店は駅から10分程度歩いた所にあって、5階建てなんだが、ワンフロアまるまる陸上用品になってる。
「ほえー、こんなに陸上用のシューズの種類って色々あるんだね」
サツキがびっくりしたような顔をしてる。確かに、ざっと見ただけでも50足以上はあるかな。
「短距離用と長距離用でも違うし、初心者が履く靴と早い選手が履く靴もまた別だったりするからね。その上、それぞれのメーカー毎に靴を作ってるから、それくらいにはなるよ」
ユッチが説明してくれる。
「こっちの靴はとげがついてるけど、これは何?こんなので走れるの?」
ケンが1つの靴を持って、じろじろ見てる。確かにケンの持ってる靴にとげがついてるな。
「それはスパイクシューズ、タータントラックを走る用の靴。タータンって言うのは、地面がゴムみたいになってる所なんだけど、分かる?」
すみません、分かりません。
「テレビで陸上の大会見た事無いかな?去年、日本でも世界陸上やってただろ?その時に焦げ茶色になっているところがタータンって言うんだけど」
「……いや、俺マラソンしか見て無かったし」
日本がメダルとれそうだったのがそれだけだったからなあ。その時は投げる系は興味が無かったし。
「マラソンでも、最後に競技場に入ってくだろ!その最後の所で、走った部分がタータンだよ!」
「あ、ランナー達が走るコースの所の素材をタータンっていうのか。……説明下手だぞ、ユッチ」
「うるさい!ボク、もうヤスの靴どれがいいか考えてあげないからね!」
「ごめんなさいユッチ様」
……俺はヘタレです。
「もう馬鹿にするなよ。……あ、でも、ヤスは長距離だからスパイクは無くてもいいかもね。もちろん、持ってる人のが多いんだけどさ」
「へ?何で?」
俺は質問する。
「スパイクシューズは速く走れるけど、その分足への負担が大きくなるんよ。長い距離走るのに、足への負担が大きくて途中で疲れたらだめでしょ?」
「なるほど」
「まあ、ウララ先生も言ってたけど、スパイクを買うのはもっと後でいいし、今日の所はランニングシューズをさっさと買っちゃおう」
「ラジャー」
おしゃべりはこれくらいにして、靴選びをしよう。
「で、結局どんなのがいいんだ?」
ケンが聞く。
「2人とも、今日の予算はどれくらい?」
「俺は、10000円こっきりしか持ってきてない。でも、いざとなったらヤスに借りる」
「俺をアテにすんなよ!……俺も10000円。でも、母さんがいるからもしかすると小遣い前借りできるかも」
母さんを見たが、手で大きくバツ印をしていた。駄目みたいだ。
「と言う訳で、10000円以内で買えるのでよろしく頼む」
「2人の足のサイズは?」
「26.5」
これはケン。
「27.5だ」
これは俺。
「22.5です」
サツキ、お前には聞いてない!
「そうすると……買えるのはこの辺かな」
そう言って、ユッチは俺たちそれぞれに、何足かの靴を持ってきてくれた。アシックス、ナイキ、ミズノ等それぞれのメーカーがある。
「どのメーカーのがいいんだ?」
どれがいいか、さっぱり分からなかった俺は聞いてみる事にした。
「どれがいいってのは無いよ。人によって、足の形は違うし。人によっては、ナイキがいいかもしれないし、ニューバランスの靴がいいかもしれないもん。だから絶対に履いて履き心地を確かめてね。自分にあってない靴を履いたら、靴擦れが起きたり、怪我の元になるから。だから、今後も靴を買いにいく時は必ずネットで買わずに、靴専門店かスポーツ用品店にいくこと」
ユッチは色々注意を促してくれた。そうなんか……じゃ、適当に履いてみるか。
「ま、本来は夕方以降に買いにくるべきなんだけど……ボク、門限あるしね」
「何で夕方以降がいいんですか?」
サツキが質問する。お前が買う訳じゃないんだから、そこまで知らなくてもいいんじゃないかな。
ってか、門限あるんだ?しかも夕方には帰らなきゃいけないってめちゃくちゃ早くない?
「夕方になると自分の体重で足が大きくなるんだよ、と言っても少しだけどね」
へー、そうなんだ。知らなかった。
「うーん、俺はこれがいいな」
いつの間にかケンが決めていた。アシックスのウインドスプリントという靴らしい。
「大丈夫?履いてみて、緩すぎたりきつすぎたりするのは駄目だよ」
「うん、ぴったり。軽いし、今までのより走りやすそう」
「そういえば、今まで普通の靴で走ってたんだよね?それであれだけの速さで走れるって……ケン、あんたって馬鹿だけどなにげにすごいね」
ユッチにまで馬鹿にされてるのか?可哀想に。
「俺はこれかな」
俺は数あるうちからミズノのミズノウェーブエアロと言うシューズにした。うん、しっくり来る。
「2人とも決めた?それじゃ、レジ行こか」
「あいよ」
俺は、決めた靴を持って、レジに行こうとする。いくらかなと思って値札を見ると、「11550円」。
……………………。
「ユッチ!これ10000円以上するんだけど!買えないじゃん!」
「え、そうなの?……あれ?俺のも12600円って書いてあるよ!?」
俺とケンはびっくりしてユッチに問いつめた。
「ああ、大丈夫。ボクここの会員だから、このカード見せれば全品2割引になるんだ。だから買えるよ。さっき計算したから大丈夫」
おお、ユッチ偉いぞ、それは助かる!
「10080円になります」
…………。
「あ、あれ?おかしいな?」
「馬鹿かユッチは!?ちゃんと計算しろよ!」
「馬鹿って言うなあ!馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!」
「はん!それはお子ちゃまの理論だ、ちなみに今お前は馬鹿と3回言った。つまり、お前の方が馬鹿なんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい!変なへ理屈言うなあ!せっかく今日きてやったのにさ、もうお前なんか知らない!」
そう言い捨てて、帰ろうとするユッチ。ってか俺まだ買ってないよ!ユッチがいなきゃ買えないじゃん!
「あ、いや、待ってください、ユッチ様!せめて俺の靴買ってから帰ってよ」
「なにそれ!?ボクってカードだけが存在意義?」
しまった、楽しくてつい口走ってしまった。
「そんな事無いぞ、その無駄な元気は周りの人間に安らぎを感じさせる。子供が元気に飛び回ってるのを見るのは微笑ましいからな」
「ボクお前と同い年なんだから!お前なんか嫌いだあ!!」
…………結局、言い争いが終わった後、ユッチは買ってくれた。何とか買えてよかった……。
その後、俺の方の靴が9240円だったから、ケンに80円あげて、この話は終わった。
結論、ユッチって馬鹿だったんだな。
ってか、からかうのがこんなに楽しいって思わなかった。