366話:あまえんぼう?
TRRRRR……TRRRRR……。
「んあ?」
家の電話がなんやらりんりんなっている……。時計を見ると、時刻は2時……草木も眠る、丑三つ時。
今日は家に自分しかいないから、もう22時にはグーグー寝てたのに……というか、こんな時間に誰だよ……勘弁してくれよ。
「あ゛ー! う゛ー! うぉー!」
ね、ねむい……。体が動かん……誰か知らんけど、諦めてくれないかな。
TRRRRR、TRRRRR、TRRRRR、TRRRRR……。
くぅ……きってくれそうもない。これってやっぱりものすごい緊急なんだよなあ……。で、出ないと……。
ノタノタと電話まで歩いていき、受話器をとる。
「はい、もしもし、こんどーです……眠いのでまたこんどー……」
「もしもし、ヤス先輩ですか? また今度なんて言ってないで話聞いてください」
「あー……誰?」
眠いから頭が働かない……。
「黒田ですよ」
「あー、安田大サーカスの人ですかー。今度サインお願いします」
「クロちゃんです♪ って違いますよ!」
あー、うん……分かってはいるんだけど……眠い。
「あークロちゃんですかー……今どこですかー? 俺は近藤さん家にいまーす」
「……私は黒田さんの家にいますが……」
「そうですかー、そうですねー」
……何言ってるんだろう。俺。だが、頭がまわらない。
「ヤス先輩、なんだか今日も変ですね」
……なんだかとてもひどいことを言われた様な気がするが……。
「こんどーさんちのやすあきくん、このごろ様子、へんよー。どうしたのーかーなー?」
変って言われたからノリで歌ってみた。
「テニスに応援きーてもー、お家に電話をしーてもー、いつもあなたはおーなーじ、『へーんーよー』だいじょうぶですかー?」
……グサッと来た。そしてようやく目が覚めてきた。
「ふぁぁ……おはようさんクロちゃん、こんな夜更けになんか用? サツキがまた酒飲んで壊れたりしたの?」
「あ、ようやくまともになりましたね、ヤス先輩」
うるいさいです。さっさと用件を言えです。
「サツキちゃんなんですけど……家に迎えに来てもらっていいですか?」
「んー……了解、明日の何時に迎えに行けばいい? あ、もう日にちはまわってるから今日か」
「今からです」
「……ふぇ?」
なんか、今もんのすごい変な言葉が聞こえた気がするぞ。
「クロちゃん、もう一度よろしいでしょうか?」
「今からです」
「ワンスモアプリーズ?」
「from now!」
……わざわざ英語で答えてくれて、サンキューです。
「ええと、何で? サツキとクロちゃんとサキちゃんの3人で仲良くパジャマパーティやってるんでしょ?」
まさか夜中2時になって迎えに来いなんて……きついだろ。せめてもうちょい早くに電話くれればいいのに。
「そうなんですよ。それでついさっきまで話してて、今ちょうど寝たところなんですけど、サツキちゃんが泣くんですよ」
『鳴く』じゃないよなあ……じゃあやっぱり泣いてるんだよな。
「ええと、サツキ、寝てるんでしょ?」
「一番最初にサツキちゃんが寝たんですよ。寝てるんですけど、何故か泣くんです。ほんと、どうしたんでしょう?」
「……さあ?」
……けど、サツキ、泣いてるんだよな。
「なので、ヤス先輩、すぐに来てくれませんか?」
「……」
「あれ? ヤス先輩、もしもーし、もしもーし……」
……ピンポーン。
「……はい?」
「クロちゃーん! サツキ迎えに来たよー! 家に入れてー!」
「……」
「クーローちゃーん!」
「聞こえてます! 聞こえてますから声もう少し小さくしてくださいよ! 近所迷惑です!」
何を言う。夜中の2時にたたき起こしたやつが近所迷惑だなんて言葉を使うな。うちの電話は昔なつかしの黒電話だからものすごい大音量を立てるんだ。あれほど近所迷惑なことはないぞ。
パタパタと足音がして、玄関が開き、クロちゃんが現れる。ウサギの柄のピンク色した、なんともかわいらしいパジャマ姿。
「お待たせしました……ってヤス先輩、なんて格好してるんですか?」
「ん? 変か?」
対する俺は藍色の甚平……って前がめっちゃはだけてる!? やっばいやっばい、露出魔で捕まりたくは無いです。
慌てて前を隠す俺。
「……ごめんごめん」
ちょっと顔を赤くしながら謝る俺。クロちゃんのがもっと赤くなっているが。
「それと、電話の途中で切らずにどこかいなくならないでくださいよ。呼びかけても返事が無いので、どうしたのかと思いましたよ」
ごめんなさい。出来る限り早くサツキのところに行きたかったんですよ。急いだんですよ。
「んでサツキ、今もまだ泣いてる?」
「泣いてますよ。サツキちゃんが眠ってからずっとです」
……何でなんだろう? 夢で怖い夢でも見てるんだろうか? そんな夢を見てしまうようなストレスが、すごくたまってたりするのか?
クロちゃんの部屋に入ったら、確かにサツキがすすり泣きながら眠ってた。その隣でサキちゃんがサツキをあやそうとしてる……どんな夢を見てるんだろうな。サツキ。
「それじゃ、連れて帰るよ。迷惑かけてごめんなー」
「はーい、おやすみなさーい」
「ん、おやすみー」
……ふう、サツキをおぶって、てくてくと帰り道を歩く。まだ背中ですすり泣き続ける、サツキ。
「……うぅ……ひぐっ……うぅうぅ……」
「はいはい、よしよし……泣くな泣くな」
「……うええ…………」
泣いてる人に泣くなって言っても泣き止んでくれないよなあ……。
「……あいあい、どんなに泣いてもいいぞ、ヤスお兄様がついててやるべさ」
……くさいな俺、どんな発言をしてんのや。
「ヤスにい……?」
「そだよー、ヤス兄だよー」
「……ふぅん……汗臭い……」
う、うるさいな、思いっきり急いで走ってきたんだから、汗かいて当然だろ! ……サツキ、もしかして起きてるんじゃないだろうな!?
「……くぅ…………」
あ、泣き止んだ……すげえ、汗のにおいで泣き止んだ。これからサツキが夜泣きをしていたら汗臭いタオルをかがせよう。
「まったく……なんなんだろうな……」
3月14日、土曜日の朝……眠い。2時にクロちゃんの電話でたたき起こされてから、一睡もしていない。
「……スー……スー……」
サツキはいまだ、夢の中。サツキが首に巻きついて離れない、無理矢理ひっぺがえそうとするとまたすすり泣く……離れようにも離れられず、こんな至近距離にサツキの顔があると、ドキドキして眠ろうにも眠れず……。サツキがかわいすぎるのがいけないんだ。こんなにかわいくなければきっとドキドキせんと眠れただろうに……。
「……スー……くふふぅ……」
……くそぅ、サツキのやつ、1人楽しげに眠りおって。どんな楽しい夢を見ているんだか。まあ、いい夢を見てくれ。俺はサツキの寝顔を楽しむことにするよ。
うりうり、サツキほっぺをぷにぷにとつついて遊ぶ自分……サツキ、かわいいなあ。
おはようございます、ルーバランです。
「山口さんちのツトム君」をちょっとパロってます。
それでは今後ともよろしくです。