361話:サツキ、入試、2日目
今日は3月5日。入試2日目……ドキドキだ。昨日はあまりにドキドキしてなかなか眠れなかった。
「……スー……スー……」
応援する立場の俺がさくっと目を覚まし、試験を受ける本人であるサツキがすやすや寝ているこの状況。ほんと神経図太いなー。俺が起こさなかったら確実に寝坊になる気がするんだけど……いやいや、もしかすると俺が毎回毎回起こすからサツキは信用してすやすや寝てしまうのか。だったら起こさなかったら自分ひとりで起きるようになるのか? ……いやいや、一月放置したことあったけど、あの時は逆に悪化しただけだったよな。
だったら起きないと身の危険を感じるようにしたら起きるのかもしれない。
「サツキー! 起きないと食べちゃうぞ!」
にぎにぎと手を動かしつつ、危ないおじさんのごとくサツキに近づいてみる。
「……スー……スー……」
……効果なしか。だったら次の案だ。
「俺はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの眠気です!」
「……スー……スー……」
……ルパン三世になりきっても、サツキの眠気を盗むことはできないか……まだまだ!
「サーツキーちゃーん!」
となりのトトロに出てくるサツキちゃんの友達Aみっちゃんの声まねをしてみる……俺が女の声だすの、きもいな。
「……スー……スー……」
これだけきもい声を出しても動じず寝続けるサツキ。きょ、今日は手ごわいな。手ごわすぎる……今日もか。
「サツキ、ほ、ほんとに食べちゃうんだからね!」
ちょっとツンデレ風に言ってみる。
「……スー……スー……」
……一向に起きる気配を見せないサツキ……俺、何をやっているんだろう。
「ふんっ!」
「ぐぇっ……」
結局いつものように起こす俺。いつものようにかわいげのない声でうめきながら、起きるサツキ……。まあ、『キャッ』とか言って起きるやつというのは大抵それはタヌキ寝入りに過ぎないんだよな。かわいく起きるなんて出来るわけがないんだ。だまされるな、男達よ。
「ヤス兄……おはよー……たまにはさー、『サツキ、朝ごはんできてるよ。起きてね』くらい優しく起こすこと出来ないの?」
「それで起きるならとっくにやってるよ」
それで起きないから必ずエルボーだったりチョップだったり頭突きだったりで起こすことになるんだよ。
「サツキ、今日は高校入試2日目だからな、頑張れよ」
「あーい……ありがと、ヤス兄……くー……」
……サツキ、寝るなー!
何とかサツキを起こして、無理矢理自転車の後ろにのせて、電車に乗って、大山高校校門前までつれてって……それでもまだ起きようとしないサツキ。な、何で今日はここまで寝起きが悪いんだよ。
「……スー……スー……」
ほら、サツキ起きろって! なんか門番みたいにたってる先生から、ギロリとにらみ続けられてるんすよ。よく言うだろ? 面接だけが試験じゃないんだ。今の状態のサツキ、きっとすごく印象が悪いんだ!
「……にゃははー……スー……」
「笑ってる場合ちゃうだろ!」
「ふえ……あ、ヤス兄……お休みー……」
「違う! 起きろ、起きるんだ!」
な、何とかサツキを起こして校門内まで連れてく事が出来た……今日は面接だけだから帰ってくるのは早い。何故か帰ってくるときには眠気も吹っ飛んだみたいで、しっかり歩いてる。
……家を出る時くらいからそうやってしっかり歩いてろよ、サツキ。
「ヤス兄、高校行っても相変わらずなんだねー。焦ったよ私」
「ん? 何の話だ?」
俺は高校行ってから落ち着いてきていると思っているぞ。
「今日の集団面接でさ、『近藤五月です』って言った瞬間、『ああ、あのヤスの妹……』ってすごく困惑した顔で返事されたんだよ」
……ええと、ごめんなさい。先生達も、俺は俺、サツキはサツキなんだから、『誰々の妹』とか
「ま、それはそれですごく助かったけどね。『うちの兄がものすごーく迷惑をおかけしてます』って言ったら、『おお、わかってくれるかあ!』ってすごくうれしそうに笑いながら話してくれたよ」
サツキの役に立って喜べばいいのやら、そこまで悪評判の自分に悲しめばいいのやら。
「その後は集団面接なのに、延々とヤス兄の話で盛り上がっちゃって。結局私と一緒に面接したほかの4人は受験番号と名前言っただけで終わったんだよね」
……俺でそんなに盛り上がる話ってあったかなあ? ってか他の子の面接もしようよ先生方。
「この前幼稚園で女の子を泣かせて、子供達に袋叩きにあって、最後にはウンコのついたトイレのモップでごしごしされたって話をしたらさすがに『ヤスって不憫なんだな……』って言われたよ」
……はたから聞くと、俺ってものすごいいじめにあってるように聞こえるな。実際はそんなことないつもりなんだが。
「ま、名前書き忘れてたりしない限りは合格しそうだな、サツキ。受験勉強お疲れ様」
「……何でそんな不安にさせるようなことばっかり言うかなあ、ヤス兄は」
あー……すまん。
「ふわぁ……昨日あんまり寝てないから、もう眠くなってきちゃった……不安にさせるようなこと言ったお詫びとして、またヤス兄の背中で寝させてね……」
……そう言うと、俺の背中に乗ってまたスースー寝息を立て始めるサツキ。もしかしてただ寝たかっただけじゃないんだろうか? ……でもまあ、毎日部活に来て、受験大丈夫なのかと思ってたけど、なんだかんだ言って皐月も不安に思ってたり、眠れない夜を過ごしてたりしてたんだな。神経図太いなーとか思って悪かった……まだ結果が出てないから言うのは変かもしれないけど……お疲れさん、サツキ。
こんばんは、ルーバランです。
入試とか、大会とか、大きなイベントがあると、サツキみたいになかなか眠れなくなります(^^
そんな経験はありますでしょうか?
ではでは。