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360話:サツキ、入試、1日目

今日は3月4日、とうとうサツキの入試の日。

3月2日の卒業式は特に泣きもせず、笑いもせず、3年生の先輩と語り合うこともせず、ただ淡々と過ぎていった……周りで大泣きしている人たちを見ると、もうちょっと3年生の先輩達との思い出を作っておけばよかったかもなあとちょっと思った。

昨日、3月3日はせっかくのひな祭りの日だと言うのに、試験前日だからひな祭りパーティも何も出来ないまま、ひたすら試験勉強をやっていた。いつもはみんなでおこしもの作ってひな人形並べて、とやっているのに、今年はひとりでおこしもの作って、ひな人形並べて……なんだかすごくさびしいぞ。

おととしとか、『お雛さまを早く片付けないと嫁に行き遅れる』というならわしを信じて、『サツキは嫁に言っちゃダメなんだ!』と言って、俺が全然片付けようとしなかった年もあったなあ……。


今、朝ごはんを食べ終わって、もうそろそろ出かけようかという頃合い。


「サツキ、筆記用具持ったか?」


「持ったよ、ヤス兄」


「受験票持ったか?」


「持ったよ」


「お金持ったか?」


「……持ったよ」


「財布持ったか? ハンカチ持ったか?」


「持ったってば」


「弁当持ったか? お茶も持ってかないとダメだぞ」


「持ったってば! ヤス兄、しつこい!」


……だって気になるんだもん。心配なんだもん。サツキがどれだけしっかりしていようが、筆記用具忘れてたら答えが書けないし、弁当を忘れたら力が出ない、ハンカチ忘れたらきたない。そもそも受験票を忘れてたら受験できない……不安の種はつきないもんなんすよ。


「ヤス兄、そんなに心配しなくても、昨日2人で確認したでしょ? 何でそんなに不安がるの?」


「サツキ、『石橋をたたいて渡れ』ということわざを知っているか? 何事も慎重に慎重に行動することがいいことなんだぞ」


「……ヤス兄、そこまで慎重にやってたら『石橋をたたいて壊す』ことになるよ? 『あれ準備したかな?』『これ準備したかな?』って不安がって行動が遅くて、気づいたら遅刻確定の時間になってて、結局試験に落ちちゃうんだよ」


……ううむ、サツキの言い分の方が正しい気がするな……うん、んじゃもう今からとやかく言うのはやめておこう。


「んじゃ、全部持ったみたいだし、学校にいこか」


「……え? ヤス兄、ついてくるの?」


「そりゃそうだろ? 何かおかしいか?」


「ヤス兄たちって今日は登校禁止でしょ?」


「そうだぞ。それがどうかしたか?」


「ついてきても学校入れないでしょ? どうするの?」


「そんなもん、校門前まで送ってって、その後サツキの入試が終わるまで待つ」


前からずっと決めてたことなんだ。それのどこか何かおかしいのか?


「ヤス兄、入試の間中ずっと校門前に立ってたら、変質者だよ。通報されても知らないよ?」


「大丈夫だ。校門前で待つなんてバカなまねはしない。前々から行こう行こうと思ってて行けなかった『あしがら温泉』へ行ってきて、サツキが終わるの温泉入りつつ、のんびり富士山見ながら待ってる」


温泉入りながら富士山という絶景を見る。これほど至福なことはないだろう。頭いい、俺。


「……時々ヤス兄ってバカになるよね」


「え? 何で? ものすごくいい思い付きだと思ってるんだけど」


「……まあいいよ。それじゃいこっか、ヤス兄」


アイサー。






「んじゃサツキ、頑張れよ!」


「ありがと、ヤス兄。また後でね」


そういって校門をくぐる。元気よく校舎の中へ歩いていき、だんだんと姿が遠くなり消えていく。

……頑張れよ、サツキ。俺は温泉につかりながら応援しているからな。……さてと、温泉温泉。


あしがら温泉、大山高校から徒歩5分程度でいけるこの温泉。エステサロンやマッサージサロンなども充実しており、首都圏からも近く、日帰りで温泉に入っていくにも最適の場所。犬預かり所もあり、ペット同伴で行っても大丈夫。それよりも何よりもすばらしいのが、温泉に入りながら富士山を一望できると言うその景観の良さ。そんないいところが3時間500円で入浴できる。こりゃもう行ってみるしかない。


……というわけでやってきましたあしがら温泉。まだ建物が出来てからそんなに期間が経っていないのか、それともとても気を配っているからか、とてもきれいな建物。

しっかりと入浴道具も準備してきたし。うむうむ、楽しみで仕方ないな。






平日の朝っぱらだからそこまで混んでない。

今日はしっかり晴れていて、富士山もきれい。毎日見慣れているはずなのに、温泉から見る富士山はまた違う。


ちゃぽーん……湯船の中に足からすっとはいり、肩までつかる……そんなに熱くなくて、ちょうどいい温度。これならいつまででも入っていられそうだ……はぁ……気持ちいい。


「いやあ、極楽極楽」


高校のこんな近くにこんないいところがあって、何で今まで来なかったんだろうなあ。もったいない。


「ババンババンバンバン、アービバビバババンババンバンバン♪」


ついつい鼻歌を歌ってしまうこの気持ちよさ。いい湯だなあ……。







1時間経過。


「……飽きた」


どんなにいい景色でも、ただただポワーッとひとりで1時間も見続けていたら飽きる。ケンでもつれてこればよかったな……だが、まだサツキの試験が終わるまでにはすごく時間がある。





2時間経過。


「……熱い」


最初は気持ちよかったこの温泉も、2時間も入り続けていたら熱い。まるでユデダコになったようだ。だがまだまだサツキの試験が終わるまで、すごく時間がある……どこかへ移動するか? いや、このあたりで他に時間をつぶせそうな場所ってないよな……どうしよう。



3時間経過。


「『飴はあめえなあ』『ん? 雨は甘くないぞ? 最近の雨はすっぱいんだぞ』『それは酸性雨だろ!? 飴だよ飴!』『そうか、すまん。けど、最近の地球規模の環境問題は怖いよな』『そうだな、コンクリートがまるで飴みたいに溶けるもんな』『だよな……せめて神にでも祈っとこうぜ。あーめん』『……もうええわ』」


だめだ、コントを考えようにも、熱くて頭が回らない。キレがねえよ。



4時間経過。


「……」


……言葉もない。何で俺は1人我慢大会をしているのか。何故俺はケンを連れてこなかったのか。








「ヤス兄、お待たせー」


「……」


「試験、ばっちりだったよ! 明日の面接頑張るだけだね!」


「……」


「……ヤス兄?」


「……のぼせたんです……」


サツキが朝、俺に対して『バカ』って言ったのはこういうことだったんだね。6時間もひとりで温泉に入れるわけがないじゃないですか……。

くそう、今度はケンも巻き込もう……。

こんばんは、ルーバランです。


おこしものって愛知県の郷土菓子らしいですね。知りませんでした。

知らない方は下記から見られます。


http://heart-bridge.jp/recipe/detail/2434


それでは今後ともよろしくです。

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
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