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359話:バイキンなんてへっちゃらさ

今回の話は、食事をしながら読むと不快になるかもしれません。

ご注意ください。

今日は2月28日土曜日。明後日は卒業式。

……といっても、3年生の先輩達で誰か思い出深い人がいるわけじゃないので、ただただめんどくさいだけ。

サツキの中学の卒業式はもっと後、3月19日とか言ってた。終了式と卒業式は同じ日に行うと言う、春休みが1、2年生より長いと思っていた3年生にとってはやってられない日程になっている。


……とまあ、そんなことはどうでもいい。何で俺はこんなところにいるんだろう……。


「ほらヤス兄、そろそろ出番だよー」


分かってるよサツキ……。


「それにしても、ヤス兄大人気だね。まさか西森先生から『ムムちゃんの幼稚園に来てくれ』なんて言われて、お楽しみ会に参加することになるなんてね」


……とても説明的なセリフをありがとうサツキ。


「ずいぶん前に暗号文ラブレターをヤス兄に送ってからさっぱり音沙汰なしだったけど、元気にしてるんだねー」


そだね……。


「ヤス兄ってば、ドヨーンとしすぎだよ。もっと元気な顔をしてないと。それじゃ子供達がっかりだよ」


「いやいや! だっておかしいだろ!? 俺、西森キキ先生から苦虫を噛み潰したような顔で『明日……幼稚園に……来い!』とだけ言われてさ、のこのこついてったら、なんで芝居をやらないといけないんだ!?」


「急に劇団員さんたちがこれなくなっちゃったんだからしょうがないでしょ?」


「そうなんだけどさ……くっそお……覚えてろ、名も知らぬ劇団員共め」


「ヤス兄、悪役っぽいよ。役にはまってるよ」


くっそお、どうせやるなら正義の味方の役をありたかったな。今回は俺が悪役をやって、サツキが正義の味方の役。


「さあそれではお待ちかね、コンドコンド劇団の皆様による、『バイキンなんてへっちゃらさ』を始めます」


パチパチパチパチ!!!


……す、すごい拍手だな。即興で俺とサツキが作った劇なんで、そんなに期待しないで欲しい。


「ほらヤス兄、出番だよ」


「アイアイさー」







「ふははははははは! 幼稚園の子供達、こんにちは!」


『こーんにーちはー!』


まずは舞台の上からご挨拶、そして遊戯室のいろんなところに座っている園児達から返事が返ってくる。

うお、めっちゃ元気だ。すばらしいな、子供達。


「わー、へんなかおー」


「かおがまっくろだー、ヘンなマントー」


「空飛べる? 飛んで飛んでー!」


「うっわー、だっさー」


……前言撤回。ダサくて悪かったな。


「ふっふっふ、元気な子供達ではないか。だが、そんな元気もこれから俺さまが奪い取ってやろう……俺さまはバイキン王国から来た」


「バイキンマンだろお!」


……違うよ。ちびっ子、セリフを上からかぶせないでくれ。


「俺さまをあんなちんけなバイキンマンと一緒にするな! 俺さまはバイキン魔人さまだあ!」


『おおおお!』


お、なんだか盛り上がってるではないか。


「俺さまの特技はよわよわしいお前らみたいなやつらを病気にさせて、ひいひいさせること」


『しょっぼー!』


……なんかムカつく。


「ふっふ、しょぼいと言ったそこの子よ。俺さまの部下はここにもそこにもあそこにもどんなところにも潜んでいるのだ。もちろんお前の手のひらにも口の中にも……見えないだけでそこら中にいるのだ」


「だからー?」


「さらにさらに、俺さまの手はついさっきウンコをしたのに手を洗っていない手だ」


「きったなー!」


「ばっちー!」


「あっちいけー!」


……サツキ、こんなセリフ言わせないでくれよ。


「俺さまの手にはバイキンがいっぱいだあ! この手でお前らをおそってやるぞー!」


そう叫んで舞台から飛び降りて園児に向かって走り出す俺。子供達は慌てて立ち上がり、自分から遠ざかろうと遊戯室の中を逃げまどう。


「うわー!」


「はっはっは! ほうら、つかまえてやるぞー!」


「こっちくんなー!」


「このへんたいー!」


くそお、なんかすっげえ心に傷が残りそうです。何で俺はこんなにけなされながらこんなことをやっているんだろう?

……そうやってドタバタと走りまわっている間に、ひとりの女の子を部屋の隅に追い詰める俺。


「ふぇっふぇっふぇっ。追い詰めたぞ。この俺さまのバイキンだらけの手に毒されて、お前もバイキンだらけになるがいい!」


「う、ううう、ううううう……ひっ、ひぐっ……」


あ、あれ……? や、やりすぎた?


