35話:集団宿泊研修2日目
あの後、そのまま朝の集いに行き、職員さんの話を聞いて、朝食となった。
眠いのだが、自分が悪いのだから仕方が無い。
眠気を押さえ、あくびをかみこらえながらもそもそと食事をとる。
食べ終わって、後は今日はクラス対抗鬼ごっこと言うのをやるらしいのだが、なぜか先生に呼び出された。
「なんなんだろうな……」
独り言をいいながら、学年主任の先生のいる部屋にノックして入る。
「失礼しまーす……」
学年主任の先生の部屋には机と紙の束。ええ、すごい嫌な予感がしてます。
「えっと……。何で呼び出されたんですか……?」
「…………分からないのか?」
「えと……、さっぱりなんですが」
「お前、昨日から今日にかけて何したのか覚えてないのか!?」
「飯ごう炊飯でカレー作って、校歌歌う練習して、隠し芸大会をしました」
「それは一般の生徒だ!お前は、小火を起こし、深夜に勝手に部屋を抜け出し、さらには不純異性交遊までしてただろう!!!」
「ちょっと待ってください!最後のは誤解です!しかもその事については全部関係者に謝罪しましたよ!」
そう、小火の後はここの職員全員に謝罪し、先生方にもひとりひとり謝って回り、学年全員の前で土下座までしたんだ。
今日の朝だって、朝の集いで前に行って、謝罪の言葉を5分ほど述べた。
まだ何かしないといけないんだっけ?
「あれだけでは足りない。しかも、小火を起こしときながら、全く反省もせずに次の問題を起こしているんだ……、謝罪の言葉は信用できん」
「……すみません……」
それを言われるときつい……確かに反省していないように見えるから。
「と言う訳で、しっかり反省できるように、今から反省文を書く事。最低でも50枚は書けよ。私が読んで合格と思うまで、書き続けてもらうからな」
はぅ!先生、それはきついです!50枚って何を書けばいいんですか!?
「他の2人も別室で同じ事をしているからな。2人は10枚で済ませているが」
そんな、差別です!
「2人はお前と違って関わっているのは1つだけだからな。それに免じて減らしている。」
言い返せん……その通りだし。
「俺は鬼ごっこに行くから、帰ってくるまでに書ききっておくこと。分かったな」
今9時で、こっちに戻ってくるのが12時らしいから……無理っす!3時間で50枚ってそんな事できる人いないです!
「……はい……」
でも言い返せなかった俺、ヘタレすぎる……。
何とか1時間かけて12枚終わらせた。だが、このペースでは間に合わない。さらにペースを上げないと!
と、ノックが聞こえた。え!?早すぎるよ!
「こんにちはー、ヤス君います?」
入ってきたのはアオちゃんだった。後ろにポンポコさんもいる。
「どしたの?俺、今話してる余裕無いんだけど」
俺は顔も向けず手も止めずに、口だけ動かす。
「あの、私こういうの書いた事無いんですよ、だから何を書けばいいか分からなくて、教えていただけませんか?」
「無理。時間がない」
「そんな事言わないでください。ヤス君だけが頼りなんですよ」
「ポンポコさんがいるじゃん、2人いるんだから何とかなる」
「……ヤス、私もこう言うのを書くのは苦手なのだ。私は読むのは好きだが、書くのは苦手でな。いつも読書感想文等は、兄達に頼んでいた」
それ駄目じゃん!いや、俺もサツキの宿題手伝いまくってたから人の事言えんのだが……。
「頼む、ヤス」「お願いします。ヤス君」
捨てられた子犬の目をするな!その目をするのはヤマピョンだけで十分だ!
「…………まずは書く事が大事なんだよ。一言でも何でもいいから」
仕方ないから少し教えてやる事にする……少しだけだからな!!
「だから、それが書けないんですよ」
アオちゃんはこう言うの出来そうだと思ってたんだけど、苦手な物ってあるもんだな。
「いい言葉で書き始めようと思うから上手くいかない。とりあえず、『ごめんなさい』『すみませんでした』でいいから書いてみろ」
「うん」
「ふむ、わかった」
2人がそれぞれ返事をする。
「書けたか?そしたら、今回の場合は、自分たちが起こした状況を初めから書き始めるんだ。アオちゃんだったら、『薪をたくさん入れたら火が小さくなってしまい、慌てて火を大きくしようとして油を入れました。火が燃え上がり……』と言うように書き始める。ポンポコさんも同様だ。何故初めの状況から書き始めるかと言うと、まとめやすいからだな。ポンポコさんだって三国志について話す時は、最初の所から話をした方が話しやすいだろ?」
「ふむふむ、なるほどです」
「ヤス、わかった、それでどうするんだ?」
「1場面毎に、問題点を書く。ここはこうしておけばよかったってな。ポンポコさんの場合は、『ヤスが、「ポンポコさん、少し話してかない?今戻っても、まだ部屋の連中は騒いでる気がするし」と誘った時に、きちんと断って帰ればよかった』など、書いておくといい」
「待て、それは別に反省していないぞ」
「いいんだよ。こういうのは先生が喜ぶって思うのを書くんだ。そうしないと、いつまでたっても書けないぞ」
「それは……嘘を書くのも、終わらないのもどちらも嫌だな……仕方ない、ヤスのいう通りにしよう」
「このような形式的な反省文ではなく、ちゃんとした反省をする場合は、そんな事はするな。よくないと思った事をきちんと書く。また、問題点だけではなく、良かった点も書いておくといい。悪い所ばかりに目がいって、自分がしょぼいんだと思わされるからな。」
「ふむ、わかったぞ」
「ついでに、ここが悪かったってばかり書いてても、次どうしようって事まで書いてないと、何も変化しないまま終わる。ちゃんと、今後こうなる為にこうするって所まで書いておかんとね」
「…………ヤス君、詳しいですね」
「……中学生の時も色々あったからな……」
ほとんどはケンとサツキにはめられた物ばっかりだったな。次はこうするって思って、実際にそうしてみても、先読みするんだよなーあいつら。
あ、なんか悲しくなってきた…………。
「……ヤス君、ここなんですが……」
「ああ、それは……」
「ヤス、この部分の書き方を教えてくれ」
「それはそう書くんじゃなくて……」
約2時間かけて、2人は書き終えた。何とか終わった、ありがとうと言って、帰っていく。うん、終わってよかった。
なんか忘れているような……。
「おい、反省文書き終わってるんだろうな」
ん?学年主任?反省文?…………まずいっ!!!!
「おい、まだこれだけしか書けてないのか!?」
「いや、これは色々ありまして……すみません」
やってないのは事実だからなー。なんか理不尽な気がするが。
「そのやる気の無さは問題だな。反省文100枚にしてやるから、月曜の朝までに書いてくる事」
「無理です!100枚なんて書いた事ありません」
70枚ならあるけど!
「無理でもやる事。出来なかったら1日ごとに50枚増やすからな」
何を書けと!?
「宿泊研修はもう終わりだ、バスに乗って帰ってさっさと取りかかれよ」
「……はい……」
日曜日、つぶれたな……。