347話:鬼は外
2月3日火曜日、今日は節分なり。家に帰ったら恵方巻きでも買って食べようかな。
まあ、今はそれよりも部活部活。ふぅ……アップも終わって、今から本練習開始だ。
「ヤスヤスう! 鬼ごっこやろお!」
……ええと、今日は15キロだったよな。
「ヤスう! 今から鬼ごっこやるんだあ! ヤス、参加しろお!」
変な声が聞こえたけど、きっと幻聴だよな。もしくは空耳だ。よく聞こえる空耳だなあ……うん、さっさと15キロ走って帰ろう……今日はサツキ、こっちに来れないからな。
サツキが家に帰る前に家にいたい。
「ヤスう! 無視するなあ! 早く鬼ごっこするぞお!」
……ええと、今って部活の時間だよなあ。なんで鬼ごっこをするんだろ?
「ヤス……何でボク無視するんだよお? ボクのこと嫌いかあ?」
嫌いなやつをわざわざ家に泊めたりなんかしないが……ってかなんで部活中に鬼ごっこをするんだろう?
「はああ……しょうがないやあ……ボク、1人鬼ごっこでもしようかなあ」
「ごめん! 無視して悪かった! 鬼ごっこしよう! すぐにしよう、今しよう、だから1人鬼ごっこなんてやらないで!」
「ど、どうしたんだあ? 1人鬼ごっこってそんなに驚くような遊びなのお?」
「い、いや……知らないならいいんだ……」
ああ、びっくりした。降霊術をもしかしてやろうとしているのかと思った……。
1人鬼ごっこって別名ひとりかくれんぼ……こっくりさんとかエンジェル様とかど同様の降霊術のひとつ……取り返しのつかないことになりかねない遊び。
……ユッチ、知らないとはいえ怖いことを言わないでくれよ。
「ところでユッチ、他に参加者は?」
「ボクとヤスだけだよお」
「……うん、また今度やろうな。今は部活の時間だし」
1人鬼ごっこは危険だと思ったけど、2人鬼ごっこもありえないと思う……どんな鬼ごっこだよ。鬼ごっこというのは基本的には足の速い人が勝つようなルールになっている。
2人鬼ごっこじゃどっちかがずっと鬼になるというとてもつまらない状況になるんじゃなかろうか。やっぱり鬼は複数いないと面白くないよな。
人数がいるから作戦が広がる。待ち伏せや挟み撃ち、はたまた鬼じゃないふりをして相手を捕まえる等など、何でもござれ。
やっぱり鬼ごっこは最低でも6、7人くらいはほしいよな。
「大丈夫だよお、鬼ごっこって走り回るんだから、部活の練習代わりにはもってこいだよお!」
「……そうかもしれないけどな。なんで俺とユッチだけなんだよ」
「ヤスはボクと2人じゃいや?」
……ええと……なんと返事をすればいいんだ? 『いや』って返事したらめっちゃユッチ傷つきそうだし……かといって『うん、俺もユッチと2人っきりがいい』とか返事するのもなあ……うわ、きもっ。鳥肌が立ってきた。
「あはは、うそだよお。短距離はみんな参加してもらうつもりなんだからあ。だからヤスも鬼ごっこやろうよお!」
「……ううん……まあいいけど……ってかなんで鬼ごっこをやりたいんだ?」
「節分だからに決まってるじゃんかあ! 節分と言えば鬼ごっこだよ!」
「……そうなのか?」
知らなかった。節分といえば豆まきと恵方巻きとヒイラギの3つくらいかと思っていた。
「ヤスってば知らないのお? おっくれてるう! 節分に鬼ごっこをするのなんて常識じゃんかあ」
「……常識、なのか?」
そんな常識初めて聞いた……。
「それじゃあ、他の人も誘ってくるからあ!」
そう言ってユッチは短距離人が集合してるところに走ってった。
っていうか、なんでユッチは俺を最初に誘うんだろう?
「よおし! それじゃあ、鬼ごっこをやろお!」
パチパチパチパチ……。
乾いた拍手が集まったメンバー内で響き渡る。参加者はケン、アオちゃん、ポンポコさん、ゴーヤ先輩、キビ先輩、それとユッチと俺の総勢7人。ユッチの勢いに押されて参加した面々だ。
「鬼は……ヤスやってくれない?」
「俺?」
「うんうん! ヤス用にお面も作ってきたんだからあ!」
右手に持っているのは手作り感あふれる角が2本の赤鬼さんのお面……まさか、昨日めずらしく家に泊まらずに自宅に帰ったのってそれを準備するためだけなのか?
……遊びにそこまで情熱を燃やすユッチって……すごいな。
「んじゃ、俺が鬼やるよ」
ユッチから手渡されたお面をつける……このお面、視野が狭いな。めっさ見づらい。
「みんな、豆持ったあ? ヤス、ボクたちが10秒数えるから頑張って逃げてねえ」
……ええと、なんか変な言葉が聞こえたような。そしてみんなの手には袋いっぱいに詰められた豆。
「……は? 何言ってるんだユッチ? 鬼ごっこといえば、鬼は追うほうでお前らが逃げる方だろ?」
「あれ? ヤス知らないのお? 節分の日だけは、鬼は追われる方に変わるんだよ? その日の鬼ごっこは鬼が逃げるんだあ」
……え? 何そのルール? そんなルール絶対にないだろ。 ってかそれじゃただの豆まきじゃん。
『いぃち! にぃい!』
俺が納得する前にみんなして10秒数えだした。
はああ!? ちょっと待て待て!
『さぁん! よぉん! ごおお! ろおく! ななあ! はちい!』
うっわ、こいつらとまらねえ! もう逃げるしかない!
8まで数えられた時点から逃げ出した俺……やっばい、全然逃げられてない。
「じゅう! 鬼! 待てえ!」
うっわ! これどんないじめだよ!
……結局、必死に逃げたけど散々に豆をぶつけられた。なんだか節分が嫌いになりそうになった、そんな日だった。
こんばんは、ルーバランです。
仕事がちょっと忙しくて書いてる暇が……すいません。
それでは今後ともよろしくです。