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375話:自転車こいで

ポンポコさんが見えなくなってから数分後、俺も出発する。軽快にキュッキュッと風を切りながら自転車をこぐ。

ああ、気持ちええ……こうやって一人で走っていると、なんだか歌いたくなって来るんだよな。

ここは……うん、やっぱりこれだろ。


「栄光に向かって走るー! あの列車に乗っていこー!」


トレイン、トレイン! レッツ、シングアソング!


「はだしのままで飛び出してー! あの列車に乗っていこー!」


ウォーウォー叫びながらこぐ自転車ほど楽しいものはない。


「見えない自由が欲しくてー! 見えない銃を撃ちまくるー! 本当の声を聞かせておくれよー! ハイハイハイハイ!」


すれ違った人が哀れんだ目で見てくるが、気にしない! どうせ今日限り、二度と会うことはないんだし。

おお、この調子で行けば意外と75キロなんて楽勝なんじゃなかろうか?

次の曲もドンドン歌いながらいこー!










「…………はぁ……はぁ……」


かれこれ1時間半くらいは漕いでいるんだけど、一向にゴールは見えない……当たり前か、平坦で信号も踏み切りもない、という条件下で4時間のコースだもんな……。

こんな道程、ママチャリで4時間とか、行けるわけないよな……。

箱根裏街道に入るまでの道、最初の5キロくらい、走っている間は急激な坂もなく、まあまあ順調に行くことが出来た。だが……箱根裏街道に入ったら、ただひたすらに上り坂。延々と上り坂。誰がこんな道を走るんだと思うような上り坂。


「ポンポコさんめ……これ、4時間、で、到着、とか、不可能、だろ!」


や、確かに75キロなら……普通の道ならもしかすると、問題なく4時間程度でいけるかもしれん……。

けど、けど! この坂はありえねえ!


「や、箱根、裏街道、って名前、を聞いた、瞬間に、気づく、べきだった……」


箱根だもんな……あの百戦錬磨の箱根駅伝の選手達ですら、ヘロヘロになりながら走るコースだもんな。そんなコースを何でママチャリなんかで……。

山道をママチャリで走ること自体も無謀だけど、さらにこの山道を4時間で走るとか……気が狂ってるとしか思えない。

最初の5キロ、あんなに歌うんじゃなかった。山道に入ってからもなんかやけくそ気味に歌ったからなあ……トレイントレイン、リンダリンダ、1000のバイオリン、人にやさしく、キスして欲しい、終わらない歌、情熱の薔薇、夢、すてごま……俺、バカじゃね?


「くっそ、ポンポコ、さん、絶対に、高低差……気づかず……だろ」


しゃべるのもしんどくなってきた。はっきり言って自転車でこぐより、歩いたほうが速いんじゃないかって思うくらい、この坂道は長い、そしてきつい。

はあ……はあ……と自分の息の音と、ギコ、ギコとペダルをこぐ音だけが聞こえる。

山道だから、自分以外にはほとんど誰も通らない。ときどき、思い出したかのように車が1台2台通るだけ……きっつい……。

こんなとき、サツキかケンが一緒に走っててくれたらなあ。一人で走るってどんだけ孤独なんだろう……やっぱりさ、励ましあうということをしなきゃ、このコースは走りきれねえよ。励ましあわなくても、競い合うとかさ、何かがいるだろ。

向こうについたら一言ポンポコさんに言ってやる。人間というのは頑張れない生き物なんだって。1人じゃ何も出来ないのが人間なんだって。

というか、誰か……マジ俺を応援してくれよ。サツキかケンなんて贅沢なことは言わないから、誰でもいいから誰か俺を応援してくれ……。


「はぁ……はぁ……」


ギコギコというペダルの音が、いつのまにやらギーコギーコという音に変わった……。


「くっそ……旅館に、着いたら、絶対、にポンポ、コさん、に文句、言ってや、る」


きちんとしたところで区切ることすら出来ない……。くそぅ……ポンポコさんめ、どんな文句を言ってやろう。

文句だけじゃ気がすまない、絶対に何か見返りをもらわないと気がすまない……覚えてろ。













……つ、着いた……ようやく旅館に着いた。時刻は15時……合計7時間かかったわけか。

山、登りきったら後はずっとくだりで、かつ残りは海沿いの道だったから平坦な道だった。けど、山道をへとへとになりながら上りきった後はもう一生懸命こごうという気分にはなれず、のんびりとこいでいたら全然到着せず、結局7時間もかかる羽目になった。


「遅かったなヤス、待ちくたびれたぞ」


……ポンポコさんめ。どの口がそんなことを言う。ちょっとくらい『頑張ったね』、とか『お疲れー』とか言ってくれよ。


「もう短距離連中は練習に行ってしまったぞ。ついでにヤマピョンも先に練習に行かせた」


……ああ、そういや春合宿、ヤマピョンも参加してるんだったよな。忘れてた。


「さあヤス、今から練習に行くぞ」


「ちょい待ってって! 俺7時間も延々とこいできたの! ばててるの!」


「何を言っているのだ? それだけ叫ぶ元気があるなら、すぐにでも練習できる」


……ま、まじですか。ポンポコさん。あなたどれだけSなんですか。


「そ、そういえばさ! ポンポコさん?」


練習に行くのを遅らせるために必死で何かいいわけを考える俺。


「帰り、この自転車ってどうするの?」


「ヤスがこいで帰るに決まっているではないか。何を言っているのだ?」


決まっているのか、決定事項なのか……あうう、聞かなきゃよかった。何がうれしくてあの地獄をもう一度味わなければならないのだろうか。


「よし、それなら練習に行くぞ」


「ちょちょちょ! ちょっと待って!」


「なんだ? 何か言いたい事があるのならば、言ってみるといい」


……ふう、休憩時間を引き延ばすのも一苦労だ。けど、何を言えばいいんだろう?


「俺、ガンばった。見返り、ホシイ?」


「なぜ片言で、しかも疑問系になっているのかよく分からないが……ふむ、見返りか。何がほしいのだ?」


ええと、そういえば何も考えてなかった。ええと、なんていえばいいかな?


「ラブ?」


なんとなく言ってみた。


「……新手の告白か? 私はそれに対してどう返事すればよいのだ?」


……ポンポコさん、そんなに真面目に受け取らないで。とりあえず適当に返事してくれればいいです。真面目に返答されると俺も困ります。


「ふむ……私のヤスへ向けた愛の形とはなんだろうな……」


ごめんなさい、いろいろごめんなさい。だからそんなことで考え込まないでください。


「うむ……とりあえず練習しよう、ヤス」


……ポンポコさんの愛の形は『練習させること』なのか……。ポンポコさんからは愛の鞭という見返りしか期待できなさそうだよ……。

こんばんは、ルーバランです。


箱根の山道は箱根駅伝予選会に出場した時に一度経験しました……もう二度と走るもんかって気分になりました(^^


それでは今後ともよろしくです。

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カカの天下
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