344話:ユッチ、勉強、はじめ!
「と言うわけでユッチ、勉強すっぞ!」
「……何があ?」
いつものように家に転がり込んでいるユッチ。サツキが受験勉強をしている前で、コタツに入って『お茶にごす』を読みながらけらけら笑っていた。どれだけ受験勉強の邪魔をしているんだ……頭いてえ。
……なんで自分の家にいるみたいにしてんのとか、もうそのことに関しては何も言うまい……。
「今日アオちゃんから聞いたけど、ユッチって実は留年するくらい成績がやばいんだって?」
「そそそ、そんなことないよお!」
あせるところが怪しい……。
「大丈夫なんだな。それは本当なんだな。アオちゃんもポンポコさんも、ユッチの勉強の手伝いする気はないって言ってたぞ」
「ええ! アオちゃん助けてくれないのお!?」
アオちゃんに助けを求める気満々かよ……人頼みはダメだろ。ってかまったく勉強をしていないこの状態じゃ助けようがない気がする。
「ユッチ、もう一度聞くぞ。本当に留年しないんだな?」
「う……ううん……ちょっとだけ危ないのもあるけど、たぶん何とかなるよお」
「よしわかった。んじゃ別にほっといても大丈夫だな。とりあえず俺とサツキは勉強してるので、静かにしてろよ」
「ああ! ごめん、ボクが悪かったよお! 勉強教えてよお!」
ごめんユッチ……教えてと言われても、一緒に勉強をするだけで、教えることは無理っす。
「ちなみにユッチ、ちょっとだけ危ないのってどの教科なんだ?」
「……え、英語お……」
……今の俺、そんな怖い顔してるんだろうか? そこまでユッチにびくびくされるような言い方はしてないと思うんだけど。
「了解、英語だけだな。んじゃ英語だけ集中的にやろう」
「ああ、ごめん! 数学もなんだあ!」
「おしわかった、英語と数学だけだな、無理してでも英語と数学の得点をあげるぞ」
「む、無理するのお? だったら勉強したくないなあ……」
……どれだけ勉強嫌いなんだユッチは。いや、勉強好きな人なんてそうそういないと思うけどさ。
「留年はしたくないだろ?」
「うぅ……それはそうなんだけどお……でもでも、大丈夫だよお! 春休みに学校に通えば大丈夫だって聞いたもん!」
おいユッチ、もう補習を受ける気満々かよ。
「ユッチ、補習を受けるって言うことは部活にもこれないし、遊びにも行けないし、毎日勉強付けの日々が待っているって事だぞ」
「ええ!? 部活にいけないのお!?」
そりゃそうだろ。補習やってる間に部活があるんだから。
「じゃあ、急いで勉強しないと! ちょっと本買ってくるう!」
「ちょっと待てユッチ! 教科書も問題集もあるだろ? いまさらこれ以上何買ってくるんだよ?」
「『ドラゴン桜』」
「……」
「……」
「……あ、あれえ? 何かボクへんな事言ったあ? ドラゴン桜を読めば東大合格できるような勉強方法が載ってるんでしょお!?」
「……」
「……」
「ねえねえ!? 黙ってないで何か言ってよお!?」
「なあサツキ、ユッチに何か言ってやってくれよ」
「えっとー、なかなか言うの難しいよ?」
「大丈夫、ユッチならほんとの本音を言っても大丈夫だ。心で思った事をまんま言ってやれ」
「えっと……ユッチ先輩、『ドラゴン桜』なんか読んだって、絶対に東大合格なんてできませんよ?」
「えええ!? なんでだよお?」
「ドラゴン桜を読めば東大合格できるなら、東大合格者がわんさかですよ。そもそもあそこに書いてある勉強法なんて『できる人』の勉強法なんですから、『できない自分たち』がいくらやったって全然伸びるわけないじゃないですか。ビートルズを100万回聞いたとしても、文法が覚えられるわけがないんですよ。聞いてるだけで文法が覚えられるんだったら、中学の塾でも学校でもそこら中でビートルズが流れてるはずなのに、そんな風景見たことないですよ。メモリーツリーを書いて誰でも単語が覚えられるんでしたら、『誰でもさくさく覚えられるようになる記憶術』みたいなタイトルの文庫本が一向になくならないのはなぜなんでしょう? 古典の漫画を読んでるだけで古文が覚えられるんでしたら、誰もレ点を覚えたりありおりはべりいますがりを覚えるのに苦労なんてしませんよ」
「あ、アリオリハベリイマソガリ……?」
こ、国語は大丈夫なんだよな? 5教科全部やばいなんていわれたら時間が足りないっすよ?
「あの漫画はきれいなところだけを見せた漫画ですよ。東大合格だーって話で進めてますけど、特進クラスにいるのってたった2人じゃないですか、残りの大多数の学生は学費だけ払わせて適当に扱ってるんですよ。『宇宙人』と『普通の人』の中間層にいる『できる人』だけを扱った漫画だと私は思います。そういえばあの基礎クラスの人ってどうなったんだろうね、ヤス兄?」
さあ? どうなったんだろう?
「ユッチ先輩、『ドラゴン桜』を買いに行ってる暇があるんでしたら、とりあえず英単語1個覚える方が有効ですよ」
「あ、うん……」
おお、言い負かしてしまった……ユッチの小さな背中がいつも以上に小さく見えるぞ。
「私としてはユッチ先輩が同級生のほうが楽しそうですから、ぜひ留年してほしいですけど」
「ぼ、ボク勉強するう! 絶対進級してやるんだからあ!」
後輩と同級生って嫌そうだもんなあ……。
「じゃあヤスう! 先生よろしくう!」
……ええ? 俺が先生すんの? 誰かに教えられるほどの頭はありませんっす……。
こんにちは、ルーバランです。
ドラゴン桜ファン、ごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。