363話:合格発表日
3月12日……今日の分の試験が終わった後、とうとうサツキの合格発表だ。
「ヤス兄、ドキドキだね」
「そうだな……ドキドキだ」
どうか受かってますように。普段は神様なんて信じちゃいないけど、こういうときだけは神様にお祈りしてしまう。
テスト期間の真っ最中と言うことで、ケンもユッチも、サツキと面識がある人たちはほとんど勉強しなきゃということで帰っていった。残ってくれたのはポンポコさんだけ……まったく、ケンもユッチも、薄情なやつらだ。
今、他の大勢の受験者とともに、サツキと俺とポンポコさんの3人で待っている。
「ヤスもサツキもそわそわしすぎだ。もう受験も終わって結果も出ているのだからな。どっしりと待つのが吉だぞ」
……ポンポコさん、人はなかなかそんな風に強くはなれないものなんですよ。
サツキは、自己採点を見る限り、当日の得点はかなり高かった……けど、内申点が芳しくない。ぶっちゃけ合格ラインにぎりぎり届いたか届かなかったか……そんなラインにしかいない。
「なあサツキ、俺が言うこっちゃないけど、もうちょっと先生にゴマすっておけばよかったのに」
「えー? なんで?」
「だってさ、そうすりゃ内申点あがるじゃん。内申点なんて所詮先生にどれだけ気に入られたかで成績が決まるんだから」
いくら内申点は普段の定期テストで決まるって言ったって、先生だって人間。例えば同じ60点のテストの点数だったとき、授業中グースカねてる人には3を、きちんと起きて真面目にノートをとっている人には4をつけたくなる。それが人間ってもんすよ。
特に保健体育・音楽・美術・技術家庭の実技4教科はテストの点数よりも平常点が重視されるもんな。どれだけ下手な絵を描いてても、先生に媚をうっとくと4がもらえたりするかもしれんもんな。
「無理無理。私嫌いな人には嫌いって言っちゃうもん」
……先生には言わないでくれ。
「その代わり、好きな先生には大好きって言っちゃうけどね」
「サツキ、たまには俺にも言って」
「や」
……1文字ですか。1文字で一蹴ですか。俺のささやかな願い、たまには聞いてくれてもいいのに。
「でもさ、先生の中でひとりだけすっごい尊敬できて好きな先生がいたんだよねー。それで、この前クラスメイトと話してた時に、『あの先生嫌い』って言ってた人がいたもんだから、『私は好き』って言い返したんだよ。そしたら『ゴマすっちゃって、感じ悪う』って言われたんだけど、そういうのがゴマをするって言うのかな?」
……ううん……どうなんだろう? ちょっと違う気がする。
「『本音』と『建前』はうまく使い分けろって言うでしょ? でもでも、不思議なことに『あの人は嫌い』っていうのは『本音』になるのに、『あの人は尊敬できて好き』って言うと、『建前』になるみたいなんだよ。不思議だよねー」
うん、それは確かに。愚痴は『本音』にされるけれど、褒め言葉は何故か『建前』にされる。ううん、不思議だ。
「ヤスもサツキも、発表直前だと言うのにまったく関係ない話の雑談が出来るとは、なかなか落ち着いているな」
「違う違う、どうでもいい話をして気を紛らわせたいだけっすよ……っと、そろそろみたいやね」
先生が合格者が書かれている大きな紙を持ってきて、画鋲を使って掲示板に貼り付けていっている。それにあわせて受験者達がわらわらと掲示板周りに集まってきており、俺たちもその波に乗って掲示板の近くに行く。
「サツキが受かってますように……」
サツキが受かっているかどうかで、俺の残り2年間の高校生活が大きく変わってくる……頼む、受かっててくれ。
「サツキ、サツキの受験者番号は何番なのだ?」
「私ですか? 私は039でしたよ」
「『(39)サンキュー!』か。なかなか縁起がよさそうな数字ではないか」
「いやいや、そこであえて俺はこれ見て『(03)おっさん(9)くさい』って言った。サツキに殴られた」
「……ヤス兄、後でもう1回殴るから」
やめて! サツキ本気で殴るんだから! 痛いから!
……さて、変な話をするのはやめて、合格者番号を見るか……。
002 013 026
003 014 028
005 015 030
007 017 031
009 019 032
010 020 033
012 024 034
……もう少し先か。ふう、なんだか緊張してしまって、該当番号の近くを見るのが怖い。
035
038
039
043
047
048
049
「あった! あったよ、ヤス兄!」
「おお、あった、あったぞ! サツキ!」
ほぼ同時に039の番号を見つける、俺たち2人。
「よかったあ……来年から同じ高校に通えるね、ヤス兄」
「そうだな、サツキ! ほんとよかった……」
どんなに平常心っぽく見せていても、やっぱり合格が決まるまではドキドキしてしまう。すごく安心した……。
「おめでとう、サツキ」
「ありがとうございます、ポンポコ先輩。来年から本当の先輩ですね。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼むぞ。陸上部の期待の新星として待っているからな」
「はい!」
うんうん、よかったよかった……来年からよろしく、サツキ。
こんばんは、ルーバランです。
すみません、最近忙しくて……。
合格発表日はやっぱりドキドキしますね。
自分の書かれているのを見つけたときのうれしさはたまりません(^^
それでは今後ともよろしくです。