371話:まわるまわる
ややシモねた入ってます。お気をつけください。
今日は3月22日、日曜日。明日は終業式。今は部活前で、ジャージに着替えて部員が集合するのを待っている。
……1年って長いようで短いよなあ……。ドタバタしてたらいつのまにか1年が終わる。
ちょっとは俺、この1年で成長できたかな?
「はあ……」
……小学生の頃から全く成長してなさそうなやつが1人、ため息をついてる。
「どしたユッチ? 盛大にため息なんかついて」
「あ、ヤスう……あのさ、ボク、今すごく悩んでるんだよお」
ジャージ姿でひざを抱えて、大きくため息をつく……そこまで分かりやすく悩まれていたら誰でも分かるよ。
「んで、どんな悩みなんだ? 言ってみ? 言うだけでも悩みは吹き飛ぶって言うし」
「あのね、どうやったら背って、伸びるのかなあ?」
「……」
「黙らないで何とか言ってよお!」
多分、もう無理なんじゃないか?
……そうやって答えたいんだけど、そしたらユッチ怒りそうだよなあ。
「ユッチ、背伸びてないのか?」
「そうなんだよお! 昨日コケて保健室に行ったときに、たまたま身長計が目に入ったから、計ってみたんだよお……そしたら4月の時から1ミリしか伸びてなくてさあ……」
1ミリ……それは伸びてないと言うのでは……ま、まあ1ミリでも伸びてたんだ。よかったじゃんか。
「ってかさ、ユッチってでっかくなりたいのか」
「なりたいに決まってるだろお! 僕の身長いくつか知ってるのお!?」
「……ええと、140センチくらい?」
「そんなに小さいわけあるかあ! ヤスのばかあ!」
そうか140はあったのか。
実は140cm未満だと思っていたことは内緒にしておこう。
「んじゃユッチって身長実は何センチなんだ?」
「142.1センチメートル!」
……ユッチ、俺はお前にものすごく言いたい。『一緒じゃん!』って。
言ったら怒るよなあ。
「そういえばヤスは身長何センチ何だあ?」
「俺? 俺は4月に計ったときは175か6くらいだったと思うけど……背、伸びたかなあ?」
まあ、伸びていようが伸びていまいがどっちでもいいけど。
「ヤス! ボクに10センチよこせえ!」
あげれないよ。あげれるんだったらあげるけど。
「ってかなんでユッチって背がでっかくなりたいんだ? 別に小さくたってかまわないじゃん。」
「だって背がちっちゃいってことは、足が短いってことだろお? 足が短いと走るのも速くならないんだよお。ボク、もっと走るの速くなりたいもん」
……まあ、ほかの人の1歩がユッチの2歩くらいに相当してたりするもんなあ。それは確かに背がでっかくなりたいかも。
「俺は背がちっちゃい子のほうが好きなんだけど」
「あ、そうなんだあ。ふうん、ヤスってロリだもんねえ」
……背が小さい子が好き=ロリになるのか。これからそういう発言をするのはやめとこう。
「ねえヤス、もしも背がでっかくなる方法知ってたら教えてよお。ヤスはどうやってそんなに背が大きくなったのお?」
どうやってと言われても……。
「別に特に何もしなくてもこの身長になったからなあ……強いて言うなら遺伝?」
「ヤスはボクの敵だあ!」
……そんなこと言われても。俺にどないせいっちゅうんだ。
「遺伝とかじゃなくてもっと背が大きくなる方法、ヤス知らない?」
ふむ……背を大きくする方法ねえ。
「知らないわけじゃないけど、結構痛いかもしれないぞ」
「やるやる! 背を大きくするためなら何でもやるう!」
ふむふむ、いい心がけだ。
「早い話さ、ユッチって背がでかくならなくても、足が伸びればいいんだろ?」
「うん、そうだよお?」
「だったらまず、そこに座る」
「ラジャア!」
トテン、と地面に座り、体操座りになるユッチ。
「そして足を伸ばして、足を広げる」
「こ、こお?」
ユッチに足を広げさせる俺。
「んで、俺もユッチの前に座って、俺がユッチの両足を持つ」
「ふむふむ、そっからどうするのお?」
「ひたすらユッチの股を俺が足で蹴る!」
両足をそろえてユッチの股をひたすら押す俺。
「い、いいたいいい! ヤ、ヤス……や、やめてよお」
「打つべし! 打つべし! 打つべし!」
「痛いいイタイイタイイタイイタイイイイイ!」
……こんなもんか。俺は手を離して、蹴るのをやめる。
「こうやってだな、ひたすらあそこを蹴りつけることによって、股が裂けて足が伸びる」
「……それ、ほんとかあ……?」
「ほんとほんと」
たぶんほんと。けど、これをやって足が伸びたなんて話は聞いたことはないけど。
「男にやると、変なもんがついてるからあまりの痛さにできないという話だぞ」
「そ、そうなのかあ。ううう、痛いよお……」
おし、こんな信憑性のない話を信じてくれるとは、さすがユッチ。
……ほかにもいろいろ何かを試してみたい。
「ユッチ、ほかにも背が伸びる方法があるんだけど、試してみるか?」
「こ、今度は痛くない?」
「大丈夫、痛くない。俺がユッチの両足を持ってぐるぐるするだけ。遠心力で背が伸びる」
別名ジャイアントスイング。一度でいいからあれをやってみたかった。
「こ、こわそうだなあ……」
「ユッチ、背を大きくしたいんだろ!? これぐらいのことで怖がってどうする!」
なんか意味不明なことを口走って、ユッチにジャイアントスイングをかましたい俺。
「う、うん。わかったよお」
「よし、んじゃユッチ、ここに仰向けになって寝転がれ」
「う、うん……」
ごろりと地面に横たわるユッチ……
ふっふっふ、楽しみだ。ジャイアントスイングがどれくらい楽しいのか。
ユッチの足を持ち、準備万端な俺。
「さあいくぞユッチ!」
「やっぱりだめえ! ストップストップストップウ! やめてやめてやめてえ!」
もう遅い、俺はやると決めたらやる男だ!
「お前ええ! 何やってるんだー!」
……ユッチの悲鳴を聞きつけて、学年主任が走ってきた……ち、いいところを。
ユッチの足を離して、学年主任のほうを向き直る俺。
「またヤスか……おいヤス、今何しようとしていた?」
「ええと、ユッチをまわして遊ぼうとしていました」
「まっ…………!?」
……なんか先生が絶句しているけど、俺は何かひどいことを言っただろうか?
「おい、おまえ、大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃなあい……」
まあ、恐怖でいっぱいだったからかな。すまんユッチ、調子に乗りすぎた。
「どこかいたいところはないか?」
「股がいたい……」
「まっ…………!?」
……先生、どうしたんだろう?
「おいヤス! お前というやつは……!」
……ええと、俺、そんなにひどいことをしたかな? ジャイアントスイングはやっぱりひどいことだったのか。
「ちょっとこっち来い!」
え? え? 先生!? ごめんなさい!? 腕引っ張らないでー!?
……なんだか先生に、ものすごい誤解を受けていたようだ。
危うく退学にさせられるところだった……言葉使いには気をつけよう。
こんばんは、ルーバランです。
いろいろとごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。