「ふええええええん……」


や、やばい! どどど、どうしよう?


「そこまでよ、バイキンマン!」


「だ、誰だ!?」


ナイスタイミングだ、サツキ! だが俺はバイキンマンじゃない! バイキン魔人だ!


「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、バイキンマンを倒せと私を呼ぶ! 愛と正義を希望の名の下に、みんなのおててのきれいな味方、セッケンマン、ここに参上!」


モップを右手に、洗剤を左手に持って、何故かネコミミつけて、現れたサツキ、もといセッケンマン。

好きに叫んでいいとは言ってたけど、その登場シーンはないと思う……。


「わあ! セッケンマンだあ!」


「セッケンマン! バイキンマンなんかやっつけろー!」


……何だこの人気の差は。やっぱりウンコか? ウンコして手を洗わなかった発言がここまで俺の人気をおとしめたのか?


「ウンコをしたにもかかわらず、手も洗わない、足も洗わない、おしりもふかない、ウンコも流さない、そんな極悪非道のバイキンマンは、このセッケンマンがぴっかぴかに磨いてあげましょう!」


「誰もそこまで言ってねえよ! ウンコは流した!」


「……うわあ、おしりふいてないんだー」


「きったねー!」


ふいたよ! 何でそうなるんだ!?


「さあ、覚悟ー!」


洗剤を俺にぶちまき、モップで俺をごしごしとこするセッケンマン……いたい、いたい! サツキ、頼むからもうすこしやさしくこすってくれ!?


「やめろー! 俺はきれいになるのが大嫌いなんだー!」


「ダメよ! 汚いままじゃ、いろんな病気にかかりやすくなっちゃうんだから! きれいにすること、それが私のお仕事!」


「うーわー……体がきれいになっていくー……体がきれいになって力が出ない……やられたー……ばたっ」


効果音を口に出しながら倒れる俺。


「わーい! バイキンマンをやっつけたぞー!」


「ざまあみろバイキンマン! りかちゃんをなかせやがってー!」


なんだかわらわらと子供達が俺の周りに集まってきて、ゲシゲシと足蹴にされる……悪役ってつらいよ。


「さあさあみんな、このバイキンマンはやっつけたよ。でも、いつまたこんなバイキンマンがあらわれるか分からない。でも、バイキンマンはきれいにされるのがとっても苦手なんだ! みんなもご飯を食べる前や外から帰ったら、手を洗ってきれいにするの! そうすればバイキンマンなんか怖くないんだから!」


「わかったー!」


「ありがとー、おねえちゃん!」


「違うよ、私の名前は、『セッケンマン』!」


……はまってんなあ、サツキのやつ。


「ありがとー、セッケンマン!」


「礼には及ばない。それではまた会う日まで、さよなら!」


『ばいばーい!』


……子供達に手を振りながら去っていくセッケンマン、もといサツキ。


「はい、コンドコンド劇団のみなさん、ありがとうございました。みんな、もう1回大きな拍手をどうぞ!」


パチパチパチパチ!


ふぅ……なんとか成功っぽいな、よかったあ。

……あれ? 俺ってこっからどうやって退場すればいいんだろう? 子供達に取り囲まれて、逃げるに逃げられないし、生き返るわけにも行かないし……しまった、ここから考えてなかった!


「あ、バイキンマンまだ死んでるー」


……生きてます。ついでにバイキンマンじゃなくてバイキン魔人なんだけど……もうどうでもいいや。


「バイキンマン、どうするー?」


「コテンパンにやっつけちゃお!」


やめてやめて! 幼稚園児でも思いっきり蹴られると痛いんです!











……結局ぼこぼこに蹴られる前に、保母さんたちが止めてくれた……ありがとうございますです。


「面白かったねー、ヤス兄」


「俺はそこらじゅうが痛い……」


それを差し引いてもまあまあ楽しかったからいいけど。


「でもさヤス兄、やっぱりウンコはちゃんと水に流さないとダメだよね」


……まるで俺が普段から流し忘れているみたいな言い方をするなよサツキ。


「あ、ありがとうございました。おかげで助かりました」


保母さんの一人が俺達にお礼を言いにやってきた。


「いえいえ、私達も楽しくやりましたし。ね、ヤス兄」


ま、そやね。


「ところで……劇で使ってたあのモップなんですけど……あれ、トイレ用のモップだったんですが」


「……」


「……」


ってことは今俺の体は、オシッコとかウンコをふいているモップでごしごしされたって事か? ……何で新品を使ってくれないんだよ。


「……」


「……サツキ?」


「あ、あはははー……ごめんね、ヤス兄。これもウンコと一緒で水に流してよ」


……誰がうまいことを言えと。さすがに流せねえよ。

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